時評『本格化するヒューマノイド開発~人口減少時代の切り札か』

川原 則光

日本に限らず、多くの主要国で中期的な人口減少の影響が懸念されています。人口減少下で、いかに経済力・規模を維持できるのか、今後の日本の国力を考えるうえで重要な論点になるかと思います。

そこで注目されているのがロボットです。かつてはロボット大国といえば日本でしたが、ここでも中国の成長が著しい状況です。

ロボットはこれまで、工場等における産業用ロボットが注目されてきましたが、物流や農業、医療・手術分野などその用途は急速に拡大しています。

産業分野でのロボットは、24時間365日稼働が可能であるなど、生産性・コスト効率向上に不可欠で、競争力に直結するものと言えます。

中国では、いわゆる「中国製造2025」でロボット産業が重点取り組みテーマとして選定されて以降継続的に強化され、その競争力はEVと同じく急速に向上しています。

世界ロボット連盟(IFR)によると、2023年に世界で新規に導入された産業用ロボット54万台のうち、半分以上の28万台弱が中国によるものです。かつてトップの日本は5万台弱に過ぎず、11年連続で中国がトップです。以前は中国国内においても日本製のロボットが多かったのですが、今では半分弱が中国自国による生産です。

製造業の従業員1万人当たりのロボット装備率でも、2019年にトップテン入りの中国はわずか4年(2023年 )で470台/1万人となり、ドイツ(4位)と日本(5位、419台)を抜き去り世界第3位に躍進しています。ちなみに1位は韓国、2位はシンガポールです。

大いに活用が広がるロボット分野ですが、2024年は、これまでとは大きく異なるロボットの革命が始まった年として記憶されるかもしれません。

2025年1月に世界最大のテック見本市「CES2025」において、多数の人型ロボット(ヒューマノイド)を従えて登場したNVIDIAのCEOジェンスン・ファン氏は「ロボティクスに「ChatGPTの瞬間」がすぐそこまできている」と述べました。

これまでのロボットが精緻なプログラミングで稼働してきたのに対し、このヒューマノイドの開発は、生成AIを使い3次元の空間において学習を行うフィジカルAI(物理AI)という手法により、頭脳部分(ソフトウェア)をAIで制御しようとするものです。現実空間での学習には膨大な時間と材料が必要ですが、これを仮想空間で再現させ、大量の情報学習・経験知習得を短時間で実現し、現実空間で適用するものです。ロボットのハードウエア技術の進展と合わせ、頭脳でのAI活用により、まるで人間と同じような動きや対応が可能なヒューマノイドの開発競争がし烈を極めようとしています。

ヒューマノイド分野でもしのぎを削っているのが中国と米国です。2022年にChatGPTが世に出てまだ2年です。この間のAIの進展は想像を絶するものでした。ヒューマノイドもAIが推進するロボット技術です。すでに始まった開発競争の中で、ヒューマノイドも生成AIと同じく、急速に発展する未来は否定できないように思います。

ヒューマノイドはもはや人間の動きを一部代替、省力化するこれまでのロボットとは異なります。まさに、減少するヒトそのものの代替です。ロボットを活用するための環境整備や必要な投資を行うことなく、人間と同じ空間で人間が行うことを代替していく世界です。介護の分野でも、食事や排泄、入浴などの介助を人間に代わり行う時代がそう遠くないのかもしれません。かたや、夜陰に乗じ海岸を大量のヒューマノイドが上陸してくる姿は想像もしたくありません。軍事・地政学領域においては国際的な自制・規制の枠組みが強く求められるところです。いずれにしろ、ヒューマノイドは人口減少時代におけるさまざまな切り札として、今後その重要性が高まっていくのではないでしょうか。

川原 則光


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