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2025.09.19
米国経済
米国経済全般
トランプ政権
深まる不確実性と欧米の政治・経済動向~海外拠点からの現地報告~『トランプ政権下で揺れる米大学基金とPE投資』
松谷 拓弥
トランプ政権と大学の対立
コロンビア大学モーニングサイド校キャンパスは、かつて近隣住民にとって親しまれた散策路や憩いの場であった。しかし現在では、大学ID保有者または事前登録を行った訪問者のみ入構可能となっている。背景には、反イスラエル抗議活動の発生を受け、混乱回避のため大学が一般立ち入りを制限した経緯がある。
2025年、第二次トランプ政権が発足すると、大学を「左翼的な“ウォーク(woke)”思想に染まり反米的・反イスラエル的である」と批判し、調査や資金圧力を強化した。特にDEI(多様性・公平性・包括性)プログラムを標的とし、各州に「違法なDEIを行っていない」と証明させ、従わなければ巨額の資金を打ち切ると警告した。
コロンビア大学は抗議活動への対応不備を理由に4億ドル超の補助金を凍結され、2億2,100万ドルの和解金支払いと政府監視を受け入れた。ハーバード大学は新規留学生受け入れ資格を剥奪される処分を受けたが、違法性を主張して提訴し差し止めを勝ち取っている。同大学には政権との和解を拒否するよう求める1万4,000人超の署名が寄せられ、学内外で大きな論争を呼んでいる。複数の大学が資金回復のために和解に応じた一方、ハーバードは抵抗の象徴として注目され、多額の寄付も集めている。
8月には、連邦地裁のギャラガー氏は政権による「反DEI指針」を違憲と判断し、資金停止計画を差し止めたが、トランプ大統領は「反DEI」を政治課題の中心に据えており、今回の判決を控訴する可能性も高く、対立は続く見通しである。
大学基金のプライベートエクイティ(PE)の保有
米国の大学基金は、未上場企業への投資を行うプライベートエクイティ(PE)ファンド市場において、公的年金と並ぶ影響力の大きい機関投資家である(資料)。大学基金は、資金引き出しのタイミングが限定的であるため、相対的に高い流動性リスクを許容できる。この特徴から、長期かつ非流動性のアセットであるPEへの資産配分比率が高い傾向にある。
実際に、ハーバード大学やイェール大学といった著名な大学基金では、全運用資産の約4割をPEが占めている。こうした高い投資比率は、大学基金が長期的な視点での資本成長を重視し、同時に市場の短期的変動に左右されにくい運用構造を有していることを反映している。ただし、この戦略は流動性確保を前提としており、資金フローや外部環境の変化に脆弱な面も併せ持つ。

LP持ち分の売却と市場への影響
高いPE投資比率を背景に、一部の大学基金ではポートフォリオ再構成の一環として、保有するPEファンドのリミテッド・パートナー(LP)持分を売却する動きが見られる。ハーバード大学は約10億ドル規模、イェール大学は最大60億ドル規模の持分をセカンダリーで売却を検討していると報じられている。
こうした売却の背景には、株式市場下落によりPE比率が相対的に上昇する「分母効果」や、近年は高金利環境による取引減少や出口環境の悪化によるPE投資のリターン悪化が一因となっている。大学側は「資産配分の最適化を目的とした戦略的措置」と説明しているが、市場関係者の一部は、政治的環境の変化や補助金削減の影響によるキャッシュニーズ増加も無視できない要因と見ている。
今後、トランプ政権が大学との対立を続け、資金繰りの安定性が損なわれれば、PE市場における巨大な資金提供者である大学基金が政策アセットミックスを変更する可能性は否定できず、その動向が注視されている。
松谷 拓弥
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。