独居高齢者がペットと共に生活するということ

~求められる高齢者福祉と動物愛護管理の相互連携~

櫻井 雅仁

目次

1.高齢者にとってのペットとの生活

高齢者がペットと生活を共にすることについては、高齢者にとってのウェルビーイングの視点、動物愛護の視点を含め、さまざまな意見がある。特に独居高齢者については、孤独感の軽減や心の支えにつながる、規則正しい生活・健康維持をもたらすなど、多くの効用を重視する意見がある。一方で、施設入所や入院、死亡時のペットの世話や受け入れ先手配の困難さなど、動物愛護の視点から高齢者特有の課題を重視する意見もある。

筆者が暮らす街では、高齢者と見受けられる方がペットを連れて散歩をしている姿をよく見かける。その中で、偶然の出会いが会話につながり、楽しい時間を創出しているような場面に遭遇する機会がある。一方、自身が高齢者となり一緒に暮らしていたペットが亡くなった際に、改めてペットを迎えることを「自分が亡くなった後を考えると可哀そうなので」との理由であきらめた独居高齢者の声も聞く。

独居高齢者がペットと暮らすことのメリットとデメリットについては、人それぞれの考え方がある。しかし、多くの効用が認められているのであれば、課題を直視してできる限りの対応をすることで、最善の選択の可能性を探っても良いだろう。

本稿では、動物愛護の視点を念頭に置きながら、独居高齢者がペットと暮らすことの効用と課題について考察する。

2.高齢者がペットと暮らすことの効用と課題

高齢者がペットと暮らすことで得られる効用については、図表1の通り既にさまざまなことが論じられている。特に独居高齢者の場合、ペットと暮らすことの効用は大きいと思われる。独居高齢者の場合、家族や友人との交流機会の減少や社会とのつながりの希薄化から、日常的に目配り・気配り・声掛けをしてくれる人がいないため、適度な運動、人とのつながり、生活リズムの維持など、安心・安定した生活に必要なことが損なわれる可能性が高い(注1)。これをペットと生活することで補うことができれば、独居高齢者がウェルビーイングに満ちた生活を送る一助となり、また、心身の健康状態を良好に保てる可能性が増すことで、介護・認知症の予防につながることも期待できる。東京都健康長寿医療センターの研究によると、ペットを飼っている人ではペットを飼っていない人に比べて介護費が約半額に抑制されており(注2)、また犬を飼っている人の認知症発症リスクは飼っていない人よりも40%低いことが示されている(注3)。

図表1 高齢者がペットと暮らすことの効用
図表1 高齢者がペットと暮らすことの効用

独居高齢者がペットと暮らすことが、自立した生活を維持し、ウェルビーイングの向上につながることが期待される一方で、図表2に示すような課題を想定する必要がある。

特に、経済的な負担や動物愛護の精神に抵触してしまう可能性が大きな問題であろう。たとえば、飼育にかかわる経済的な負担については、犬の場合、月の支出が平均約1万4千円、生涯の支出は約245万円(平均寿命14.6歳)、猫の場合は月の支出が平均約8千円、生涯の支出は約150万円(平均寿命15.79歳)となっている(一般社団法人 ペットフード協会調べ)(注4)。独居高齢者の経済状況によっては決して無視できない負担である。

動物愛護の視点はより深刻な問題である。経済面での課題も、自身の生活維持に支障をきたすような場合には、ペットの栄養・健康・衛生面など、さまざまな動物愛護上の課題につながってしまう。

民法上ペットは「物」としての位置づけにある。このことが、飼い主がペットを「所有物」として捉え、自分の都合による安易な放置、放棄や殺処分につながる可能性は否定できない。それが、独居高齢者がペットと生活することに対し、「ペットの生涯にわたり自分で十分な世話ができないにもかかわらずペットを飼うのは無責任である」との批判がなされる理由の1つであろう。「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」では、「人は誰しも「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱う」よう定められており、ペットを飼う場合は、飼い主の属性にかかわらず、自分の死後にいたるまで、ペットの命ある限り適切な世話ができる環境を整えなければならない。これは、独居高齢者がペットと共に暮らす場合も必ず守らなければならない事項である。

