「G7の結束」は必然か、経済力と軍事力のパワー・シフト

~データで見る国際秩序(1)~

石附 賢実

要旨
  • 米ソ冷戦時代は軍事力のパワー・バランスが国際秩序を形成していた。現在は地政学に経済を加えた「地経学」と言われるように、軍事力と経済力の双方が国際秩序を形成する。

  • 経済力を規模で見ると、中国が台頭してきたとは言え、G7の経済規模はGDPで世界の43%(2020年)となっており、G7による連携は中国(17%)と対峙していく上で有用と思われる。なお、米国は移民を中心に今後も人口が堅調に増加するのに対して中国は早晩減少に転じ、パワー・シフトのスピードは緩まる可能性がある。

  • 軍事力を軍事費で見ると、引き続き米国が他国を圧倒している。但し、中国は台湾有事などの局地戦に保有戦力の多くを投入できる一方で、米軍は世界に展開しており、局地戦への即応能力には限界がある。また、中国が米国と均衡、もしくは米国を凌駕していると米国が認識している軍事分野も存在する。

  • 2021年6月11-13日に開催されたG7サミットの声明では台湾海峡の平和と安定、自由・平等・人権保護などの重要性が強調された。G7のリーダーたちは中国とのパワー・バランスを均衡させる上で「G7の結束」は有用と認識している。

  • 「G7の結束」はパワー・バランスに焦点を当てれば「必然」。但し、この必然を選択するかどうかはリーダー=選挙次第。国内格差が広がればポピュリズムの台頭を許し、保護主義・自国第一主義への圧力が強まることとなる。特に来年の米国中間選挙の行方は国際秩序に大きな影響を与えると思われる。
目次

1. 「経済力」と「軍事力」が国際秩序を形成する

トランプ政権時代に端を発した米中貿易戦争は、報復関税の応酬に続き米中双方の輸出管理規制に発展するなど先鋭化した。バイデン政権誕生後は中国を「唯一の競争相手」と定義し、G7など民主主義諸国を巻き込んで、人権問題、香港・台湾を巡る情勢への懸念表明、中国による現状変更の試みへの断固とした反対など、単なる通商政策上のディールから、民主主義・自由で開かれた国際秩序・法に基づく支配など「普遍的な価値観を巡る対立」の色合いが鮮明になってきている。
 ここではその対立の是非を論じることはしない。米国のバイデン政権が、前政権の自国第一主義やバイ(二国間)で相手を屈服させる手法から、G7など民主主義諸国を巻き込んだマルチ(多国間の枠組み)重視にシフトした、その背景をデータで探ることとする。米ソ冷戦時代は軍事力のパワー・バランスが国際秩序を形成していた。現在は地政学ならぬ「地経学」と言われるように、軍事力に加えて経済力が地政学に影響を与えている。すなわち、地経学とは「国家が、地政学的な目的のために、経済を手段として使うこと」(船橋洋一、2020)である。新しい時代の国際秩序を形成する「経済力」と「軍事力」のバランスについて具体的なデータで概観する。なお、本稿は概観を目的とすることから定量的な規模のみを比較することとする。

2. 経済力のパワー・バランス

まず経済力についてGDP(US$、名目)でパワー・シフトを概観したい(資料1)。中国のGDPは2000年には日本の4分の1、米国の8分の1にも満たなかった。当時はまだ中国の経済力の存在感は限定的で、民主化や自由で公正な経済が進展することへの期待もあって、2001年にはWTO加盟が認められた。その後WTOの枠組みの下で、途上国待遇(Special and Differential Treatment)を享受しながら貿易を拡大し(途上国待遇は現在も手放していない)、2010年には日中のGDPが逆転するに至った。米国は、最近においても移民を中心とした人口増やGAFA・旺盛なスタートアップによるイノベーションの継続などにより先進国のなかでは高成長を維持するも、2030年までには米中のGDPは逆転するとの予想もある(日本経済研究センター(2020)「アジア経済中期予測」など)。

