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2025.01.31
日本経済
SDGs・ESG
注目キーワード
雇用
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直近10年間の労働移動の実態①
~年齢別・雇用形態別・企業規模別の視点から~
岩井 紳太郎
- 要旨
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- 政府や経済界は近年労働移動の円滑化を推進している。日本は生産年齢人口が減少する中で、限りある労働力を効率的に配置していくことが求められる。
- 最近では、テレビやSNS等で転職サイトのCMや広告を目にする機会も多く、社会全体でも転職に対する見方が変化しているように見受けられる。
- このような状況を踏まえて、昨今の労働移動の実態についてレポートを2つに分けて確認する。本号では、直近10年間の実態を年齢別・雇用形態別・企業規模別の視点から見ていく。
- 全体の転職者数・転職者比率は2014年以降増加傾向にあるものの、劇的な増加は見られない。一方で、転職希望者数・転職希望者比率はコロナ禍も含めて右肩上がりになっており、2023年の希望者数は1000万人を超えた。
- 年齢別にみると、転職者比率は若年層ほど高い傾向があり、25~34歳において比較的大きな増加が見られる。また、45歳以上の層においても増加している。転職希望者については、若年層だけでなく35歳以上の年齢層においても増加傾向がある。
- 雇用形態別では、依然として非正規雇用者への移動が多いものの、正規雇用者への移動も増加傾向にある。正規雇用者への移動は、2014年から2023年の転職者数増加分のうちの約8割を占め、特に25~34歳、35~54歳において大きく増加している。一方で、非正規雇用者への移動については、55歳以上が増加しているものの、正規雇用者への移動では増加が見られる25~34歳、35~54歳において減少している。
- 企業規模別に見ると、30~499人企業への移動が最も多く増加傾向にある。この10年間で最も増加幅が大きいのは1000人以上企業への移動であり、いわゆる中堅・大企業への移動が活発化している。1000人以上企業への移動において、前職も1000人以上企業だった人数が徐々に増加している傾向にあり、規模の大きい企業間での移動が増加している。
- 次号では、産業別の視点で、政府や経済界が期待している生産性の高い産業への労働移動が実現できているのかについて見ていく。これに加えて、職種別の労働移動の実態を確認し、今後の労働移動の円滑化に向けた取組みについても言及する。
- 目次
1. 政府や経済界が推進している労働移動の円滑化
人手不足の深刻化・労働生産性の向上が喫緊の課題である日本において、成長分野への労働移動に対する期待は大きくなっている。生産年齢人口が減少する中で、限りある労働力を効率的に配置し、経済成長を高めていくことが重要だとされている。
政府は、2023年より取組んでいる「三位一体の労働市場改革」の中で「成長分野への労働移動の円滑化」を掲げ、2024年6月の「骨太方針2024(経済財政運営と改革の基本方針2024)」においても実現に向けた方針が盛り込まれている。また、同年9月に実施された自民党総裁選や立憲民主党代表選では、解雇規制の緩和が争点の1つになったが、これは雇用の流動性を高める、つまり労働移動の円滑化を図る趣旨の政策として挙げられたものだった。
また、日本経済団体連合会(経団連)の「経営労働政策特別委員会報告(注1)」においても、労働移動はここ数年大きく取り上げられている。さらには、経済同友会も2024年4月に政策提言「人手不足時代の中堅・中小企業政策~生産性向上に向けた合従連衡と労働移動の促進~」を公表しており、経済界も注目しているテーマの1つである。
上記のように日本において労働移動の円滑化が推進されている中、昨今の労働移動の実態について、レポートを2つに分けて確認する。本号では、2014年から2023年の直近10年間の実態を年齢別・雇用形態別・企業規模別の視点から見ていく。
2. 労働移動の実態(転職者数・転職希望者数)~転職者数は微増、転職希望者数は右肩上がりに増加
第1章では政府や財界の近年の動きを述べたが、社会全体で見ても転職への関心は高まっていると考えられる。以前は転職に対して多少なりともマイナスなイメージを持つ人や企業も多かった印象だが、最近ではテレビやSNS等で転職サイトのCMや広告を目にする機会も多く、転職に対する見方は変化しているように見受けられる。さらに、ジョブ型雇用の要素を取り入れた雇用管理が大企業を中心に広がり、また、企業の退職者の集まりであるアルムナイネットワークや様々な採用方法(注2)を導入する企業も増加している等、労働者が転職しやすい環境は徐々に整備されてきている。
そのような中、転職者数・転職者比率(転職者数÷就業者数)は増加しているのか。直近10年間で増加傾向にあるものの、劇的な増加は見られないのが実態だ。総務省によると、2023年の転職者数は328万人、転職者比率は4.9%と、2014年の291万人、4.6%から微増となっている。コロナ流行前の2019年に転職者数353万人、転職者比率5.2%を記録し、その後コロナ禍の2020、2021年の2年間は減少、直近2年間は増加しているという状況だ。一方で、転職希望者数・転職希望者比率(転職希望者数÷就業者数)はコロナ禍も含めて右肩上がりになっており、2023年の希望者数は1000万人を超えた(資料1)。

