内外経済ウォッチ『米国~ウォーシュFRB議長は利上げを急がず~』(2026年9月号)

桂畑 誠治

目次

ウォーシュFRBは様々な意見で内部分裂

FRBからのタカ派的な発信の増加に伴い、FF金利先物市場では年内の利上げに加え、複数回の追加利上げまで織り込む動きが見られている。

こうした中、ウォーシュ氏がFRB議長に就任して2回目となるFOMCが2026年7月28、29日に開催された。FRBはFFレートの誘導目標レンジを3.50~3.75%で据え置くことを、賛成9・反対3(前回6月は賛成12・反対0)の賛成多数で決定した。据え置きは2025年12月以来5会合連続であり、市場の事前予想通り(据え置きが基本シナリオも利上げ確率約3割織り込み)の決定となった。

今回の会合で最大の注目を集めたのは、反対票の多さとその方向性である。クリーブランド連銀総裁、ミネアポリス連銀総裁、ダラス連銀総裁の3名が、いずれも0.25%(25bp)の即時利上げを求めて据え置きに反対した。政策変更を巡り3人の当局者が同時に同じ(タカ派)方向で反対票を投じたのは、2016年9月以来約10年ぶりの異例な事態となった。

現在はデータを見極める状況と議長は主張

会見に臨んだウォーシュ議長は、3名の地区連銀総裁が即時利上げを求めた点について、「利上げを焦るのではなく、収集したデータを慎重に吟味・検証するプロセスが必要である」と説明し、拙速な決定を避けこれまでの政策効果を見極める時期であるとの認識を示した。また、委員会内でのタカ・ハト双方の激論を「良い家族喧嘩」と表現し、活発で建設的な議論が行われていると肯定的に評価した。

議長は今回の据え置きが利上げサイクルの終了や単なる一時停止であることを否定し、「経済状況の厳密な見直しプロセス」と述べて政策の方向性を限定せず、政策の柔軟性を維持した。しかし、「インフレの高止まりや再燃が続くのであれば、金利(利上げ)が解決策の一部になり得る」とし、必要に応じた行動を躊躇しない姿勢を強調した。あわせて「5年以上にわたりインフレが目標を超えているが、裏の目標などは存在せず、目標は明確に2%のみ」と語り、物価抑制に向けた強いコミットメントを強調した。

議長は、FRBが政策金利を据え置いている中で市場利回りが上昇したことに対し、「フォワードガイダンスの減少が一因かもしれないが、市場が生のデータをフィルタなしに反映している証拠であり、市場参加者が審判(FRB)ではなくボールをプレーしているような良い変化」と市場機能の復活を肯定的に評価した。

コアインフレの再加速なければ据え置き継続

インフレ動向を巡っては、総合CPIが原油価格の落ち着きによって一時的に鈍化する場面が見られるものの、コアインフレ率の低下スピードはきわめて鈍い。特に以下の複合的要因が、2%目標への持続的な収束を阻んでいる。人件費の比率が高い「住宅費を除くサービスインフレ」の粘着性の強さに加えて、行政権限主導の追加関税リスク、AI関連投資に伴う需要増、労働力不足に伴う人件費の高止まり、およびグローバルなサプライチェーン再編に伴う中間財価格の上昇が、複合的に作用しており、FRBが目標とする2%へのスムーズかつ持続的な収束を強力に阻んでいる。もっとも、短期的な見通しとして、コアインフレは帰属家賃等の低下や、9月公表予定のPCEデフレーター改定(下方修正の可能性大)により、緩やかな低下軌道を辿る見込みである。コアインフレが前年比で再加速しない限り、即座に利上げで需要を押し下げる緊急性は低い。また、金融市場がインフレを警戒して長期金利が上昇することによって、自律的に需要を抑制する効果も期待できる。したがって、ウォーシュFRBが拙速な利上げに踏み切る可能性は低く、当面はデータを見極める慎重姿勢を維持すると予想される。

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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