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2024.09.18
米国経済
米国大統領選
選挙イヤーを迎えた欧米の政治・経済動向~海外拠点からの現地報告~『インフレーションと米国大統領選』(2024年10月号)
武藤 伸行
大統領選まで残り2か月
民主党・共和党の大統領候補が各党党大会の信認を受け、選出された。11月の第一火曜日(5日)の大統領選まで残り2か月となり(9月5日執筆時点)、両候補ともに支持率が拮抗しているスイングステート(揺れる州、激戦州)に赴き、熱弁を振るっている。そして、いよいよ両候補の各種政策の中身が問われるステージとなった。
インフレーションの問題、経済対策
米国の消費者物価指数は、バイデン政権下の2022年6月に前年同月比で9.1%の伸びに達した。2024年8月に米国労働省が公表した7月分では同2.9%と鈍化傾向にあるものの、一度跳ね上がった物価は政策目標の2%を上回るペースで上がり続けている。物価の高騰は中間層の生活に直結するため、インフレーション対策を含む経済政策は2024年の大統領選における大きな争点の1つとして注目されている。
物価対策として、民主党のハリス氏は、薬価の引下げにあたって大手製薬会社と対峙した実績をアピールし、食料品の便乗値上げを取り締まる方針等を発表して、最終的な消費者価格を直接抑制することを訴求している。一方、共和党のトランプ氏は、現政権の失策を批判し、天然資源の採掘増による電力や輸送・製造コストの引下げを通じた中間コストの抑制などの対策を訴えている。
マイホームへの両候補の対策も分かれている。ハリス氏は、住宅の購入支援に向け、300万戸の新規着工と初回購入者に対する25,000ドルの補助金といった最終消費者に対する助成を掲げた。一方、トランプ氏は、不法移民対策の強化による移民の流入鈍化により住宅需要が減少し、結果的に事態は収束すると述べた。
ただ、物価の抑制は容易ではなく、ハリス氏が打ち出した住宅関連の補助金自体や、トランプ氏が別途主張する追加関税が、価格上昇の誘因となる懸念もある。
老後への備え、社会保障対策
米国疾病対策予防センターが2023年11月に公表した米国における65歳の平均余命は、男性が17.0年、女性が19.7年である。米国においては年齢差別が禁止されているため定年年齢がなく、75歳や80歳を超えても年齢に関係なく働くことは可能であるが、健康上の理由等によりいつまでも就労し続けられるとは限らない。
連邦社会保障局によると社会保障給付は65歳以上の高齢者の収入の平均30%を占めるが、インフレ調整による支給額増額も相まって、公的老齢年金の積立金は2033年に枯渇して給付水準が21%減少するとの警鐘も鳴らされている。
ハリス氏もトランプ氏も社会保障制度を維持・拡充する旨を表明しており、約5,000万人の公的老齢年金受給者を意識しているのがうかがえる。民主党は年収40万ドル以上の高所得者に対する増税による財源確保を訴え、共和党は連邦下院において公的老齢年金の満額受給年齢を更に69歳まで引き上げる案を一時検討していた。両候補とも年金受給者を意識しつつも、財源確保に向けた痛みを伴う改革は避けられそうにない。
政権運営の難しさ
副大統領としての実績不足を棚上げにして未来や希望を語るハリス氏と、現政権は史上最悪であるとして不満と怒りを表すトランプ氏のスタイルは異なる。ただし、どちらの候補が大統領になったとしても、就任直後にインフレや財政が好転するわけではなく、政策の裏付けとなる予算・財源の確保や連邦法の改正を就任以降に順次実施していく必要がある。
大統領選と同時に連邦議会の上院の3分の1の議席と下院の全議席が改選される。大統領選に加えて、連邦議会の上下両院の過半数を制しなければ、政策が停滞して機能不全に陥りかねない。大統領・上院・下院の3つが全て青(民主党)となるか、赤(共和党)となるか、それとも赤青入り乱れて、各政策において超党派の合意を模索する難しい運営を迫られるのか。11月5日の投票日まで選挙動向から目が離せない。
武藤 伸行
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。