次に、年齢別の視点で確認する。若手社員の早期離職が話題になる等、若年層の転職者数や転職希望者数が多いという印象が一般的にあるが、実際はどのような状況なのか。転職者比率は、若年層ほど高い傾向があり、2023年では15~24歳は10.4%、25~34歳は7.4%となっている(資料2)。また、45歳以上の年齢層(45~54歳、55~64歳、65歳以上)において、転職者比率が上昇していることも確認できた。転職希望者比率を見ると、15~24歳を除いたどの年齢層においても増加傾向にある(資料3)(注3)。
以上から、転職者数自体は大きく増加しておらず、活発な労働移動が進んでいるとは言えないものの、若年層だけでなく中高年齢層においても転職を希望している人が増加傾向にあることから、社会全体において転職への関心が高まっていることはデータを見ても読み取れる。


3. 労働移動の実態(雇用形態別)~正規雇用者への移動が増加
雇用形態別(正規・非正規雇用者)で見るとどうなのか。2014年からの10年間で非正規雇用者への移動が依然として多いが、大きな増加は見られない(資料4)。その一方で、正規雇用者への移動が増加傾向にある。正規雇用者への移動は2014年の100万人から2023年は130万人と約30万人の増加となっており、これは全体の転職者数増加分約37万人のうちの約8割を占めている。

次に、正規・非正規雇用者への移動について年齢層ごとに確認する。正規雇用者への移動は、25~34歳、35~54歳(注4)において、この10年間でどちらも10万人以上増加している(資料5)。一方で、非正規雇用者への移動については、55歳以上が15万人程度増加しているものの、正規雇用者への移動では大幅な増加が見られる25~34歳、35~54歳は減少している(資料6)。


また、これらの移動について、前職が正規・非正規雇用者のどちらの雇用形態だったのかも確認する。正規雇用者への移動は、前職も正規雇用者だった人数が2014年から2023年にかけて30万人以上増加し、非正規雇用者だった人数は微減となっている(資料7)。2023年では、正規雇用者への移動において前職も正規雇用者である割合が7割以上を占めている状況だ。
その一方で、非正規雇用者への移動については、ここ10年間で前職に大きな変化は見られない(資料8)。


日本全体において非正規雇用者数は2023年時点で雇用者(役員を除く)の4割弱を占めている中、政府は非正規から正規雇用者への転換や就職氷河期世代の正規雇用者数30万人増加を目指す「就職氷河期世代支援プログラム」等、正規雇用者を増やす趣旨の取組みも推進しているが、労働移動の観点では資料7の通り非正規から正規雇用者への移動は増加していないのが実態だ(注5)。これは近年働き方が多様化し、労働者が自身のライフスタイル等を軸に雇用形態を選択できるようになったことが要因の一つと考えられる。総務省の2023年労働力調査によると、非正規雇用者が現在の雇用形態を選択している理由として、「自分の都合のよい時間に働きたいから」と回答した割合が最も高く(約35%)、「正規の職員・従業員の仕事がないから」という、いわゆる不本意非正規雇用者の割合は約10%となっており、この割合は年々下がっている状況である。働き方の自由度の高さから非正規雇用者に該当するフリーランスやギグワーカー等を選ぶ人が増加していることも踏まえると、非正規から正規雇用者への移動・転換のニーズは減少しているとも捉えることができるかもしれない。
4. 労働移動の実態(企業規模別)~規模の大きい企業への移動が増加
本章では、労働移動の実態を企業規模別の視点で確認する。直近10年間において30~499人企業への移動が最も多く、増加傾向にある。また、1000人以上企業への移動も大幅に増加しており、いわゆる中堅・大企業(注6)への移動が活発化している(資料9)。1000人以上企業への移動は2014年から2023年で約25万人増加しており、これは全体の転職者数増加分約37万人のうちの7割弱を占める。さらに、30~499人企業・1000人以上企業だけでなく500~999人企業への移動も少なからず増加している一方で、1~29人企業への移動は減少していることも確認できた。

