- HOME
- レポート一覧
- ビジネス環境レポート
- 産業別に見る賃金・労働生産性の実態
- Flash Insight
-
2025.07.10
日本経済
SDGs・ESG
注目キーワード
所得・消費
雇用
産業別に見る賃金・労働生産性の実態
~持続的な賃上げに向けて、政府も生産性向上を後押し~
岩井 紳太郎
1. どの産業においてもこの10年間で賃金は上昇
筆者執筆のレポート「この10年で賃金が上がっている・上がっていないのは誰か~年齢別・雇用形態別・企業規模別で確認する賃金の現状~」では、年齢別・雇用形態別・企業規模別で10年前との賃金の変化を明らかにした。今回は産業別の視点で賃金や労働生産性の状況を確認する。
資料1は、2015年と2024年の産業別の所定内給与額(注1)を比較したものである(注2)。ほとんどの産業において賃金は上昇しており、産業計では+28万円・+9%となっている。上昇幅・上昇率ともに大幅に伸びている産業は「卸売業、小売業」、「不動産業、物品賃貸業」であり(+43万円・+13%、+47万円・+13%)、最も賃金の高い産業である「金融業、保険業」も一定程度上昇している。
また、「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」、「運輸業、郵便業」、「その他サービス業」といった相対的に賃金の低い(産業計よりも低い)産業が上昇幅・上昇率ともに大きいことも注目すべき点だ。特に2022年以降に伸びており(資料2)、近年の賃上げ機運の高まりの影響が大きいと考えられる。これらの多くは深刻な人手不足を抱えており、人材確保・定着のために賃金を引き上げざるを得ない側面もあるだろう。


一方、産業別労働者の分布を見ると、産業計よりも賃金の低い産業である「宿泊業、飲食サービス業」等のサービス業、「医療、福祉」や「製造業」等で全労働者の半数以上を占めている(注3)。経済活性化のためにはこれらの産業の賃金をさらに引き上げ、分厚い中間層を形成していく必要があるだろう。
2. 賃金水準を問わず、多くの産業において労働生産性が伸び悩む
持続的な賃上げのためには労働生産性の向上が不可欠であることは言うまでもない。ここでは、産業別の視点で労働生産性の現状を確認する。
資料3は内閣府「国民経済計算」から2015年と2023年の産業別1人当たり労働生産性を算出し、比較したものである。当データと、資料1、2で用いた厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の産業分類とは若干異なることはご留意願いたい。
産業計では、労働生産性は5%の微増に留まっている。産業別に見ると、前章の資料1において大幅に賃金上昇していた「卸売、小売業」や、賃金水準が最も高く、かつこの10年間で賃金上昇している「金融、保険業」の労働生産性は大幅に上昇している。一方で、賃金の低い産業に目を向けると、「製造業」は上昇しているものの、「宿泊、飲食サービス業」、「その他サービス業」、「運輸、郵便業」は低下しており、低水準のままである。また、賃金・労働生産性が高く、生成AIの発展やDXの進展等により今後産業としての重要性がさらに高まるであろう「情報通信業」や、「教育業」、「不動産業」の労働生産性が低下していることも押さえておきたいポイントだ。
このように多くの産業において労働生産性が伸びていない現状を踏まえると、近年の賃金上昇は、人手不足や価格転嫁といった外部環境によるものである可能性がある。賃金水準を問わず、多くの産業における生産性向上が重要課題だ。

3. 政府も骨太方針2025において生産性向上に向けたプランを示す
ここまで、昨今の賃上げ機運の高まり等を受けて、多くの産業において賃金は上昇しているものの、労働生産性には課題があることを示した。このような現状に対し、政府としても持続的な賃上げ・生産性向上に取組む方針を示している。
2025年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)において、「賃上げこそが成長戦略の要」と位置づけ、2029年度までの5年間で、物価上昇を1%程度上回る賃金上昇を賃上げのノルムとして定着させる方針を示した。実現に向けて「中小企業・小規模事業者賃金向上推進5か年計画」を策定し、その中で人手不足がとりわけ深刻と考えられるサービス業等の12業種(注4)については、集中的な省力化投資・生産性向上を実現するための「省力化投資促進プラン」を実行するとしている。このプランには、それぞれの業種ごとの実態、支援策や生産性向上目標等が示されている。
プランの対象12業種は、相対的に賃金が低く労働生産性向上が喫緊の課題である産業であり、それらへ集中的に支援していく方針は一定程度評価できる。ただ、前章でも確認した通り、支援対象である産業だけでなく、高賃金・高生産性産業の中にも、生産性向上が十分に見られない産業もいくつかある。生産性向上を通じた持続的な賃上げ実現に向けて、政府の省力化投資による業務効率向上のみならず、既に取組んでいる学び直し支援や労働移動の円滑化等もさらに力を入れていく必要があるだろう。
【注釈】
-
所定内給与額とは、厚生労働省によると、労働契約等であらかじめ定められている支給条件、算定方法により6月分として支給された現金給与額のうち、超過労働給与額(①時間外勤務手当、②深夜勤務手当、③休日出勤手当、④宿日直手当、⑤交替手当として支給される給与をいう。)を差し引いた額で、所得税等を控除する前の額をいう。
-
全体における正社員・正職員数が1%に満たない「鉱業、採石業、砂利採取業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」、「複合サービス事業」は対象から除いている。
-
産業計よりも賃金の低い産業の労働者数割合は以下の通り。

- 対象の12業種は、「飲食業」、「宿泊業」、「小売業」、「生活関連サービス業(理容業、美容業、クリーニング業、冠婚葬祭業)」、「その他サービス業(自動車整備業、ビルメンテナンス業)」、「製造業」、「運輸業」、「建設業」、「医療」、「介護・福祉」、「保育」、「農林水産業」。
【参考文献】
-
内閣府(2025)「経済財政運営と改革の基本方針2025」
-
内閣官房(2025)「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」
-
岩井紳太郎(2025)「この10年で賃金が上がっている・上がっていないのは誰か~年齢別・雇用形態別・企業規模別で確認する賃金の現状~」
岩井 紳太郎
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

