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2025.09.16
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共用品が促すパラダイムシフト
~「誰かのため」から「みんなのため」へ~
後藤 博
- 目次
本稿は、「共用品」が社会全体にもたらすパラダイムシフトを見据え、共生社会の実現に向けた各ステークホルダーの役割と具体的な方策を提言する。
共用品は単なる便利なツールではなく、多様な人々が共存し、互いに支え合う社会を築くための重要な鍵となると考える。
1.共用品とは
1)共用品の概念と普及
共用品の概念は、1990年代の高齢社会の到来を背景に芽生えた。その出発点は、1991年に東京で発足した市民活動グループ「Enjoyment & Creation(以下 E&C)」である。多様なメンバーが集まり、年齢や障害の有無にかかわらず誰もが使える製品やサービスの普及を目指して活動を始めた。
E&Cプロジェクトでは、製品の「不便さ」を明らかにするために各種アンケート調査を実施してきた。たとえば、当時の主要なプリペイドカードは、種類や挿入方向の識別が困難であるという課題があった。そこでE&Cプロジェクトでは、調査結果をもとに、プリペイドカードの挿入方向に対してカードの左手前に触覚で識別できる切り欠きを付けるという画期的なアイデアを考案した。具体的には、テレホンカードは半円、交通系カードは三角、買い物カードは四角の切り欠きで区別する案である。
このアイデアを世に広めるため、通商産業省(現在の経済産業省)への提案が検討された。当時の通商産業省の担当者が、E&Cプロジェクトのメンバーでもあったことから、「日本工業規格(JIS)として提案するには、利用者と製造者の合意と、説明可能な根拠が必要である」と助言した。この助言を機に、E&Cプロジェクトの活動はさらに活発になり、調査依頼やガイドライン作成の依頼が増加した。
こうしたニーズに応えるため、1994年4月に「共用品推進機構」が設立され、活動は本格化する。同機構は国際標準化機構(ISO)とも連携し、日本の共用品を国際標準にする取り組みを進めた。その結果、2001年には日本からの提案が基となり、高齢者や障害者に配慮した製品開発の国際ガイドが制定されるに至った。
共用品は当初、福祉用具と混同されがちであったが、次第に「誰にとっても使いやすい製品」という価値が広く認識されるようになった。2000年代以降、家電や情報機器、日用品など、幅広い分野で共用品の考え方が浸透し、社会全体のインクルージョンを促進する重要な要素として定着してきている。

2)定義と原則
「共用品」は、公益財団法人共用品推進機構によると「身体的な特性や障害にかかわりなく、より多くの人々が共に利用しやすい製品・施設・サービス」と定義されている(注1)。
この2000年度版として決定された新定義の特徴は「より多くの人々」の一語が加わった点である。「完全にすべての人」でなくても、「より多くの人」で十分であるという意味合いで、対象範囲をどれだけ広げられるかが大事なポイントである。
共用品を支える基本的な原則は多様性(Diversity)、安全性・安心感(Safety and Security)、快適性(Comfort)の3つである(注2)。

こうした定義・原則を踏まえると、共用品の分類は図表3の通りである。
(公財)共用品推進機構によると、初の市場調査にあたっては、当時は業界によって共有品を表す言葉や定義が異なっていたため、ⅠからⅥに区分しているものの、このうちⅡ~Ⅴの区分を狭義の共用品としてとらえている。

