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2024.09.18
欧州経済
英国経済
選挙イヤーを迎えた欧米の政治・経済動向~海外拠点からの現地報告~『英労働党新政権の誕生と根強く残る移民問題』(2024年10月号)
川本 和幸
7月4日に行われた英国の総選挙で労働党が勝利した。労働党政権の誕生は14年ぶりで、定数650議席中411議席と圧倒的過半数を獲得した。2020年のEU離脱後、自由に経済政策や移民対策が展開できることが期待されたが、経済の低迷や移民の増加が続き状況は改善せず、逆にインフレが生活を圧迫したことで国民の不満が高まったことが保守党の支持離れを加速させた。総選挙前に実施された地方選でも保守党は大敗し、労働党の勝利は選挙前から予想されたものであった。
圧倒的過半数の獲得は労働党の支持を示しているのか?
この結果を見ると、労働党は国民から変化を託されたように見えるが、労働党の得票率は34%に留まっており、2017年、2019年の総選挙で労働党が敗北した際の得票率と大きく変わらない。他党の得票率は、保守党が24%、極右のReform UKが12%となっており、右派の票が分裂したことが選挙結果に大きく影響している。スターマー首相は、「今回の結果は国家全体が大きな変化を求めている証拠だ」と強気の姿勢を示しているが、労働党の参謀からは、「低い得票率にもかかわらず過半数を確保したことは、今後の政権運営に諸刃の剣となる可能性がある」として、今後の政権運営にあたり警告を強めている。圧倒的過半数の確保はスターマー首相にとって公約実現が容易となるものの、党内からは既存政策に対しての方針、実施予定の公約に対して既に不満が募っている。
移民問題を端にイングランド各地で暴動が発生
筆者が英国に赴任したのは今年4月で、居住するロンドン市内で選挙前後に何か変わった雰囲気は感じなかった。政治的パフォーマンス、抗議集会、暴動などは見かけず、街中ではLGBTを支援する大規模パレードを数回見かけたぐらいであった。しかしながら、日本のメディアでも大きく報じられているように、ここ最近イングランド各地で暴動が頻発しており、その動向が世界中で注目されている。
7月末にイングランド北西部サウスポートで女児3人が殺害されるテロ事件が発生した。その事件の容疑者がアフリカ出身であると報じられると、「容疑者はイスラム過激派」、「不法移民」といった偽情報が拡散され、それを極右のインフルエンサーがソーシャルメディア上で煽ったことがきっかけとなり、極右支持者による抗議行動、暴動、騒乱がイングランド各地で発生した。8月中旬にはそれに対抗する形で、イングランド各地で人種差別に抗議するための集会が行われている。
問われる労働党新政権の対応
筆者がBrexitを目の当たりにしたのは日本にいる時で、その際は「経済面への甚大な影響を考慮すればBrexitなど起こるはずがない」、「EUの運営方法に対する強い反発がそうさせた」と考えていた。しかしながら、今回英国に赴任し、改めて思い知らされたのは、Brexitが起きてから数年経った今でも移民への反発が根強く、有権者にとってはそれが大きな論点であったのではないかということ、そしてそれは直ぐに解決することができない悩ましい問題であることである。
スターマー首相は暴徒に対して厳正に対処することをテレビ演説で訴え、緊急対策委員会を開くなど、迅速に対応した。一旦事態は収束したように思えるものの、このような問題が再び起こる可能性は十分に考えられる。労働党は、不法移民対策を優先課題としているが、万人が納得する政策の打出しは難しい。今回の圧倒的過半数の獲得は、国民の大多数からの支持を受けたとは言い難く、対応を誤れば次回の総選挙で労働党が再び勝利することは難しくなるかもしれない。また、反移民の風潮は欧州各国でも強まっている。選挙で極右が優勢となる大きな要因となっており、今後も不安定な政治情勢が続くと考えられる。
川本 和幸
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。