ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

保育所の「2025年問題」

~地域の子育て拠点としての企業主導型保育事業~

的場 康子

目次

1.保育所の「2025年問題」

これまで国は子育て支援策として待機児童対策を進め、保育所の整備を推進してきた。その成果に加え想定以上に少子化が進んだこともあり、数年前から待機児童数は減少、2023年4月時点で2,680人となっている(図表1)。待機児童数のピークであった2017年(26,081人)から6年間で2万人以上減り、約10分の1に縮小したことになる。

他方、将来の保育所の利用児童数を推計した厚生労働省の資料によると、利用児童数は2025年(令和7年)にピークに達することが見込まれている(図表2)。2025年を境に、利用児童数の減少により運営の継続が困難となる保育所が増える恐れがある。これが、いわゆる保育の「2025年問題」である。こうした状況に備え保育政策は、これまでのような保育所不足への対応から、保育の質的向上のための人材や保育環境などの整備・充実への転換が必要な時を迎えている。

図表
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2.企業のニーズに応じて設置が広がった企業主導型保育事業

これまでの保育政策は、保育所不足への対応から量的充実に力を入れてきた。自治体による認可保育所のみでなく、保育の受け皿として、企業が従業員のために設置・運営する企業内保育所に対する助成制度も拡充された。2016年に創設された企業主導型保育事業もその1つである。企業主導型保育事業は、子ども・子育て拠出金を負担している事業主が設置する企業内保育所を運営する事業である。企業のニーズに応じて、設置基準を満たせば、国から認可保育所並みの運営費や整備費の助成を受けることができる。そのため企業主導型保育施設は新たな保育の受け皿として急速に全国に広がり、待機児童対策に大きく貢献した。

ところが数年前から、保育所の整備が進んだことに加えて、想定を上回る少子化の進展により、待機児童数が減少に転じるようになった。企業主導型保育施設についても、保育の受け皿としての目標値(定員11万人分)が2021年度に達成されたため、2022年度から新規開設や定員増員の実施を休止している(注1)。待機児童対策を重視してきた保育政策の見直しに合わせて、従業員の子育て支援のために整備されてきた企業主導型保育施設についても、その役割を改めて見直す時期を迎えている。こうしたことから以下では、企業の子育て支援策としての企業主導型保育施設の今後のあり方について考察する。

3.企業主導型保育施設の特徴

企業主導型保育施設の特徴の1つは、一社単独では設置できなくても、複数の企業が共同で利用できることである。実際、企業主導型保育施設の運営形態の内訳をみると、複数の企業が共同で設置・利用している「共同設置・共同利用」型の企業主導型保育施設が最も多く56.0%を占めている(図表3)。ちなみに「共同設置」型は、複数の企業が協力して費用を負担し、設置する形態であり、「共同利用」型は、設置企業が複数の企業と利用契約を結んで利用する形態である。

この次に多い形態は、保育事業者が設置し、法人契約により企業が利用している「保育事業者設置」型(31.5%)であり、一社単独で設置している「単独設置」型(12.5%)は約1割である。一社では利用者が限られるが、複数の企業が共同で設置したり、利用したりすることで、利用者を幅広く募ることができる。

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また、「地域枠」を設定することにより、地域の子どもを受け入れることもできる。就業要件や保育認定を満たしていれば、自治体の入所審査を経ずに、直接保育施設に申し込むことができるため、パート勤務、自営業者、フリーランスなど正社員以外の働き方をしている人も受け入れやすいことが特徴である。

さらに、地域交流スペースを活用し、利用者や地域の人々がつながりを深めたり、保育士に子育て相談をしている企業主導型保育施設もある。

このように、企業主導型保育施設は、企業や地域のニーズに対応し、幅広く利用者を受け入れることで、地域に根差した子育て支援の拠点として重要な役割を担う存在となっている。実際、多くの自治体は、企業主導型保育施設に対し、待機児童の減少に貢献しており(図表4-1)、保育の受け皿として必要であると認識している(図表4-2)。

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4.企業主導型保育施設の課題

他方、これからも企業主導型保育施設が社会環境の変化に対応し、安定的に保育サービスを提供するために検討すべき課題もある。

1つ目は保育士不足である。企業主導型保育施設、自治体ともに、その多くが運営上の課題として挙げている(図表5、図表6)。保育士不足は、企業主導型保育施設に限らず、認可保育所を含め、保育業界全体の課題である。引き続き、保育士の待遇改善などにより人材確保を図るとともに、保育の専門性を高めるための人材育成を強化する取組みが求められる。

2つ目は地域における保育の需給調整の難しさである。「利用希望者が多いが定員人数に空きがなく、受け入れられない」と回答した企業主導型保育施設が多い一方で、「園児が集まらず定員が埋まらない」への回答も少なくない(図表5)。自治体による調整機能の強化も1つの方策と考えられる。

3つ目は保育の質の確保である。自治体に対する調査では、企業主導型保育施設の課題として「施設による保育の質の差が大きい」への回答が最も多い(図表6)。「施設・職員のマネジメントがうまくいっていない/不十分である」と回答している自治体もあり、保育所運営にばらつきがあることを認識している自治体も少なくないようだ。企業主導型保育施設に対する調査でも、「運営において困った際に、相談する先がない/分からない」ことを課題として回答している施設もある(図表5)。保育士に対する研修の強化の他、自治体や地域の保育所と連携して保育や運営のノウハウを共有しあう仕組みなど、企業主導型保育施設の安定的な運営を支援する体制を整えることも必要であろう。

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5.地域で選ばれる保育施設になるために

企業主導型保育施設は、企業のニーズにより、自社の従業員のための保育施設としてスタートしたものである。それが少子化や多様な働き方の広がりにより、自社の従業員のみでなく、地域で働く人々を広く受け入れる、地域に開かれた保育施設へと変わりつつある。

他方、認知度が高くないために利用者の確保が難しかったり、保育所運営のノウハウ不足などにより、安定的な運営を課題としている施設も多い。

これからの企業主導型保育施設は、自治体との連携をさらに強化し、地域のニーズに合わせながら、自社の強みを活かした運営をおこなうことで、地域の人々から選ばれる保育施設になることが期待できる。企業による地域貢献の1つのあり方として、地域の子育て支援の拠点としての役割に注目したい。

【注釈】

  1. 企業主導型保育事業は「子育て安心プラン」等において、定員11万人分の受け皿確保を目指して新規募集を行ってきたが、2021年度の募集により定員が達成された。こども家庭庁の資料によれば、2022年度(令和4年度)の企業主導型保育事業の助成施設は4,449施設であり、定員105,393人の受け入れを行っている(令和5年3月末時点)。

的場 康子


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