それでは、1000人以上企業への移動について、前職はどの企業規模だった人が多いのか。前職も1000人以上企業だった人数が2014年の17万人から2023年で32万人に増加しており、規模の大きい企業間での移動が多いことが見て取れる(資料10)。また、30~499人や500~999人企業からの移動も増加しており、より規模の大きい企業への転職も徐々に活発化していることがわかる。データを見ると、比較的規模の大きい中堅企業や大企業は、中小企業と比較して賃金水準が高く(注7)、福利厚生制度等がより充実している企業も多い(注8)ため、そのような移動が増加していると考えられる。また近年では、企業選びにおいて「入社する企業で自己成長が見込めるか」や「キャリアアップができるか」を重要視する人も増加していると言われており、大企業には人材育成に力を入れている企業が多い(注9)ことも要因の一つだろう。

5. まとめ
ここまで、直近10年間の労働移動の実態を、年齢別・雇用形態別・企業規模別の視点で見てきた。全体として転職者数自体は大きく増加していないものの、若年層だけでなく中高年層においても転職を希望している人が増加傾向にあることが分かった。また、正規雇用者間や規模の大きい企業への移動が活発化していることも確認できた。
次号では、産業別の視点で、政府や経済界が期待している生産性の高い産業への労働移動が実現できているのかについて見ていく。これに加えて、職種別の労働移動の実態を確認し、今後の労働移動の円滑化に向けた取組みについても言及する。
【注釈】
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春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスや、雇用・労働分野における経団連の考え方を示す、毎年1月頃取りまとめられる報告書のこと。
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アルムナイ採用(カムバック採用)やキャリア採用等を導入する企業が増加している。
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男女別で見ると、転職者比率は男性が2014年の3.8%から2023年で4.1%、女性が5.6%から5.8%とどちらも微増しており、女性の方が高い割合となっている。転職希望者比率は、男性が10.8%から13.9%、女性が15.3%から16.3%と、転職者比率と同様女性の方が高いが、男性の増加率が大きくなっている。
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資料2、3においては「35~44歳」「45~54歳」で区分されているが、資料5、6においてはデータの都合上「35~54歳」で区分している。
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総務省「労働力調査」によると、就職氷河期世代に該当する「35~54歳」において、前職が非正規雇用者かつ現職が正規雇用者である転職者数は、直近10年間で10万人から12万人と微増している。他方、前職・現職ともに正規雇用者である転職者数は22万人から37万人と前者以上に増加している。
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経済産業省によると、中堅企業とは、常時使用する従業員の数が2000人以下で、中小企業には該当しない企業等を指し、大企業と中小企業の間に位置づけられる。大企業は「従業員数2000人超」の企業等を指し、中小企業は、製造業の場合は「資本金3億円以下または従業員数300人以下」、サービス業であれば「資本金5,000万円以下または従業員数100人以下」の企業が該当する。
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厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、令和5年6月分の所定内給与額の平均は、1000人以上企業346.0千円、100~999人企業311.4千円、10~99人企業294.0千円となっている。
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厚生労働省「令和3年就労条件総合調査」によると、常用労働者1人1か月平均法定外福利費は、1000人以上企業5,639円、300~999人企業4,567円、100~299人企業4,546円、30~99人企業4,414円となっている。
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厚生労働省「令和5年度能力開発基本調査」では、OFF-JTやOJTを実施したと回答した1000人以上企業の割合が1000人未満企業と比較して高くなっている。
【参考文献】
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内閣府(2024)「経済財政運営と改革の基本方針2024」
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内閣官房(2023)「三位一体の労働市場改革の指針」
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厚生労働省(2024)「令和6年版 労働経済の分析 -人手不足への対応-」
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日本経済団体連合会(2025)「2025年版経営労働政策特別委員会報告」
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経済同友会(2024)「人手不足時代の中堅・中小企業政策~生産性向上に向けた合従連衡と労働移動の促進~」
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岩井紳太郎(2023)「【1分解説】アルムナイネットワークとは?」
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岩井紳太郎(2024)「【1分解説】ギグワーカーとは?」
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岩井紳太郎(2024)「【1分解説】非正規雇用とは?」
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岩井紳太郎(2024)「【1分解説】ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用とは?」
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岩井紳太郎(2024)「【1分解説】中堅企業とは?」
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岩井紳太郎(2024)「なぜ企業はアルムナイネットワークを導入し始めたのか」
岩井 紳太郎
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

