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介護福祉士の新キャリアモデル「山脈型」とは?

~人材の確保・定着、離職防止、働きやすい環境づくりに繋がるか~

須藤 智也

目次

1. 介護職員の新しいキャリアモデル「山脈型」とは何か?

介護職員不足が社会課題になっている。要介護(要支援)認定者数の増加が続く中、介護職員数は2023年に2000年以来初めて前年を下回った。「団塊の世代」が後期高齢者となる2025年を迎え、介護人材の確保・定着と離職防止は喫緊の課題だ。

2025年5月9日、厚生労働省は「福祉人材確保専門委員会」を開催した。2018年以来7年ぶりの実施となる。主題は「介護人材の総合的な確保方策」だ。2025年夏までに介護人材確保に関するヒアリングと議論を行い、秋に報告書が取りまとめられる予定となっている。同委員会において、厚生労働省は介護職員の新しいキャリアモデルを紹介した。「山脈型」キャリアモデルと名付けられている(資料1)。

図表
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体系図は、山々の連なりで複数のキャリアパスの存在を表現している。まず、介護従事者は就労を通じて知識と技術を獲得する(⓪介護実践)。次に、介護福祉士の資格を取得し、介護スキルを高度化させる(①介護実践の深化)。その後、「育成・指導者」「経営層」「特定スキルを活かした介護者」といった複線的なキャリアからそれぞれの意欲・能力に応じた道を選択する(②育成・指導、③サービスのマネジメント、④認知症ケア・看取りケア等の特定のスキルを極める、⑤職場に加え地域全体の介護力向上を進める、⑥経営のマネジメント)。自分で目指す山を選び、個々人のペースで登っていくイメージが描かれている。

2. 従来の「富士山型」キャリアモデルからの方針転換

2015年の「福祉人材確保専門委員会」では「富士山型」キャリアモデルが「目指すべき姿」として示されていた(資料2)。介護職員の将来展望・キャリアパスが見えづらい状況を変え、多様な人材の参入・定着を促進することが企図された。

図表
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ただ、この「富士山型」ではキャリアが単線で示されている。介護職員が専門性を高め、最終的にマネジメントを到達点とするような体系図だ。個々人が自身の意欲や能力を踏まえて自律的にキャリアを検討する体系とまではいえなかった。また、結果として2015年からの10年間で、介護分野に多様な人材の参入・定着が大きく進展したとまではいえない。介護人材の確保・離職防止は2025年においても重要課題だ。

新たな「山脈型」キャリアモデルはこうした状況を踏まえて「富士山型」を進化させたものということになる。まず、山頂が複数に分岐している。介護職員の経験や志向に応じて個々人が主体的に将来の進路を選択できるような体系を目指している。また、山を登り切ることだけが望まれているわけではない。ライフステージの変化に合わせて柔軟に働き方を変更できるキャリアモデルの構築を目指しているともいえる。

3. 介護に関わる一人ひとりが納得してキャリアを構築できる体制に向けて

資料3は、公益財団法人介護労働安定センターが2024年度に実施した「介護労働実態調査」における介護職員の「現在の仕事の満足度」と満足度D.I.である。

図表
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満足・やや満足をみると「教育訓練・能力開発のあり方」が最も低い。満足度D.I.はマイナス5.5で、「賃金」の次に低い。また、「人事評価・処遇のあり方」も満足・やや満足がやや低く、満足度D.I.はマイナス4.2となっている。この結果は、介護職員の教育訓練・能力開発・人事評価の体系を変化させていく必要性を示唆しているだろう。介護人材の定着・離職防止に資する職場環境の充実に向けて、賃金・処遇の改善とともに、研修・キャリアアップ制度の発展が必要かもしれない。

介護職員の継続意向・離職意向に教育訓練やキャリア志向などが与える影響については、先行研究が存在する。例えば、介護職員自身のスキル向上に繋がる研修や講習の実施は、職場の継続意向を高める可能性がある(中井,2018)。一方、介護福祉士の有資格者は無資格者より有意に離職意向が高いと示す研究もある(小檜山,2009)。研究にはもちろん限界が存在するが、介護職員の能力開発・キャリア構築の支援のあり方自体が、離職防止や定着促進に影響すると示唆していることは間違いないだろう。

厚生労働省は2025年度中に、2024年度補正予算に基づいて「山脈型キャリアモデル普及促進モデル事業」を実施する。事業では、介護職員の意向・事業所のビジョンを踏まえてキャリアパスを構築する取り組みを行い、横展開を図る。事業が成果目標に掲げているのは「人材の離職防止・定着促進が図られ、働きやすい職場環境の整備にもつながり、介護人材確保の推進が図られること」だ。

「山脈型」キャリアモデルの普及促進には、厚生労働省の適切な旗振りが肝要だろう。普及の課題を的確に認識する必要はありそうだ。例えば、介護職員の役割が複線化するなら、事業所は役割に応じた適切な処遇・待遇体系を従来以上に整備することが求められる。介護職員は複線化するビジョンを前に自身の将来展望を捉えなおす必要がある。事業は介護事業所と職員の納得感を得ながら進められることが望ましい。

「山脈型」キャリアモデルの検討は始まったばかりだ。介護人材の確保・定着や離職防止に向けて「福祉人材確保専門委員会」でどのような討議が進むのか、「山脈型キャリアモデル普及促進モデル事業」がどのような施策に結び付くのか注目したい。

以 上

【参考文献】

  • 小檜山 希(2009)「介護職の仕事の満足度と離職意向-介護福祉士資格とサービス類型に注目して-」

  • 公益財団法人介護労働安定センター(2024)「介護労働実態調査」

  • 厚生労働省(2025)「介護人材確保の現状について」

  • 須藤智也(2025)「介護分野の賃上げは介護報酬改定だけで進むのか?

  • 須藤智也(2025)「大阪・関西万博「介護エキスポ」から未来の介護保険を考える

  • 中井良育(2018)「施設介護労働者の職場定着策の在り方に関する研究 : 介護職員のキャリアと人材育成の視点から」

  • 日本能率協会総合研究所(2024)「令和5年度老人保健健康増進等事業 介護福祉士のキャリアアップにおける職場環境等の影響に関する調査研究事業 報告書」

須藤 智也


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