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2021.04.08
日本経済
新型コロナ(経済)
所得・消費
緊急事態宣言の個人消費への影響、一回目と二回目の相違点
~時間・業種・地域、3つの点から生じる消費抑制効果の違い~
小池 理人
- 要旨
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- 二度に渡る緊急事態宣言が日本国内において発令されたが、消費への抑制効果は二回目では限定的なものになっている。
- 二回目の緊急事態宣言では、人出の抑制効果は夜の時間帯に集中している。パブ・居酒屋といった夜を主戦場とする店舗では依然として売上減が目立つが、ファミレスや喫茶店などでは落ち込みは限定的となっており、衣類や化粧品等外出を前提とした財消費の回復もみられた。
- 自粛要請対象となる業種も絞り込まれ、二回目の緊急事態宣言においては映画館やプロスポーツといった興行関連への消費の減少幅が限定的なものにとどまった。
- 一回目の緊急事態宣言がピーク時に47都道府県を対象にしていたのに対し、二回目では最大11府県への適用にとどまっており、対象地域の違いも消費への悪影響を緩和したものとみられる。
- 足もとの感染状況悪化を受けて、今後も行政による経済活動への抑制が強まることが想定されるが、その場合には過去の緊急事態宣言の効果を精査し、より費用対効果の高い施策が求められる。
〇消費抑制効果が限定的であった二回目の緊急事態宣言
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年4~5月と2021年1月~3月、2度に渡る緊急事態宣言が発令された。緊急事態宣言下では、感染抑制のために経済活動に制約が課されることになり、宣言期間内には個人消費にも大きな影響がみられた。緊急事態宣言発令時における消費の減少は、消費活動指数によっても示されており、一回目の消費が急激に落ち込んだのに対し、二回目については減少幅は限定的なものにとどまっている。この違いは、二回目の緊急事態宣言が、一回目の全方位的なものから、より絞り込まれたものに変化したことによって生じていると考えられる。
二回目の緊急事態宣言においては、人出への抑制効果が夜の時間帯に絞られていた。内閣官房・経済産業省が公表するV-RESASによると、一回目の緊急事態宣言発令時には全ての時間帯で人出が抑制されていたのに対し、二回目の緊急事態宣言発令時においては18時~24時の夜の時間帯の人出抑制が中心となっている。一回目の緊急事態宣言発令時には、新型コロナウイルスという未知のウイルスに対しての人々の警戒感も強く、企業や店舗も出社人数を強く制限するなど、人出に対する抑制効果が極めて高いものであった。一方、二回目の緊急事態宣言では、自粛要請の対象範囲が飲食店の夜間営業を中心としたものであったこと、感染症に対する人々の慣れなどから、人出に対する抑制効果が夜の時間に限定されることになったものとみられる。6~9時の通勤時間帯に関しては、緊急事態宣言発令中であっても、人の移動状況はかなり高い水準で推移している。日本生産性本部の調査によると、テレワークの実施率は2020年5月調査では31.5%であったのに対して、2020年1月調査では22.0%にまで低下していることが示されており、通勤時の人出の抑制効果が低下していることが示唆される。これに伴い、衣類や化粧品といった外出を前提とした財消費については、一回目の緊急事態宣言では急減したものの、二回目では減少幅は穏やかなものになっている。
自粛要請対象となる業種の絞り込みも、一回目と二回目の緊急事態宣言の重要な相違点の一つである。一回目の緊急事態宣言では、飲食店や劇場、学校に至るまで、幅広い対象に対して営業時間の短縮や休校等が要請されていたが、二回目の緊急事態宣言においては飲食店を中心とした感染リスクの高い分野に対して的を絞った自粛要請がなされている。第3次産業活動指数をみると、営業自粛要請を受けて一回目の緊急事態宣言の時にはほぼゼロであった映画館やプロスポーツ興行、遊園地・テーマパークといった業種について、二回目の緊急事態宣言においては観客数の制限等、一定の制約は求められたものの、一回目のように事業休止に至るまでの影響はみられなかった。指数の低下こそみられたものの、ゼロ近辺までの低下には至っていない。この点については、内閣官房・経済産業省が公表するV-RESASでも確認できる。V-RESASによると、イベントチケット販売数は一回目の緊急事態宣言では需要が消滅していたが、二回目の緊急事態宣言では音楽・ステージ共に低水準ではありながらも、一定の販売数量を保っていることが示されている。
対象地域の違いも、一回目と二回目の緊急事態宣言の重要な相違点の一つである。一回目では全都道府県が対象となったが、二回目での対象範囲は最大でも11都府県への適用にとどまっている。二回目の緊急事態宣言が発令された11府県がGDPに占める割合は約6割(2017年度)であり、残りの4割は対象外となっている。もちろん、緊急事態宣言が発令されなかった県においても独自の宣言や消費者・事業者による自発的な自粛が行われたことによる消費減少が生じたことが想定されるが、対象地域の限定が、消費の減少幅を緩和している可能性は高い。詳細な分析を行う上でのデータの確認には、地域別支出総合指数(RDEI)等の公表が待たれるが、小売店・娯楽施設への移動状況をみてもそれらの違いが見えてくる。Google mobility data(7日移動平均)をみると、緊急事態宣言が発令された11府県については人出の落ち込みが大きく、その後の戻りも緩やかだが、それ以外の地域については緊急事態宣言発令時こそ人出が減少しているものの、その後の回復ペースは11府県と比較して速い。感染状況の悪化を背景に4都県に緊急事態宣言が発令されていた3月中旬であっても、7県において人出がコロナ前の水準に戻るなど、緊急事態宣言発令地域との違いが明確になっている。小売店や娯楽施設への人出の回復は消費回復に繋がっている可能性が高く、二回目の緊急事態宣言発令時の消費抑制効果の低下が示唆されている。
〇感染防止対策を考える上で、求められる費用対効果の検証
二回目の緊急事態宣言は一回目と比較して、的を絞ったものになっており、経済への抑制効果は小さかった。一方で、感染者数の抑制度合いについては二回目は一回目に劣り、足もとでも感染が拡大しつつある。既に大阪・兵庫・宮城ではまん延防止等重点措置が適用され、東京都から政府に対して同措置の要請が行われるなど、足もとの感染状況悪化を受けて行政による経済活動への抑制が強まることが想定されるが、その場合には費用(経済抑制)と効果(感染者抑制)に関して、二度に渡る緊急事態宣言の効果を精査し、より費用対効果の高い施策が求められる。
小池 理人
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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