ビジネスを支える高度IT基盤

~コンテナ技術でDX推進~

客員研究員 立石 慧

要旨
  • ビジネス環境は急速に変化しており、IT活用によりイノベーションを達成するデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の機運が高まっている。DX推進の重要性が増すに従いIT基盤への要求は高度化している。そして近年、次のIT基盤高度化のトレンドの1つとして注目されているのがコンテナ技術である。
  • コンテナ技術は「アプリケーションと動作環境をパッケージにしプロセス単位で実行する技術」であり、まさに運送業のコンテナのようにパッケージされている中身に依存することなく取扱うことを可能にする技術である。OS(オペレーティングシステム)単位で動作させる従来技術に対し、より軽量で環境依存の少ないプロセス単位で動作させるコンテナ技術は開発したアプリケーションを短期間・低コストで異なる環境で動作させることが可能になるため、ビジネスにおけるアジリティ(俊敏性、詳細は注1)に貢献すると期待されている。
  • コンテナ技術はビジネスのアジリティに貢献できる技術であるが、メリットを享受するためには適用システムの選定や関連ソリューションの検討等、複数の検討観点をクリアする必要がある。そのため、着実にコンテナ技術のメリットを享受するためには、「新規・小規模」のシステムから「既存・大規模」のシステムへ段階的に適用するような計画性が求められる。
目次

1.ビジネス環境とIT基盤の変化

2021年大手米銀が売上高に対し10%、実に年間1.5兆円規模のIT投資を決定した(日本国内の金融機関の売上高に対するIT予算比率の2021年度平均は6.3%)。日本政府の2022年度デジタル関連予算1.3兆円を超える大規模なIT投資だ。資本・労働・土地は生産の基本要素とされてきたが、今日のビジネス環境で問題になっているのはどれだけ資本や労働力を獲得できるかではなく、イノベーションにより資本と労働力を効率的に使い、どれだけビジネスを成長させるかである。そして、イノベーションのカギとなるのがIT活用である。大手米銀の巨額IT投資はこのようなビジネス環境の変化を端的に物語っている。

日本国内ではイノベーションを起こすためのIT活用はデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれ、機運が高まっている。DXの重要性が増すに従い、IT基盤の要件は年々高度化している。IT運用維持費を削減するためのオンプレミス(注2)からクラウド(注3)への移行や、AI活用のためのデータ分析基盤構築などがその事例である。そして近年、次のIT基盤の要件高度化のトレンドの1つとして注目されるのがコンテナ技術である。

2.アジリティに貢献するコンテナ技術

コンテナ技術は、「アプリケーションと動作環境をパッケージにしプロセス単位で実行する技術」である。従来技術では1つのハードウェアに複数のOSを搭載することでハードウェアを効率的に利用できるメリットがあったが、同時に、リソース消費や環境依存の大きいOSを含めてパッケージにする必要があった。一方、コンテナ技術はOSに依存せず、軽量で環境依存の小さいプロセスという単位でパッケージ化し実行可能になった点で技術的に進化している(資料1)。

上記の技術的特徴はあまりに単純で大した特徴とは思われないかもしれない。しかし、ビジネスにも関連する重要な特徴である。具体的には、コンテナ技術は開発時と異なる動作環境へOSの種類やバージョンの差異の影響を最小限にしてアプリケーションを移行できる可搬性という特性やアプリケーションを軽量に動作させる特性を備えており、短期間・低コストでアプリケーションが利用可能になるため、ビジネスの環境変化に迅速に対応し易くなる。

図表1
図表1

コンテナ技術の詳細なメリットについては後述するが、例えば、ある米国大手生保ではオンプレミス環境からクラウド上のコンテナ基盤に移行した結果、数週間かかっていたリリース(注4)作業が数分で完了できるようになり、従来は年間24回であったリリース頻度も2017年には10カ月の間だけで500回まで増加したという。このようにコンテナ技術により従来のIT基盤と比較し圧倒的なスピードを獲得している事例が増えてきている。

米国では上記のような導入事例が多数報告される一方、日本でのコンテナ技術導入は限定的である。経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2021年12月に公表した調査内容によると、企業のコンテナ技術活用が米国では57.2%に達しているのに対し、日本では11.6%に留まる(資料2)。IT技術においては、米国で普及した技術が数年後に日本に流入している現状を鑑みると、次のIT基盤のトレンドにコンテナ技術が重要な位置を占めると予想することは自然である。

