注目のキーワード『金融レジリエンス』

小林 菜

資産形成というと、NISAや株式投資などで「お金を増やす」ことに目が向きがちです。一方、物価上昇や失業、病気、災害など、家計には予期せぬ出来事が生じます。特にたくわえが十分でない世帯では、長期的な投資に先立ち、急な出費や収入減に対応できる生活防衛資金の確保も重要です。こうした備えは、投資した資産を不利な時期に取り崩すことを避け、長期的な資産形成を続けるための支えにもなります。したがって資産形成には、「どれだけ資産を増やせるか」だけでなく、「家計が予期せぬショックにどれだけ耐え、そこから立て直せるか」という視点も欠かせません。家計がショックに耐える力の重要性は、近年のコロナ禍や物価上昇を経て、改めて認識されています。

こうした視点に関わる概念の一つが「金融レジリエンス」です。金融レジリエンスとは、経済的なショックに直面しても生活を維持し、立て直す力を指します。OECD/INFEの国際調査では、「主な収入源を失った場合に、借入れや転居をせずに生活費をどのくらいの期間まかなえるか」「月収に相当する大きな支出を、借入れや家族・友人からの援助なしに支払えるか」といった設問で測定しています。

もっとも、生活を立て直すために必要なのは、金融面での備えや対処力だけではありません。困難な状況を受け止め、適応し、立ち直っていく心理的な力、すなわち「心理的レジリエンス」も重要です。

また、どれだけ備え、計画を立てていても、将来には予測できない部分が残ります。収入や物価、金利、投資収益、家族状況は不確実で、資産形成に絶対安心の「唯一の正解」はありません。そこで参考になるのが「ネガティブ・ケイパビリティ」です。これは、すぐには答えの出ない状況や、不確実性、曖昧さに直面しても、性急に結論を求めず、その状況に耐えながら考え続ける力を意味します。

経済的なショックに備え、対処し、生活を立て直す「金融レジリエンス」。困難な状況に心理的に適応し、回復する「心理的レジリエンス」。そして、不確実性と付き合いながら考え続ける「ネガティブ・ケイパビリティ」。これら三つの力をあわせて育むことが、不確実性の高い時代における資産形成を支える重要な視点ではないでしょうか。

(資産運用調査部 研究員 小林菜)

小林 菜


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。