3)共用品とユニバーサルデザインの関係
共用品は、高齢者や障害者を含むどんな人でも、安全・安心かつ快適に利用できることを目指した製品やサービスである。これは、特定の利用者に限定せず、すべての人が使いやすいように工夫されている点が特徴である。
上記の2000年12月にまとめられた「共用品・共用サービスの定義と原則」では、共用品はユニバーサルデザインやバリアフリーデザインを包括した上位概念であるとしている。
ユニバーサルデザインが「年齢、能力、状況などにかかわらず、できるだけ多くの人が利用可能な環境・製品・情報のデザイン」という考え方を指すのに対して、共用品は、このユニバーサルデザインの思想を具体的に形にした製品やサービスである。共用品の普及は、ユニバーサルデザインという考え方が社会全体に浸透したことを示している。
2.共用品のニーズが高まった背景
共用品のニーズは、急速な日本社会の構造変化と、ICT技術の進歩、そしてそれに伴う消費者の意識変化を背景に高まっている。
1)社会構造の変化
共用品へのニーズが高まった背景には、日本の社会構造の大きな変化がある。急速な少子高齢化は、高齢者の増加に伴う多様なニーズを生み出し、従来の製品・サービスでは対応しきれない状況を生んでいる。また、グローバル化の進展による多文化共生社会への移行も、共用品の重要性を高めている。さらに、障害者の社会参加を促進するバリアフリー法などの法整備も、共用品開発の追い風となっている。
2) ICT技術の進歩とSDGsとの関連
ICT技術の発展は、共用品の機能性を向上させると同時に、コストダウンにも貢献している。また、SDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりは、社会課題の解決を事業活動に組み込む企業が増えるきっかけとなり、インクルーシブな社会への意識を高めた。このような背景から、共用品は単なるニッチな製品ではなく、社会全体の持続可能性に貢献する製品として捉えられている。
SDGs(持続可能な開発目標)と共用品普及活動は、図表4のとおり、深く関連している。

3.共用品の目指すゴール
共用品の目指すゴールは、誰もが尊重される共生社会を実現すること、それが企業にとって新たな市場を創造し、持続的な成長を可能にすることである。
1)共生社会の実現
共用品が目指す究極のゴールは、誰もが互いを尊重し、支え合う共生社会の実現である。共用品は、物理的なバリアを取り除くことで、年齢や能力に関係なく、誰もが社会に参加できる基盤を築く。これにより、心理的なバリアも低減され、多様な人々が自然に交流できる社会が形成される。
2)新たな市場の創造と企業の持続的成長
共用品の開発は、単に社会貢献にとどまらず、企業にとっての新たなビジネスチャンスでもある。高齢者市場だけでなく、健常者も含めたすべての消費者ニーズに応えることで、市場規模を拡大できる。これは、企業の社会的責任(CSR)から、共通価値の創造(CSV)(注3)へと認識を転換するものであり、持続的な成長を可能にする。
4.共用品のゴール達成への方策:各主体の役割と提言
共用品の普及は、特定の主体だけでは成し得ない。行政、企業、当事者、支援者、生活者(市民・消費者)という各ステークホルダーが、それぞれの役割と責任を自覚し、根拠に基づいた行動を起こすことが不可欠である。各主体の役割と提言については、以下に述べる。
1)行政:市場創出と社会基盤整備の推進者
行政は、共用品の普及を促す上で、その価値を社会全体に浸透させるための制度的・財政的な基盤を整備する推進者としての役割を担う。その根拠は、共用品の普及が経済的効果と社会的包摂の二つの側面で国益に繋がるためである。
経済的効果として、共用品市場の拡大は、新たなビジネスと雇用を生み出し、経済全体の活性化に貢献する。高齢化が進む社会において、見過ごせない成長力となる。
次に、社会的包摂として、公共施設やサービスに共用品を導入することは、誰もが社会に参加できる機会を保障し、真の共生社会を実現する。これは社会の持続可能性を高める上で不可欠な要素である。
以上に基づき、行政は以下を実行すべきである。
- 共用品開発への助成金や税制優遇措置を拡充し、企業の参入を促す。
- 公共調達において、価格だけでなく機能性や社会的価値も評価する制度を確立する。
- 共用品の価値に関する国民向け啓発キャンペーンを定期的に実施し、国民の理解を深める。
2)企業:共通価値の創造者(CSV)
企業は、共用品開発を単なるCSR(企業の社会的責任)活動ではなく、事業成長の中核に据えるべきである。この姿勢は、共通価値の創造(CSV)という経営戦略に繋がり、企業の持続的な成長を可能にする。
共用品開発は新たな市場機会の創出とブランド価値の向上に直結する。多様な利用者に向けた製品は、潜在的な巨大市場を創出し、特定の利用者だけでなく、誰もが便利に感じることで市場全体に広がる。また、社会課題の解決に貢献する企業は、消費者の信頼を獲得し、ブランド価値を大きく高めることができる。
これらに基づき、企業は以下を実行すべきである。
- 製品企画の初期段階から当事者や支援者を巻き込み、真に必要とされる製品を創出する。
- 組織全体にユニバーサルデザインの専門知識を広めるため、研修プログラムを導入する。
- サプライチェーン全体で共用品の思想を共有し、グループ全体の品質向上を目指す。
3)当事者:ニーズと経験の提供者
当事者は、共用品の普及において、自身のニーズや製品使用経験を積極的に発信する「ニーズと経験の提供者」である。この役割の根拠は、当事者の声こそが、机上の空論ではない、真に使いやすい製品を生み出す唯一無二のデータとなるからだ。実際に製品を使う当事者しか知り得ない具体的な課題や改善点は、開発者にとって最も価値のある情報である。この情報がなければ、共用品は不完全なものに留まってしまう。
したがって、当事者は以下を実行すべきである。
- 企業や行政が主催する製品評価会議や意見交換会に積極的に参加し、率直な意見を伝える。
- SNSやブログを活用し、共用品の使用感や改善点に関する情報を広く発信する。
4)支援者:当事者と企業の橋渡し役
支援者とは、医療や介護の専門家、障害者団体のスタッフ、福祉施設の職員など、当事者(障害や加齢による身体的制約を持つ人々)と日々関わることで、その声やニーズを深く理解している人々を指す。
彼らは、個別の意見だけでは捉えにくい共通の課題や普遍的なニーズを複合的に把握し、体系的なデータとして企業に提供できる独自の強みを持つ。そのため、医療や介護の現場で得られる専門的な知見や当事者の声を、共用品を開発する企業に効果的に届ける役割を担うことができる。
支援者はまた、図表5に示した国内外の障害者団体と連携し、専門的な知識を集約できる立場にある。彼らの質の高いフィードバックは、企業がより多くの人にとって役に立つ共用品を開発する上で不可欠な基盤となる。
したがって、この重要な役割を果たすため、支援者は以下のことを積極的に実行すべきである。
- 企業との定期的な情報交換会や共同研究の機会を積極的に設ける。
- 現場で共用品を活用し、その効果や課題をデータとして記録・共有する。