図表2
図表2

3.コンテナ技術のメリット

コンテナ技術のメリットの説明の前に、コンテナ技術の最大の特徴である可搬性について、運送業におけるコンテナの例を用い補足したい。

例えば、貨物船にコーヒー豆を積載し港町の飲食店まで運送するとする。コンテナ登場以前は、着港した貨物船からコーヒー豆が梱包された袋を荷役作業員が個別にトラックに積載し直す必要があった。荷役作業員は荷物の中身の特性に応じて積載の仕方を切替える必要があり、特定の荷物については非常に重いものや高級品など荷役作業員のスキルが要求された。しかし、コンテナ登場後は、コンテナをクレーンで釣り上げてトラックに接続するだけで積載できるようになった。コンテナにどのような荷物が積まれているかは問題でなくなり、荷役作業員が不要になったことで輸送時間・コストが最適化された。

同様に、システム開発におけるコンテナ技術は、アプリケーションを正確・安全に異なる環境に移行させるためのコストを最小化する。コンテナ技術はアプリケーションと動作環境のパッケージであり、運送業におけるコンテナのように、別環境に移行するためのコストを最適化する。従来のシステム開発では、異なる環境にアプリケーションを移行する場合、移行先での動作を確認するためのテスト工数と場合によっては新たな開発工数が必要となることがしばしば発生している。さらに、アプリケーションの特性に合わせてエンジニアは実装と運用ノウハウが要求される。しかし、コンテナ技術登場後、コンテナを基礎に構築されたアプリケーションに関しては、アプリケーションと動作環境をパッケージにして移行できるようになり、異なる環境へのアプリケーション適用の時間・コストが必要最低限に抑制可能になった。

以上、コンテナ技術について説明したが、上記のような高い可搬性によってどのようなメリットを企業は享受することができるだろうか。企業によって多様であるが、大きく次の3点が考えられる。

1点目は、システムデプロイのコスト(時間・人件費)最適化である。システムデプロイとは開発したアプリケーションを別環境に適用する一連の作業のことである。先述したように、アプリケーションは別環境に適用可能か、適用できない場合は適用可能にするために開発するか調査検討が必要である。一般的に、システムデプロイの作業は品質担保の観点で非常に重要であり、企業規模が大きくなればその専門の人材や部門が存在するほどシステム開発における重要な作業である。一方で、労働集約的で価値創造に繋がらない作業も多い。コンテナ技術活用によるシステムデプロイのコスト最適化による効果は企業によって異なるはずだが、先述した米国大手生保の事例のように移行時間が大幅に短縮されたり、デプロイ回数が増加することでビジネスのスピードが改善される効果が期待できる。また、大手邦銀がコンテナベースで開発する外部IT企業のアプリケーションを短期間で移行できるコンテナ基盤を構築した事例のように、外部リソースの有効活用も可能である。

2点目は、リソース効率の向上である。コンテナを実行できる環境であれば、OSやライブラリに関わらずアプリケーションを搬入し動作させることが可能になるため、CPUやメモリーといったコンピューティングリソースを有効活用できる。そうすれば、ビジネス側は費用を最小限に抑制でき、仮にうまくいかなかった場合すぐに中止する判断をし易くなる。

3点目は、アジャイル開発を前提とするようなモダンな開発環境における開発速度の向上である。モダンなシステム開発では、CI/CD(継続インテグレーション/継続デプロイ)と呼ばれる考えが広く浸透している。CI/CDとは、開発したアプリケーションをその他のアプリケーションと統合・テストしビジネス適用するための一連作業を手順として構成し自動化するという考え方であり、スピードが要求されるシステム開発では必須の概念とされている。コンテナベースのCI/CDにすることで、開発者間における環境開発の差異を解消できるため従来手法と比較し信頼性の高い手順を構築することができ、結果として開発を高速化できる。

以上のような点から、コンテナ技術の活用を進めることがシステム開発のアジリティに貢献し、ひいてはDX推進に貢献できると考えられる。

4.コンテナ技術の導入

コンテナ技術を導入する際のポイントについても触れておく。

1点目は、コンテナ技術を適用するシステムを検討することである。コンテナ技術はアジリティに貢献できる技術である。従って、数年間メンテナンス不要で安定動作しているような基幹システムにコンテナ技術を適用するよりも、開発速度が求められるシステムや頻繁に機能追加が要求されるシステムでよりメリットを享受できる点を認識しておく必要がある。

