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- 内外経済ウォッチ『日本~お金が戻ってこない時代~』(2024年8月号)
6月は、連日、米国から大谷翔平選手がホームランを打つニュースが飛び込んできた。そのニュースを毎日チェックすることが筆者の数少ない楽しみだった。日本人として、とても誇らしい。
けれども、もう一方で筆者の心の片隅には寂しい気持ちもある。大谷選手は、10年間で7億ドルという破格の契約を結んで、日本では考えられない厚遇を受けている。1ドル160円で換算して、7億ドルは約1,100億円だ。こんな条件をオファーされているので、もう選手として日本には戻ってこないだろうな、と感じてしまう。アメリカはチャンスのある国で、日本はチャンスが乏しい国だ。
同じことが投資資金についても言える。日本は、2023年度の経常収支が25.3兆円の黒字だ。このうち、黒字を支えているのは、所得収支の35.5兆円の黒字だ。所得収支とは、海外の金融資産・負債から生み出される運用のネット収入である。これを差し引くと、貿易サービス収支は赤字になっている。日本は、貿易取引だけでみると、輸入超過なのだ。これが円安の原因にもなっている。
どういうことかを説明すると、所得収支の黒字の多くは、ドルなどの外貨で運用した収入をドルで受け取って、円換算した金額である。実際は、ほとんど円に換金されずにドルなどの外貨のまま再投資されている。つまり、外貨のままだから、為替レートに影響してこない。円で運用するときの魅力が乏しいから、外貨のままで再投資される。為替レートに影響するのは、赤字になっている貿易サービス収支の方だ。輸入超過部分を支払うために、円を売ってドルが買われる。そのため円安になる。
「金利のある世界」はまだ不十分
日本では、マイナス金利解除が行われて、「金利のある世界」に戻ったとされる。しかし、資金運用の魅力はまだ不十分だ。大手銀行の普通預金の金利は0.02%。これに対して、ドル建てのMMFは、4.8%前後の利回りである。圧倒的な利回り格差である。大谷選手が日本に戻ってきそうにないと感じるのと同様に、投資資金もまたドル運用への流出が止まりそうもない。6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利の見通しが前回3月のときに、2024年内3回の予定だった利下げが年内1回に変わった。▲0.75%下がる予定が、▲0.25%の下げに縮小した。米国の短期金利は、年末近くまで現状の高金利が続くということだ。これでは、日銀が追加利上げを1、2回するくらいでは円高になりそうもない。運用資金をドルから円に戻すためには、もっと大胆な利上げが必要とされる。しかし、日銀が政策金利を1%くらいまで引き上げるとなると、国内景気に打撃が加わるだろう。物価上昇を止めるために、円安トレンドを変えられるような大胆な利上げをすると、もう一方で国内景気にマイナス効果が及ぶ。物価安定と国内景気安定の2つの目標のうち、どちらかを犠牲にしなくては、もう一方を達成できないというジレンマに陥る。
では、どうすればよいのか。金融政策に依存せずに過度な円安を防止するためには、海外からもっと積極的に投資資金を集めることが必要だ。投資を呼び込めば、それが円買い圧力になり、円安防止に役立つ。熊本県では、台湾半導体メーカーのTSMCが工場を建設・稼働させることで沸き立っている。この計画が円安対策だけではなく、実体経済にも好影響があることがわかると思う。特に、地域経済にも計り知れないインパクトだ。国内の眠っている投資機会に対して、海外からの投資ができるようにして国内にマネーを呼び込む。こうした息の長い改革を成功させないと、いつまでもジレンマに苦しむことになるだろう。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。