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気候変動への「適応」とは

~影響の顕在化と戦略的対応の必要性~

牧之内 芽衣

目次

1. 気候変動への「適応」とは何か

気候変動対策は、一般に「緩和(mitigation)」と「適応(adaptation)」の二本柱から構成される。前者は温室効果ガスの排出削減や吸収量の拡大を通じて気候変動の進行を抑える取り組みである。気候変動を抑えるためには「緩和」が重要であるものの、過去に排出した温室効果ガスの蓄積などもあり、短期間では効果が表れにくい。そこで重要となるのが、後者の「適応」の取り組みだ。適応は、既に進行している、あるいは将来的に避けがたい気候変動の影響に対して、人間社会や生態系に与える影響を軽減し、柔軟に対応するための取り組みを意味する(資料)。

具体的には、高温化、豪雨の頻発、海面上昇、渇水、洪水といった現象がもたらすリスクに対し、インフラ整備、土地利用の見直し、農業技術の転換、公衆衛生体制の強化などを通じて、被害を最小限に抑えることが挙げられる。

図表
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適応の重要性はパリ協定でも触れられていたが、気候変動が避けられない現実となった中で、もはや選択肢ではなく、必要不可欠な政策課題として国際的に認識されつつある。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)においても、適応は緩和と並ぶ主要な柱と位置づけられている。しかし、1.5℃目標のように明確な目標がある緩和と異なり、適応については世界共通の明確な目標は定められていない。

2. 気候変動影響の顕在化と適応政策の展開

日本を含む多くの国々では、近年の異常気象の頻度・強度の増加により、気候変動の影響が顕著に現れている。たとえば、気象庁の解析によれば、国内の年平均気温は長期的に上昇傾向を示しており、過去100年間で約1.3℃上昇している。これに伴い、猛暑による熱中症リスクや集中豪雨による洪水・土砂災害が増加している。

こうした状況を受け、日本政府は2015年に「気候変動の影響への適応計画」を策定し、2021年には同計画を改定している。改定計画は、農林水産業、自然生態系、健康、水環境・水資源、国土保全、産業・経済活動、国民生活・都市生活の7分野を対象に、具体的な施策を示している。

さらに、気候変動適応法(2018年施行)に基づき、各自治体においても「地域気候変動適応計画」の策定が進められている。環境省によれば、2025年3月時点での策定済地方公共団体数は都道府県47件、政令市20件、市区町村311件、合計378件と、すでに全都道府県で策定されるとともに、市区町村単位でも策定の動きが広がっている。

一方で、実行段階における課題も少なくない。たとえば、地方自治体では気候データの活用体制や人材が不足しており、科学的知見に基づく適応策の検討が進みにくいという問題がある。また、長期的投資を要するインフラ整備などでは、財政上の制約が阻害要因となっている。

3. 適応の具体例と今後の展望

国内外において、適応の先進的な取り組みが少しずつ蓄積されつつある。たとえば日本の農業分野では、温暖化によりコメの品質低下(高温障害)が懸念されているが、農研機構などの研究機関は、高温に強い品種の開発や、出穂時期を調整する栽培技術の普及に取り組んでいる。また、都市インフラにおいては、東京都が実施する「クールシティ東京」構想の下、街路樹の増植や高反射舗装の導入など、ヒートアイランド現象の緩和に資する施策が展開されている。

海外の事例では、オランダの「ルーム・フォー・ザ・リバー」政策が挙げられる。これは、洪水リスクの高い地域において、堤防を高くするのではなく、川の流域に空間を与えることで水害を緩和するという革新的なアプローチである。生態系保全や住民参加を伴う点も評価されており、他国のモデルともなっている。

今後、適応に向けた取り組みのさらなる普及のための課題としては、①地域ごとの気候リスク評価の高度化、②科学的知見に基づく政策立案支援、③官民連携による資金動員、④住民との協働による適応力の強化、などが挙げられる。特に、日本のような多様な自然条件を持つ国では、地域ごとに適応策を最適化する「ローカルアプローチ」が重要である。

③については国際的にも深刻な問題となっており、OECDの報告によれば、途上国における適応資金の需要は2030年までに年間1,600億ドルに達すると試算されている。こうした資金ギャップを埋めるためには、公的資金の活用に加え、民間資金の動員といった仕組みづくりが求められる。

気候変動の影響はもはや将来の懸念ではなく、現在進行形の現実である。その中で、「適応」は社会の脆弱性を低減し、持続可能な経済・社会システムを構築する上で不可欠な戦略といえる。適応の推進に向け、科学、政策、経済、そして地域社会の連携や、不断の知見の更新が期待される。

以 上

【参考文献】

  • 環境省 (2021)「気候変動の影響への適応計画(改定版)」

  • 気象庁 (2022)「日本の気候変動2022」

  • 農林水産省 (2023)「農業分野における気候変動適応の取組」

  • IPCC (2022) Sixth Assessment Report, Working Group II

  • OECD (2023) Climate Finance Provided and Mobilised by Developed Countries

  • 気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト(A-PLAT)
    https://adaptation-platform.nies.go.jp/about/faq.html(2025年3月28日閲覧)

牧之内 芽衣


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