行動制限緩和で期待される効果

~個人消費を月+6,300億円程度押し上げの可能性~

永濱 利廣

要旨
  • 過去のGDPにおける個人消費と消費総合指数に基づけば、2021年7~8月の個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合と比べて▲1.1兆円程度下振れし、4回目の緊急事態宣言は1日当たり個人消費を▲210億円程度押し下げたと計算し直される。そして、仮に行動制限緩和でこの抑制効果が完全に解除されれば、ひと月当たり+6,300億円程度、年間で+7兆円を上回る個人消費の押し上げ効果が期待できることになる。
  • 旅行や鉄道、航空、百貨店業界などは、10月から緊急事態宣言解除により接種済みの人を中心に外出や県をまたぐ移動も原則認められることになれば、それぞれの需要も徐々に回復に向かうことが期待される。特に旅行等は人間の根源的な欲求であり、オンライン化で代替することができないことからすれば、コロナショック以降も旅行に対する潜在的な需要は大きく変わらないだろう。このため、コロナ禍で事業縮小を余儀なくされながらも耐え抜いた企業は、コロナショック以前よりも業績を拡大させることが期待される。
  • しかし、ワクチン接種率が進んでもブレイクスルー感染の可能性もあるため、新型コロナウィルス感染により医療現場がひっ迫してしまっては、行動制限を余儀なくされる可能性もあろう。このため、岸田政権には海外のように臨時の医療施設を増設することなどにより、感染者数がある程度発生する中でも行動制限を発出しなくても済むような医療体制の強化が不可欠となろう。
  • 究極的には、日本国民の新型コロナウィルスに関する恐怖心が季節性インフルエンザ並みに低下しない限り、移動や接触を伴う経済活動が完全に戻ることは困難。こうしたことからすれば、一刻も早いより効果的な治療薬の開発・普及を急ぐことで、新型コロナウィルスに感染しても一般の開業医などで迅速に診断・薬の処方で対処できるような体制を構築することが求められる。
目次

4回目の緊急事態宣言で個人消費▲210億円/日

10月1日から緊急事態宣言が解除された。これによって接種済みの人を中心に外出や県をまたぐ移動も原則認められることになるため、飛行機や鉄道を利用して遠出をすることが可能となり、苦境に立たされている観光業界や百貨店等も潤うはずだ。すでに、緊急事態宣言解除前から観光業ではワクチン接種者を対象とした旅行プラン等が実施されており、行動宣言が緩和されれば、利用者は増えることだろう。

実際に過去のGDPにおける個人消費と消費総合指数に基づけば、2021年7~8月(発出期間は7月12日~)の個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合と比べて▲1.1兆円程度下振れしたと試算される。このため、4回目の緊急事態宣言は1日当たり個人消費を▲210億円程度押し下げたと計算し直される。そして、仮に行動制限緩和でこの抑制効果が完全に解除されれば、ひと月当たり+6,300億円程度、年間で+7兆円を上回る個人消費の押し上げ効果が期待できることになる。

月次個人消費の推移
月次個人消費の推移

最も恩恵が大きそうなのが旅行業界

特に、経済産業省のデータによれば、直近の旅行や鉄道、航空の活動指数および百貨店販売額指数の季節調整値はコロナショック前の2019年1月からそれぞれ19.2%、67.6%、32.8%、71.8%まで落ち込んでいる。10月から緊急事態宣言解除により接種済みの人を中心に外出や県をまたぐ移動も原則認められることになれば、それぞれの需要も徐々に回復に向かうことが期待される。

各業界の活動指数
各業界の活動指数

とはいえ、ワクチン接種をしても完全に感染を防御できるわけではないため、早期にコロナショック前の水準に各需要が戻ることは考えにくい。しかし、特に旅行等は人間の根源的な欲求であり、オンライン化で代替することができないことからすれば、コロナショック以降も旅行に対する潜在的な需要は大きく変わらないだろう。このため、コロナ禍で事業縮小を余儀なくされながらも耐え抜いた企業は、コロナショック以前よりも業績を拡大させることが期待される。

特にコロナ禍では、非日常的な体験が制約されたこと等により、日銀は家計に20兆円規模の強制貯蓄が発生したと試算している。このため、アフターコロナではコロナショック前よりも比較的贅沢な消費が選好される可能性があろう。

しかしながら、ワクチン接種率が進んでもブレイクスルー感染の可能性もあるため、新型コロナウィルス感染により医療現場がひっ迫してしまっては、行動制限を余儀なくされる可能性もあろう。このため、岸田政権には海外のように臨時の医療施設を増設することなどにより、感染者数がある程度発生する中でも行動制限を発出しなくても済むような医療体制の強化が不可欠となろう。また究極的には、日本国民の新型コロナウィルスに関する恐怖心が季節性インフルエンザ並みに低下しない限り、移動や接触を伴う経済活動が完全に戻ることは困難だろう。こうしたことからすれば、一刻も早いより効果的な治療薬の開発・普及を急ぐことで、新型コロナウィルスに感染しても一般の開業医などで迅速に診断・薬の処方で対処できるような体制を構築することが求められる。


(*)本稿は週刊エコノミスト10月19日号への寄稿をもとにリバイス。

永濱 利廣

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済長期予測、経済統計、マクロ経済の実証分析

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