5)生活者(市民・消費者):共用品価値の支持者
生活者(市民・消費者)は、共用品の普及において、製品の購入選択を通じて共用品を社会の「当たり前」の選択肢として育てる価値の支持者である。この役割の根拠は、消費者の行動が市場を牽引する力となるためである。消費者の共用品への需要が高まれば、企業は市場原理に基づき、それに応える製品開発を加速せざるを得ない。この「買う」というシンプルな行動が、企業の経営判断に大きな影響を与え、社会全体の製品開発の方向性を変えることができる。
この役割を果たすため、生活者は以下を実行すべきである。
- 製品を選ぶ際、価格やデザインだけでなく、パッケージの分かりやすさ、操作のシンプルさといった共用品の視点を判断基準に加える。
- 共用品の価値を理解し、その良さを家族や友人、SNSなどを通じて周囲に伝える。
5.共生社会への道筋
共用品の普及は、単に便利な製品を増やすことではない。それは、年齢や能力、文化の違いを超えて、すべての人が尊重され、共に生きる社会を築くための具体的な行動である。各ステークホルダーがそれぞれの役割を自覚し、連携して取り組むことで、このパラダイムシフトは加速し、真の共生社会が実現されるだろう。
【注釈】
-
財団法人共用品推進機構は、2012年4月1日より、名称を「公益財団法人共用品推進機構」に変更。
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多様性(Diversity)は、年齢、性別、能力、文化などに関わらず、多様な人々が利用できることを目指す。安全性・安心感(Safety and Security)は事故や怪我のリスクを最小限に抑え、誰もが安心して使用できることを目指す。快適性(Comfort)は 身体的な負担が少なく、使い心地が良く、心地よさを提供することを目指す。
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CSV(Creating Shared Value): 経済的価値と社会的価値を同時に創造する経営戦略。ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授とマーク・クラマー教授が提唱した概念。
【参考文献】
-
ISO(国際標準化機構)「ISO/IEC Guide 71」(2001年11月)
-
経済産業省「第1回 これからのデザイン政策を考える研究会 資料5」(2023年1月)
後藤 博
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

