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2025.09.19
米国経済
米国経済全般
トランプ政権
深まる不確実性と欧米の政治・経済動向~海外拠点からの現地報告~『トランプ政権発足からの評価~米国を二分する政策の行方~』
中路 浩平
政権発足から現在までの歩みと評価
1月20日に発足した第二次トランプ政権は、発足以来、大統領令を含む多数の行政措置に加え、財政調整措置法(One Big Beautiful Bill Act: OBBBA)、通商政策、国境警備強化、規制緩和など、選挙公約の柱となる主要政策を次々と実行に移してきた。こうした迅速な政権運営は、MAGA層と呼ばれる熱心な支持層を中心に高く評価される一方、社会保障費の削減やDEI関連施策の撤廃、環境規制の緩和などを巡っては反発も広がっている。複数メディアの世論調査結果では、大統領就任当初50%を超えていた支持率は、8月時点で約40%まで低下した。民主党支持層の不支持に加え、無党派層の支持率低下が顕著となり、不支持が上回る状況が続いている。その背景には政策に対する受け止め方の分断がある。大規模減税や規制緩和は富裕層や企業経営層に恩恵をもたらす一方、メディケイド削減や環境関連の助成金の停止は低所得層や地方住民に負担を強いると見られ、社会的な格差構造が一層鮮明化しかねない。
トランプ政権の真価が問われるOBBBA
7月4日に成立したOBBBAに対する世論調査結果では、不支持率が約50~60%に達し、批判的な意見が目立つが、トランプ政権は減税・歳出削減策の適用時期を綿密に設計している。即ち、家計に直接かつポジティブに響く所得減税の恒久化やチップ・残業代の課税免除(いずれも2028年までの時限措置)等は、2026年前半までに効果が出るよう実施し、2026年11月の中間選挙前に可処分所得増や景況感改善を狙う。一方、メディケイドや食料支援(SNAP)の削減、給付要件厳格化等は2026年末以降に、時限控除の終了は2028年以降に設定し、2026年の中間選挙へのネガティブな影響を避けるスケジュールが組まれている。
しかし、社会保障費の削減等による州の財政負担増加は避けられず、農村部や地方都市では、病院閉鎖や診療サービスの縮小、医療費の高騰が現実味を帯び始めている。減税等の恩恵を先行させ、その財政的負担を後年に繰り延べる構造とも言える本政策は、短期的には経済指標の押し上げが期待されるが、中長期的には格差拡大や社会的分断の深化を招く恐れもあり、トランプ政権と米国社会の行方を左右する重要な転換点となり得る。
揺れる「法の支配」
経済・社会保障分野に加え、政治的イデオロギーを巡る対立も激化している。DEI撤廃や出生地主義(親の国籍にかかわらず、米国で生まれた子供に米国籍を付与する考え方)の制限に関する大統領令を巡り、一部の連邦地方裁判所が差止命令を下し、政権側が連邦控訴裁判所や連邦最高裁判所へと争いを持ち込む事態となっている。
司法内部における政治的な分断も表面化しており、連邦地方裁判所が発した全米規模の効力を持つ差止命令について、連邦最高裁判所が適用範囲を制限する判決を下す等、下級審と最高裁で判断の方向性が異なるケースもある。
移民政策に関する差止命令を巡っては、判決を下した連邦地方裁判所の判事全員を対象に政権側が訴訟を提起する異例の法的措置を講じたが、第一審では敗訴した。行政府を握るトランプ大統領とトランプ色が強まっている立法府が、政権意向に沿った価値観転換を進める中、司法府がどこまで独立性を保てるか、三権分立のバランスについても注目が集まっている。
今後の争点と政権の行方
トランプ政権や共和党議員はOBBBAをはじめとする主要政策の成果に自信を示すが、一部の国民の間では恩恵の偏りや将来の負担増への懸念が根強い。こうした中、民主党は社会保障費の削減や富裕層優遇策を争点として、中間選挙に向けた攻勢を強めている。
今後は、選挙結果を左右する激戦州における評価や影響力が高まっている無党派層の動向も焦点となる。トランプ政権による政策効果が国民の生活にどの程度還元されるか、またその効果を国民が実感できるかが、今後の米国政治の行方を大きく左右するだろう。
中路 浩平
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。