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2025.10.09
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高市新総裁が介護報酬の期中改定に言及:規模は?財源は?
〜「インフレ改定」なら史上初・経営支援で倒産件数を減らせるか〜
須藤 智也
- 目次
1. 賃上げの波・物価高で介護事業所の経営は逼迫
2025年10月4日、自民党第29代総裁に高市早苗氏が選出された。国会で第104代首相に指名されれば憲政史上初の女性首相が誕生する。新総裁会見で高市氏は、介護事業者の倒産件数が過去最高となったことに触れた。その上で、補正予算を活用した介護報酬の前倒し改定(期中改定・臨時改定)に前向きな姿勢を示した(注1)。
介護事業者の報酬(収入)は原則3年ごとに改定される公定価格に基づく。収入が固定的であるため短期的な人件費・物価の高騰が経営を圧迫する(資料1)。2027年度の定期改定を待たない臨時改定で報酬が大幅に引き上がれば、賃上げの波・物価高で経営が逼迫する介護事業所にとっては、収支改善の兆しとなる可能性がある。

2. 過去の期中改定は処遇改善が多い~今回がインフレ対応なら「初めて」
資料2はこれまでの介護報酬改定の年度・改定率・主なトピックである。介護保険法が施行された2000年度から2024年度までに期中改定は5回あった。

2005年度の改定理由は介護保険法施行時に「5年後見直し」が定められていたためだった(▲1.90%)。2014年度改定は消費税8%への引き上げの補填を目的としていた(+0.63%)。2017年度改定は介護職員処遇改善加算の拡充に伴うもので、従事者の処遇改善を図るものだった(+1.14%)。2019年度改定は消費税10%への引き上げの補填に加え、介護職員特定処遇改善加算の創設による職歴の長い従事者の処遇改善を企図していた(消費税対応で+0.39%、全体で+2.13%)。2022年度改定は介護職員等ベースアップ等支援加算の創設によるもので、従事者の更なる処遇改善を図るものだった(+1.13%)。
このようにみると、今まで期中改定は従事者の処遇改善を目的とするものが多かった。「介護事業所の経営支援」を明確に掲げた期中改定は過去に例がない。また、高市氏は新総裁会見で物価高対策の必要性も訴えているが、インフレ対応を改定理由に据えた期中改定も過去に例がない。2026年度の改定が、初めての「インフレ改定」となる可能性が指摘される(注2)。
3. 「インフレ改定」は過去の期中改定より大規模か〜財源はどうなる?
介護保険の総費用は2025年度予算ベースで約14.3兆円となっている(資料3)。これを①被保険者の保険料(約45.8%)、②税金や国債などの公費(約46.6%)、③利用者の自己負担(約7.6%)で賄っている。例えば仮に介護報酬が1%引き上がれば、費用は約1,430億円増加する概算になる(注3)。増える費用についても、上記①②③のいずれかで負担していく必要が生じる。

直近2022年度の期中改定(ベースアップ等支援加算の創設)は1.13%の引き上げだった。当初は費用の100%が国費で賄われ、2021年度補正予算の約1,000億円が充てられた。その後、2022年度予算では国費負担割合が約25%とされ、約150億円が拠出された。改定の総費用に占める国費割合は、上記①②③の割合で単純に按分するよりは高かったといえる。なお、2023年度(改定次年度)の同加算の運営は、通年で国費負担割合が約25%となり、2023年度予算の約367億円が充てられている。
2026年度臨時改定が「介護事業所の経営支援」を掲げる場合、ある程度大きなプラス改定になることが指摘される。なぜなら人件費・物価の高騰と同程度かこれを上回る改定とならなければ、事業所の経営支援として効果が薄いためである(注4)。この場合、必要な費用は2022年度期中改定を上回ることも予想される。当然、増える費用の負担について思料する必要もある。2022年度のように期中改定年度の国費負担割合を高めたとしても、次年度以降で利用者負担の増加や保険料増額などに転嫁される可能性は完全には否定できない。また、費用が今以上に膨らむならば、抑制を企図した給付の適正化・効率化の議論が今以上に盛んになる可能性も指摘される。
4. 前倒し改定は介護サービス維持に繋がる重大な検討事項
一部では、インフレ下で3年ごと改定を継続することの「限界」が指摘されている。各年度改定の導入や物価にあわせた報酬スライド制の導入などを唱える動きもある。「インフレ改定」は様々な関係者へ配慮をしながら、難しい舵取りを迫られるかもしれない。ただ、介護保険サービス全体の量・質を維持するためには、「介護事業所の経営支援」は今後も継続的に議論されるべき事項であろう(注5)。補正予算案がどのように編成され、どのような審議を経るか、動向が注目される。
【注釈】
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東京商工リサーチによると2024年の介護事業者の倒産は過去最多の172件(前年比40.9%増)。なお、会見では病院経営や診療報酬改定についても触れられている。
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物価高に伴う報酬改定は、例えば全国老人福祉施設協議会が2024年11月に与党・自民党に「賃上げ・物価高騰対策等に関する要望」を提出して期中改定を要請している。物価高騰に伴う改定は、各団体などから要請されてきた経緯がある。
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報酬改定に伴う諸要素の変化を考慮しない単純な概算である点には留意されたい。
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2025年度の地域別最低賃金の全国平均は1,121円で、前年度から66円上昇した。全国の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は2025年1月~9月の各月で前年比2.7~4.0%で推移している。2025年度にも賃金・物価の上昇は進んでいる。
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勿論、介護職員の処遇改善に資する報酬改定も同様に重要な検討事項である。また、介護人材不足の解消に資する対応を検討していくことも重要になる。持続的な制度運営のためには、多角的な議論が必要であることには留意されたい。
【参考文献】
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星野卓也(2025)「高市新総裁の経済政策はどうなるか?~Q&A形式で財政、税制、金融、労働政策の今後を考える~」
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須藤智也(2025)「介護分野の賃上げは介護報酬改定だけで進むのか?~特定最低賃金の適用是非とともに検討すべき問題の本質を探る~」
須藤 智也
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 須藤 智也
すどう ともや
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総合調査部 副主任研究員
専⾨分野: 社会保障(介護・高齢者)、人と組織
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