暮らしの視点(10):医療・健康情報の入手と活用

~高齢層へのインターネット利用の広がりがもたらすもの~

北村 安樹子

目次

1.高齢者へのインターネット利用の広がり

新型コロナウイルスの終息を目指し、各自治体や政府による65歳以上の高齢者へのワクチン接種が開始されている。今回の募集・予約をめぐっては、多くの自治体でインターネットを利用した申し込みシステムが準備されたことも注目された。

本稿では、高齢者におけるインターネット利用の広がりが、医療・健康情報の入手行動にどう影響するのかについて考えてみたい。

2.インターネットを利用した高齢者の医療・健康情報の入手実態

少し前のデータになるが、2017年末に内閣府が行った「高齢者の健康に関する調査」では、全国55歳以上の男女を対象にインターネットによる医療や健康情報の入手状況についてたずねている。その結果をみると、回答者全体の約7割が「インターネットは使わない」と答えている(図表1)。高齢層のインターネット利用率が近年急速に高まってきたことをふまえれば、現在は医療や健康に関する情報を入手する際に、インターネットを使わないとする人がここまで多いとは考えにくい。しかしながら、この調査が行われた2017年時点では、それほど多くはなかったことをあらためて知ることができる。

一方、インターネットで情報を入手していると答えた人がどのような情報を入手しているのかをみると、最も多くあげられたのは「病気について(病名や症状、処置方法)」(22.6%)であり、「病院などの医療機関」(14.0%)、「薬の効用や副作用」(13.6%)の順に多くあげられている。病気や医療機関、薬に関する情報を入手している人が比較的多い一方、「自分でできる運動(体操やストレッチ等)やマッサージの方法」(6.4%)、「栄養バランスのとれた食事」(4.7%)、「健康食品や滋養強壮剤」(4.1%)などの健康関連情報についてはいずれも1割に満たない。

なお、この調査が行われた時点では、新型コロナウイルスをめぐる現在のような社会状況は想定されておらず、病気や医療機関等に関する情報を入手している人の方が、病気予防や健康づくりに関する情報を入手している人に比べ多かった。インターネット利用が浸透し、コロナ禍という経験を経た現在とでは、この年代の人々が求める情報の内容に変化が生じている可能性もある。虚弱化したり、介護が必要な状況を迎えてからも自宅で生活する人が増えるなかで、自身の健康を維持したり、家族の介護を行う際に、これらの情報をよりよい生活につなげていけるかどうかは重要だろう。

図表1
図表1

3.医療・健康情報の入手と行動

では、医療や健康に関する情報をインターネットで調べることがあると答えた人では、それらの情報をどの程度実際の行動の根拠にしているのだろうか。この点についての回答をみると、「他の情報と合わせて判断し、有用な情報であれば行動の根拠としている」(49.2%)とした人が最も多く、「いずれの情報も参考程度で行動の根拠にはしない」(33.0%)がこれに続いている(図表2)。

一方、「ほぼ信用して行動の根拠にしている」(14.1%)はこれらに比べかなり低いものの、『根拠にしている』の合計割合は先の「他の情報と合わせて判断」する人と合わせれば6割強となる。インターネットで入手したいずれの情報も行動の『根拠にしない』とした人は、情報入手者のおよそ3人に1人にとどまっている。 高齢世代へのインターネット利用がさらに広がれば、医療や健康に関するさまざまな情報をインターネットを通じて自ら調べる人も今より増える可能性がある。高齢者には、多様な情報のなかから正しい情報を得る力を身につけることが、より一層求められることになる。また、それらを他の情報とあわせて総合的に判断して実際の行動を行ったり、自身のライフスタイルに取り入れていく視点をもつことも重要になるだろう。

図表2
図表2

【参考文献】
1)澤岡詩乃「第3章 調査結果の解説:ネットを介したヘルスリサーチを行う高齢者の実際の健康行動」内閣府「平成29年高齢者の健康に関する調査結果(全体版)」:122-124.
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h29/zentai/pdf/sec_3.pdf

北村 安樹子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