2点目は、コンテナ関連ソリューションを適切に利用することである。一般的にコンテナは単体で利用するのではなく、複数のコンテナを運用管理する必要がある。高いカスタマイズ性が要求される場合は、コンテナオーケストレーションツールと呼ばれるツールで事実上のスタンダードとなっているKubernetes(クーバネティス)と呼ばれる環境を自社で構築運用することも考えられる。ただ、業務要件に問題がなければベンダーの提供するコンテナ関連ソリューションを活用し、低コストで構築運用することも可能である。このように、ビジネス要件に合わせて適切な環境を整理することもコンテナ技術を活用する上では非常に重要なポイントである。

3点目は、セキュリティ確保・運用管理ノウハウを計画的に蓄積することである。コンテナ技術活用にはメリットがあるが、OSレベルの管理からプロセスレベルの管理になることにより、セキュリティに係る設定が複雑化したとの指摘もされている。また、運用管理の観点ではエラーが発生した場合の対応は従来のシステムと比較し複雑なオペレーションが求められる場合がある。そうした従来環境との差異により、アップデート方法や設定管理、エラー発生時の運用対策などコンテナ技術の導入による新たなセキュリティ確保・運用管理ノウハウが必要になる。このようなノウハウは一朝一夕には獲得できないため、段階的にコンテナ環境を拡大しノウハウを蓄積していく計画があるとよいだろう。

このように、コンテナ技術の導入にはメリットもあるが検討すべき観点もある。可搬性が高く開発速度の速いシステムを実現するために、適切なソリューションの活用や一定のノウハウ獲得を前もって想定しておくとスムーズに導入を進められる。

従って、コンテナ技術の導入においては、「既存・大規模」システムに適用するよりも「新規・小規模」システムに適用し、得られるメリットを確認しながら段階的に適用先を拡大するのが現実的と考えられる。もちろん、技術的には既存システムをいきなりコンテナでリプレースすることも可能だが、使いこなせなければ逆に生産性を落とす結果になるだろう。いずれにせよ、ビジネス要件や習熟度に合わせてコンテナ導入を実施することで導入効果を最大化できる。

図表3
図表3

5.終わりに

日系コンサルティング企業が実施した企業ヒアリング調査によると、年間売上1000億円以上の日系企業でDXに成功していると認識していたのはわずか約7% であったという。DX推進のように成功確率は低いが重要な取組みにおいては、短期間で多くの試行が必要である。コンテナはビジネスのアジリティに貢献するインフラ技術であり、まさにDX推進のようなアジリティの求められる取組に寄与する技術であると筆者は考えている。コンテナ技術は一見、クラウドやAIと比較するとビジネスとかけ離れたマイナーな技術に思えるかもしれないが、DX推進のトレンドを受けて今後重要性が増してくるだろう。今後もコンテナ技術の進化とビジネスに与える影響を注視していきたい。

以 上

【注釈】

  1. 俊敏性、機敏性の意。ビジネスにおいては企業が環境変化に柔軟に素早く対応することを指す。
  2. 自社で運用・管理するシステムを利用する形態。
  3. ベンダーが運用・管理するシステムをインターネットなどのネットワーク経由で利用する形態。
  4. 開発したアプリケーションを利用者が利用できる状態にする一連の作業。本番移行作業。

【参考情報】

  • JPMorgan Chase「This $12 Billion Tech Investment Could Disrupt Banking」
    https://www.jpmorganchase.com/news-stories/tech-investment-could-disrupt-banking
  • JUAS 「企業IT動向調査報告書 2022」
    https://juas.or.jp/cms/media/2022/04/JUAS_IT2022.pdf
  • Kubernetes Case Study - Northwestern Mutual
    https://kubernetes.netlify.app/case-studies/northwestern-mutual/
  • FinTech Journal 「三菱UFJ銀行が「コンテナ開発」を選んだ理由、マネーツリーと見つけた“勝ちパターン”とは」(2021)
    https://www.sbbit.jp/article/fj/72053
  • Mckinsey「Getting the most from cloud services and containers」
    https://www.mckinsey.com/business-functions/mckinsey-digital/our-insights/getting-the-most-from-cloud-services-and-containers
  • NIST「Application Container Security Guide」
    https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/SpecialPublications/NIST.SP.800-190.pdf
  • 情報処理推進機構「DX白書2021」(2021)
    https://www.ipa.go.jp/files/000093706.pdf
  • ABeam Consulting「日本企業のDX取り組み実態調査」結果発表
    https://www.abeam.com/eu/ja/about/news/20201214
  • 株式会社野村総合研究所「AWSコンテナ設計・構築[本格]入門」(2021)

客員研究員 立石 慧


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。