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- 時評『2025年の年頭にあたり経済政策を検証する』
岸田前政権は「新しい資本主義」を掲げ、様々な経済政策を打ち出してきた。石破政権においても、基本的な方向は引き継がれるという。
一方、この2年の間に、日本経済には、急激な円安の進展、物価上昇、金利の復活という極めて大きな変化が生じた。特に、過去四半世紀経験のない物価上昇に直面し、国民生活が厳しいとの声が大きい(かつて長老政治家から「皆忘れているが、インフレが政治的に一番大きな問題になるのだ」との言葉を聞いたのを思い出す)。物価上昇には、円安が寄与していることは明白である。この円安は、長期的には経済ファンダメンタルズの反映であり、日本の産業競争力の低下等を示していると理解せざるを得ない。
昨年7月、令和のミスター円こと神田財務官(当時)が座長となって経済学者、エコノミストが参集し、国際収支から見た日本経済の課題と処方箋をまとめた。貿易収支の赤字は、自動車に匹敵する黒字の担い手不足、輸出産業の国際競争力の低下を示している。原発再稼働や再生可能エネルギーへの転換が進まず、鉱物性燃料の輸入依存は高い水準で続いている。サービス収支では、デジタル赤字の増大、研究開発関連の赤字も嵩む。一方、第一次所得収支の黒字は一貫して増加している。2000年から2022年の間に、対外直接投資残高は8.5倍、これに対して国内の民間設備投資ストックは増えず、この期間の年平均は+0.8%に過ぎない。主要シンクタンクの推計では、中期的には一段と高齢化が進展する中で貿易・サービス収支の赤字が定着・拡大し、経常収支黒字が縮小する見通しであり、中には赤字転化する推計もある。
こうした経常収支の趨勢は、基軸通貨国でない限り、通貨安を招く。冒頭触れたとおり、通貨安は輸入物価高騰を招き生活者・消費者にはデメリット、また、海外から必要な人材も入ってこなくなる恐れもある(熟練労働者の獲得において、日本はすでに東アジアの中で後れを取っていると言われている)。
以上のような現状に対して、筆者は、必要な政策は打ち出されている、と考える。但し、産業界の構造改革が合わせて必要となることから、各種政策を粘り強く遂行していくことが必要である。同時に、金利のある世界では、財政の持続可能性への配慮はこれまで以上に必要であり、ワイズ・スペンディングの徹底が必要と考える。
賃上げ促進は、より生産性の高い高賃金を支える企業への労働移動を促進し、経済全体の生産性も向上させる。賃上げの環境整備として、中小企業をめぐる取引適正化、価格転嫁対策は極めて重要であり、これらは、取引慣行の変革を迫ることになる。企業の新陳代謝の促進には、数多くのスタートアップ企業が欠かせない。支援メニューは出そろっており、「スタートアップ育成5か年計画」(2022年)の実施により、同企業の飛躍的増加を期待したい。国際的にみて労働市場が流動的な国ほど生産性が高く賃金が上がりやすいというデータもあり、リスキリングを促進する施策(職業訓練、社内研修支援等)の効果が期待される。なお、外国人労働者の受け入れ環境は次第に整備され、技能実習制度に代わり、2027年には育成就労制度が施行される。
革新的な研究開発を行い、社会実装していくことは、資本主義社会を発展させる原動力である。過去20年余り、「国境の外側」での投資を優先する行動は個別企業にとっては合理的な経営判断であったが、「国境の内側」での設備投資が抑制された結果、新しい技術の体化、大企業から中小企業へのイノベーションの波及効果が滞り、生産性や賃金が低迷した可能性がある。Kプログラム(経済安全保障分野に役立つ研究開発への補助)、GX投資の支援、半導体投資支援など、ここ数年、研究開発、国内投資支援の政策の充実は目を見張るものがある。これらの補助金が先導役となって、国内投資が活発化し、産業競争力が復活することを期待したい。
特別顧問 藤井 健志
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。