資料1
資料1

ここで、GDPの推移を世界シェアで概観する(資料2)。中国は2000年時点ではわずか4%であったが2020年時点では17%、2026年には20%に到達する見通しである。米国は2000年時点で30%を占め、その後先進国の中では高成長を続けたものの、2020年は25%、2026年には23%の見通しとシェアでみると漸減、中国から猛追されている状況である。日本は成長の停滞と新興国の台頭により2000年から2026年にかけてシェアが3分の1にまで縮小する見通しである。
 G7(米国、日本、ドイツ、イギリス、フランス、カナダ、イタリア)は2000年時点ではわずか7か国で世界のGDPの実に65%を占めていた。2020年時点では46%、2026年に向けて42%まで低下する見通しである。

資料2
資料2

米国一国では中国とは均衡しつつあり、将来逆転する可能性もある一方で、G7合計で見れば2026年時点においても中国の倍以上の経済規模を維持できることとなる。米国のトランプ前政権は自国第一主義やバイ(二国間)で相手を屈服させる手法を用いたものの、世界第2位の経済大国として自信を深めている中国から猛反発を受けた。バイデン政権がG7など民主主義諸国を巻き込んだマルチ(多国間の枠組み)重視にシフトし、かつ他のG7各国もそれを歓迎しているのは、パワー・シフトを踏まえれば中国と対峙する上で「束」となることが有用と考えているからであろう。

次に経済力のパワー・シフトに関連して、人口の将来推計に触れたい。言うまでもなく人口が経済規模に与えるインパクトは大きい。また、人口は現状の出生率などから将来推計が比較的容易な指標である。米中の将来の成長曲線へのインパクトを与えるのは人口の規模そのものではなく、少子高齢化など人口構成の質的変化と人口増加率となる。
 中国は長らく続いた一人っ子政策の影響で少子高齢化が進行している。直近では2021年5月31日の共産党政治局会議で3人目の子供も容認する方針が示されるなど、その是正に力を入れている。いびつな人口ピラミッドは、現役世代が老後世代を支える社会保障制度や税による再分配など、現役世代への負担の増加を通じて経済成長の足かせとなる可能性がある。いわゆる「人口オーナス(重荷)」の状況が現実のものとなりつつある。
 一方の米国は、継続的に流入している移民の存在もあり、先進国では稀にみる堅調な人口増加が見込まれる。資料3の国連推計(2019年中位推計)の通り、2030年代から中国が人口減少にさらされる一方で、米国は引き続き人口ボーナスを享受する。また、中国で2020年に実施された国勢調査の公表が、予定されていた2021年4月から5月へと遅延したことも、人口減少社会が迫っている中で何等かの統計操作が行われたのではないかとの憶測を呼んでいるとの報道もある。人口動態を踏まえれば、中国が成長力著しい今のうちに、多少対立・孤立してでも自身に有利な国際秩序を構築すべく行動するのは不自然ではないと思われる。

資料3
資料3

3. 軍事力のパワー・バランス

まず、日米中の軍事費支出の推移を概観する(資料4)。この20年で米国の軍事費は2.4倍の増加となった一方で、中国は約11倍の増加となっており、米中倍率は14.4倍から3.1倍に縮小している。この間、日本はGDP比1%を自衛隊予算に充てる方針を継続しつつも、経済成長が停滞したためにほぼ横ばいの支出額となっており、日中倍率は2倍から0.2倍となり、規模が逆転した上に、日本から見れば中国に大きく引き離されている。

資料4
資料4

次に2020年時点の世界の軍事力のパワー・バランスを同じく軍事費支出で概観する(資料5)。米国単独で7,782億ドル、世界の40%を占めており、引き続き一国で圧倒的な軍事力を有していると言える。中国は、G7の米国除きの6か国合計とほぼ同水準の13%を占めるものの米国の半分にも満たない。米国を含めたG7では世界の54%を占め、軍事費支出だけを見ればG7の優位は揺るがないように見える。

資料5
資料5

軍事力を比較する際に注意が必要なのは、局地戦の優劣については単純な軍事費の比較で語れない点にある。中国は近隣での紛争に保有戦力の多くを投入できる一方で、米軍は世界に展開しており、局地戦に即応できる戦力は限られる。仮に米軍が集結するのに数週間を要するとすればそれまでに局地の紛争が決着してしまう可能性もある。資料6の海上兵力を例に見ても米軍は第2艦隊(第1艦隊は欠番)から第7艦隊まで世界展開している中で689万t、比較的近海で活動していると思われる中国は米国の3割ほどの197万tとなっており、東アジアでは米軍優勢とは言いづらい状況になってきている。

