Well-being『知っておきたい年金改正遺族年金制度における男女差解消と新たな課題』

河野 恵

目次

男女差解消に向けた遺族年金制度改正

先般成立した「年金制度改正法」により2028年4月遺族年金制度が大きく変わることとなった。本稿ではその影響について考察する。

改正の大きなポイントは従前制度に存在していた男女間の差異の解消である。従前制度は、家計の中心を担った男性を亡くした妻を主な対象に構築されていたが、昨今の女性の就業進展や共働き世帯の増加等を背景に時代の変化に合わせて男女同条件へと見直しが図られた。

主な改正内容とその影響(シミュレーション)

男女差解消に向けた改正点として、以下の2点が挙げられる。これにより遺族年金の給付が大幅に縮小する。

子のない配偶者への給付の見直し

改正前には夫を亡くした妻に終身給付(30歳未満は有期給付)されていたものが、改正後は男女問わず5年の有期給付になる。(改正前の遺族厚生年金受給者、60歳以降の妻・夫、18歳未満の子がいる妻・夫、改正時に40歳以上(1989年4月1日以前の生年月日)の妻は対象外)

中高齢寡婦加算の廃止

一定の要件を満たす40歳以上65歳未満の妻に支給されていた中高齢寡婦加算(遺族基礎年金の3/4)が廃止となる(経過措置あり)。

上記の変更を踏まえ、夫死亡時の妻の遺族年金支給額(平均余命を考慮した87歳まで)の変化を一定の前提を置き試算した(資料1)。

図表
図表

遺族厚生年金が5年の有期給付となったことで、給付総額が大幅に減少する。一方で有期給付期間のみ、死亡した被保険者の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の1相当額が上乗せとなる「有期給付加算」が導入される(総額約86万円)が、この加算を含めても遺族厚生年金の給付総額は約2,674万円から約754万円へと大幅に減少する。また、中高齢寡婦加算は改正前には約1,364万円あったものが、25年かけて徐々に消滅する。制度移行前後では、約3,252万円の減額となる。

一方、死亡時分割制度導入により、婚姻期間中の厚生年金の記録が生存する配偶者の年金に加算される仕組みが整備されるが、実際の年金増加額は限定的である。本事例では概算で年14万円程度、総額300万円程度の上乗せにとどまる。

今後の新たな課題

今回の改正は対象となる女性にとって影響は大きい。確かに女性の就業進展や共働き世帯の増加は進んでいるが、以前として課題は多い。例えば女性の非正規雇用率は51.3%(※1)と男性と比べて倍以上と高く、非正規社員の平均年収も202万円(※2)にとどまるなど、男女の格差が完全に解消されたとは言い難い。「終身給付」から「有期給付」への転換は特に女性の老後の不安を一層高める懸念がある。継続給付制度や低所得者向けのセーフティーネットは存在するものの、運用の煩雑さや判定基準の不明確さ、情報不足などの面でなお課題が残されている。

施行予定の2028年から5年の有期給付期間内に、改正後の遺族年金制度に見合うよう就業支援、キャリア形成支援、リスキリング支援に加え、介護や育児との両立ができる環境整備など女性が安心して働き続けられるような仕組みの着実な整備や自助制度の充実が求められる。


<執筆時点で新制度の詳細に不明な点があり、一部を仮定して計算している。>

※1 総務省統計局 労働力調査(令和7年8月分)

※2 国税庁 民間給与実態統計調査(令和5年度分)

河野 恵


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