年金改革2025シリーズ 「財政検証結果(2)」

~財政検証の理解に向けて その9~

小川 伊知郎

要旨
  • 本シリーズは、普段年金制度に関わっていない方々向けに、極めて基礎的なことから順次知識を深めて、財政検証を少しでもよく理解して頂くことをねらいとしています。今回は前回に引き続き財政検証結果を解説します。

  • 「財政検証」は社会保障審議会年金部会で審議されており、今回の結果は2024年7月3日に公表されました。

  • 前回と比較すると、今回はケースの数は減りましたが、経済成長率は前回が0.9~▲0.5%であったのに対し今回は1.6~▲0.7%と、高い方も低い方も幅が広がっています。

  • 財政状況の改善によって、1階部分の基礎年金のマクロ経済スライドによる減額調整終了までの所要年数が、メインである経済の前提ケース②では14年短縮された一方、サブのケース③では6年早まるのに留まりました。

  • 所得代替率は、前回はケースⅤで概ね100年後を迎える前に50%を下回っていたのに対し、今回は対比するケース③でも50%を維持しています。

  • モデル年金は、ケース②ではマクロ経済スライドが反映されても2060年度まで増加し続けている一方、ケース③では基礎年金の調整が終了する2057年度までは減少し続けています。

目次

1.本シリーズのねらい

2024年度は、5年に一度の公的年金制度のチェックである「財政検証」が実施される年であり、去る7月3日に結果が公表されたところです。本シリーズ「財政検証の理解に向けて」では、普段年金制度に関わっていない方々向けに、極めて基礎的なことから順次知識を深めて、財政検証を少しでもよく理解して頂くことをねらいとしています。詳しくは「その1 わが国の年金制度」をご覧ください(小川(2024)その1参照)。今回は前回に引き続き財政検証結果を解説します。また、一部厳密でないと感じる部分もあるかもしれませんが、わかりやすさを優先していますので、ご容赦願います。

2.財政検証結果の前回との比較

(1)ケース分け

資料1は、2024年7月3日に開催された第16回社会保障審議会年金部会で公表された「財政検証結果の概要」の3ページ目です。ここに結果がまとめられています。左側の上向き矢印の図の右側の太字部分、①高成長実現ケース、②成長型経済移行・継続ケース、③過去30年投影ケース、④1人当たりゼロ成長ケースが今回の4つのケースです。前回その8で触れたとおり、今回初めて名前が付けられました。それぞれに対応する実質経済成長率が一番右に示されています。

5年前の前回財政検証では6つのケースが示されています。両者を実質経済成長率が高い順に並べて比較すると次のとおりです。

前回と比較すると今回はケースの数は減りましたが、経済成長率が高い方も低い方も幅が広がっていることがわかります。また、今回の資料では②成長型経済移行・継続ケースをメインとして、サブとなる③過去30年投影ケースも併記していますので、前回と対比するにはそれぞれ「②⇔ケースⅠ」「③⇔ケースⅤ」となります。

(2)給付水準調整終了年度の比較

2階部分に当たる報酬比例の厚生年金は、前回も今回もマクロ経済スライドによる減額調整は不要であった一方、1階部分の基礎年金は終了年度が9年早まり、前回財政検証が5年前だったことを勘案すると、終了までの所要年数は14年早まる結果となりました。これは、ここ5年間で財政状況が改善したことに依ります。

厚生年金は6年早まるも、基礎年金は1年しか早まりませんでした。なお、前回のケースⅤは、財政見通しの作成期間である概ね100年後を迎える前に所得代替率が50%を下回る中で、仮に財政のバランスが取れるまで機械的に給付水準調整を進めた場合の数値です。

(3)所得代替率の比較

厚生年金は微減、基礎年金は6ポイント弱アップしたため、全体で1割余り改善しています。

合計では、前回がそもそも財政見通しの作成期間である概ね100年後を迎える前に所得代替率が50%を下回っていたのに対し、今回は50%を維持しています。部分ごとに見ると、厚生年金が2ポイント余り、基礎年金は3ポイント余りそれぞれアップしたため、全体で1割強改善しています。

3.モデル年金の将来見通し

(1)資料の見方

資料2は、続く「財政検証結果の概要」の4ページ目です。所得代替率だけだと専門家でないと具体的にイメージしづらいため、この資料で将来の年金額が示されています。前述したとおり、メインの②成長型経済移行・継続ケースが上に、サブの③過去30年投影ケースが下にやや小さく、それぞれ示されています。年金額は2色の棒グラフで図示され、年金月額が万円単位で付記されています。赤が所得代替率の分母となっている現役男子の手取り収入、緑が年金額で、下側が夫婦二人分の基礎年金、上側が夫の厚生年金です。モデル年金では妻は40年間専業主婦ですので、厚生年金はありません。

ここで「その5 財政検証でのチェックの仕方」で触れたとおり、年金額は物価や賃金に合わせてスライドしますので、右上の四角囲みのとおり、将来の年金額は物価上昇率で現時点に割り戻した実質額とすることで、一番左の2024年度と比較可能となるようにして示されています。

(2)結果と考察

②成長型経済移行・継続ケース

示されている年度は、左の現時点の2024年度から順に、50%の所得代替率を維持できているかを判定する5年後の次回財政検証である2029年度、基礎年金のマクロ経済スライドによる減額調整が終了する2037年度、そして切りのいい2040年度、2060年度となっています。

まず赤の現役男子の手取り収入を見ると、現時点の37.0万円からずっと増加し続けています。これはケース名の右に括弧書きで示されているように、実質賃金上昇率(対物価)1.5%が反映されているためです。

緑の年金額も、基礎年金、厚生年金ともに2060年度まで増加し続けています。基礎年金の調整が終了する2037年度以降の増加率はこの1.5%ですが、現在から調整終了までの平均の増加率は0.46%であり、マクロ経済スライドによる減額調整が反映されています。右端の今から34年後の2060年度では、物価上昇分を差し引いてもなお33.8万円と、現時点の22.6万円の約1.5倍です。

③過去30年投影ケース

示されている年度は②と同様ですが、基礎年金の調整終了に時間を要するため、左から2024年度、2029年度、次に2040年度、調整が終了する2057年度、2060年度となっています。 赤の現役男子の手取り収入は、このケースでも現時点の37.0万円から減少することはありません。

一方、緑の年金額では、実質賃金上昇率(対物価)が0.5%と②より1.0%低く、マクロ経済スライドによる減額調整分の方が大きいため、基礎年金の調整が終了する2057年度までは、基礎年金が減少することから合計でも減少し続けています。33年間の平均の減少幅は年0.2%です。それ以降は増加に転じて増加率は実質賃金上昇率(対物価)である年0.5%です。2060年度では、物価上昇分を差し引くと21.4万円と、現時点より約5%減少します。

4.おわりに

今回で財政検証結果と前回との比較を一通り見終わりましたので、次回は現行制度を変更した場合の影響を見ましょう。

以 上

小川 伊知郎


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。