資料6
資料6
資料6注釈
資料6注釈

また、2020年の米国防省報告”Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China”では米国と中国が軍事力で均衡、もしくは中国が米国を凌駕している3分野として、①戦闘艦建造能力(2020年時点の稼働戦闘艦(Battle Force)数:中国350隻(世界最大)、米国293隻)、②地上発射型巡航ミサイル(500-5,500km射程について中国1,250基、米国は70-300km射程のみ保有)、そして③長距離地対空ミサイルを例示している。

これまで見てきたように、軍事費ベースでは圧倒的なプレゼンスを誇る米軍も、地理的分散によって局地戦への即応能力には限界があり、加えて中国がそもそも米国と均衡もしくは凌駕している軍事分野も見受けられるとされる。2021年3月にQUAD(日米豪印4か国)首脳会談を開催したこと、同4月にバイデン大統領が対面で会う最初の国家首脳として菅総理をワシントンに招いたこと、その共同声明に「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」と明記したこと、あるいは(横須賀に旗艦を置く第7艦隊は西太平洋・インド洋と担当海域が広いため)2021年4月の報道によれば現在欠番となっている第1艦隊を新たに設置しインド洋を管轄させる案を米海軍制服組トップが言及したとされることなどは、まさに東アジアでの軍事的バランスを米国寄りに回復させるという米国の意志の現れであろう。

4. 「G7の結束」は米国次第の様相

6月11日から13日にかけて開催されたG7首脳会談の共同声明では台湾海峡の平和と安定、自由・平等・人権保護などの重要性が強調された。G7各国のリーダーは、中国とのパワー・バランスを均衡させる上で「G7の結束」が有用であると考えていることは間違いないであろう。
 パワー・バランスをどう取るかに焦点を当てれば、「G7の結束」は「必然」のように見える。他方で、地政学的に直接中国と対峙している日米と他のG7各国との間では、結束への温度感に差が生じるのは自然なことである。また、リーダーの意志、すなわち民主主義国家においては選挙結果によってもその温度感には大きな差が出てくる。トランプ前政権下においては、米国の自国第一主義によりG7の結束は揺らいだ。米国のマルチの枠組みにおけるリーダーシップが欠落していたなかで、新型コロナで中国への信頼感が急速に悪化する前ではあったものの、中英・中独関係は経済関係を中心に蜜月関係とまで言われるようになり、イタリアが一帯一路の覚書に署名するなど中国へのパワー・シフトは不可逆的とも思われた。その後、マルチ重視のバイデン政権誕生により民主主義・自由で開かれた国際秩序・法の下の支配といった普遍的な価値観のもとにG7は再び結束した。これはすなわち、パクス・アメリカーナの終焉もささやかれているとは言え、米国が引き続きG7の中で圧倒的な強国であることの証左でもある。経済力や軍事力のデータで見れば、G7が結束して中国とのバランスをとることは「必然」のように見える一方で、その結束は米国の意志にかかっていると言える。
 そして、繰り返しとなるが民主主義国家がその「必然」を選択するかどうかはリーダーを選択する国民にかかっている。国内格差が広がればポピュリズムの台頭を許し、保護主義・自国第一主義への圧力が強まることとなる。特に、米国が引き続きG7を始めとした国際協調を重視し、中国への対抗軸の中心としての役割を果たし続けるためには、米国内の格差を是正し分断された社会を安定させていく必要がある。現在、米国は大統領、上院、下院ともに民主党が制する「トリプル・ブルー」の状態にあるものの、上院・下院ともに民主・共和両党の議席数は拮抗しており(特に上院の議席数は50対50で、上院議長を兼務するハリス副大統領の1票でかろうじて民主党が制している状況)、来年に行われる中間選挙の結果次第では保護主義・自国第一主義的な外交に逆戻りし、「G7の結束は必然」との空気感が萎んでいくことにもなりかねないであろう。

以 上

【参考文献】

  • IMF (2021) World Economic Outlook April 2021
  • United Nations (2019) World Population Prospects 2019
  • 防衛省(2020)防衛白書 令和2年度版
  • 舩橋洋一(2020)「地経学とは何か」
  • 米国防省(2020) ”Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China”
  • 日本経済研究センター(2020)「アジア経済中期予測」

石附 賢実

石附 賢実

いしづき ますみ

総合調査部 マクロ環境調査G グループ長
専⾨分野: 経済外交

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