図表2 独居高齢者がペットと暮らすことの課題
図表2 独居高齢者がペットと暮らすことの課題

3.独居高齢者が安心してペットと暮らすために

独居高齢者がペットと共に生活することにさまざまな効用が想定されるなか、可能な限り課題に適切に対応することで、独居高齢者もペットも安心して生活できる環境を実現することが望ましい。

課題への対応については、当事者の社会的・経済的状況を踏まえ、自助・共助・公助を組み合わせて行うことが必要である(図表3)。自助の取組みが原則ではあるが、自助に該当する取組みであっても、当人の心身の健康状態、認知機能の維持レベル、経済的状況に応じて共助・公助の支援も必要である。

図表3 ペットとの共生における課題への対応
図表3 ペットとの共生における課題への対応

しかし、現時点では、高齢者によるペット飼育に対する支援についての共助・公助の仕組みが十分に体系化されているとは言い難い。高齢者福祉・介護保険の所管は厚生労働省、動物愛護管理は環境省が担当しており、各自治体においてもこれら2つのテーマの担当組織が異なることが、その一因になっているのであろう。

また、多頭飼育の問題は独居高齢者がペットと暮らす際の課題とは異なるが、対応方法として動物愛護管理、高齢者福祉に関わるさまざまな主体が連携・協働することの効用は同様であると考える。環境省は「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン」(2021年3月)(注5)を策定し、その背景として「多頭飼育に起因する問題の背景には、飼い主の経済的困窮や社会的孤立による生活困窮等の問題があり、社会福祉的な支援を必要とする飼い主が多いこと、再発のリスクが高いこと等から、「人の問題」と「動物の問題」として別々にとらえるのではなく、関係者が連携して対応することが重要」であり、「社会福祉部局、動物愛護管理部局をはじめとする多様な関係主体が連携・協働」することが重要であると述べている。そして、動物愛護管理、社会福祉に関わる官民・ボランティアなど、さまざまな主体の役割と相互連携に関するガイドラインを示している。こうした方針・取組みを、ペットと暮らす独居高齢者が直面する課題への対応にも活かすことができると考える。

自助で対応し切れなくなり共助・公助の支援を受ける際、心身の機能および認知機能の低下などから、独居高齢者自身が情報収集を行い適切な機関の支援に辿り着くことは困難である。高齢者福祉・介護保険制度の仕組みのなかで、自治体や地域コミュニティ・ボランティアなどによるプロアクティブな関与が可能になれば、独居高齢者がペットと共に暮らすことをあきらめる必要がなくなるのではないか。

たとえば、日常的な困りごとについては、地域包括ケアシステムの仕組みにおいて独居高齢者を見守るなかで動物愛護管理センターにつなぐことが考えられる。災害発生時の避難については、当人が避難行動要支援者である場合は、個別避難計画の様式のなかにペットに関する事項を挿入し、ペットと共に避難し、避難所での円滑な避難生活につなげることが考えられる(注6)。経済的負担の軽減としては、前述の介護予防・認知症発症リスク軽減効果をより精緻に検証した上で、介護保険制度の仕組みの中で対応可能な施策を検討することが考えられる。また、2024年4月1日に施行された「孤独・孤立対策推進法」にもとづき、孤独・孤立対策の一環として独居高齢者のペット飼育に対する支援に取り組むことも考えられる。なお、残念ながら「孤独・孤立対策に関する施策の推進を図るための重点計画(案)」には盛り込まれていない。

独居高齢者がペットと共に暮らすことは、「生きがいを持ち」、「健全で安らかな」、「尊厳ある自立した」生活を送るという、高齢者福祉や高齢者介護の理念に合致する。今後の、独居高齢者がペットと共に暮らすことを支える共助・公助の体制のさらなる充実を期待したい。

【注釈】

  1. 櫻井雅仁「独居高齢者支援における孤独・孤立対策推 進法の意義と展望~急がれる身寄りのない高齢者への支援システムの構築~

  2. 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター プレスリリース「ペット飼育が介護費の抑制に影響」(2023年2月3日)

  3. 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター プレスリリース「ペット飼育と認知症発症リスク」(2023年10月24日)

  4. 一般社団法人 ペットフード協会「令和5年 全国犬猫飼育実態調査」

  5. 環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~

  6. 櫻井雅仁「大災害から高齢者を守るために~一層期待される自治体の関与~

櫻井 雅仁


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。