海外からみた気候変動対応の実相『気候変動政策を巡る国際競争(ロンドン)』

坪井 克樹

目次

気候変動関連政策に垣間見えるEUの目論見

EUでは、2019年に欧州委員会が「欧州グリーンディール」を公表し、2050年に温室効果ガス排出量をネットゼロにすることと経済成長とを両立させるビジョンを示しました。2021年には「欧州気候法」が制定され、EUの温室効果ガス排出量を1990年対比で55%削減させるパリ協定の公約達成が法的に義務付けられました。

欧州委員会は、こうした動きを後押しするため、2021年にEUの脱炭素化に関する政策パッケージである「Fit for 55」を公表し、EU排出量取引制度の改正案や炭素国境調整メカニズムの規則案等を示しました。また、脱炭素社会への移行に裨益する企業に対し、欧州復興基金を通じた資金支援を行っています。こうした政策からは、EUが気候変動対応をリードすることで先行者利益を得たいというEUの野心が垣間見えます。

米国インフレ抑制法の衝撃

EUにおいて気候変動対策が進む中、2022年8月に米国において、過度なインフレを抑制することと同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策を迅速に進めることを目的とした「米国インフレ抑制法」が成立しました。同法は、10年間で3,910億ドルを気候変動対応の税控除や補助金等に充当する非常に大規模な気候変動対策法です。

EUは、米国インフレ抑制法を米国が気候変動対策に積極的になった観点から歓迎する一方、同法が有する保護貿易主義的な側面をEUの成長戦略における脅威と捉えています。例えば、個人がEV車購入の税控除を受けるためには、EV車の最終組立て地が北米であること等が求められています。また、気候変動対策技術を有するEU企業に対し、一部の米国州政府が補助金を活用した積極的な企業誘致を行うなどの動きも出てきています。

中国に依存する気候変動技術に必要な重要鉱物資源

EV車等への気候変動対策技術にはコバルト等の重要鉱物が必要となります。国際エネルギー機関(IEA)の予測では、重要鉱物の需要は2040年には2020年比で最大6倍となり供給不足の可能性が指摘されています。さらに、中国がコバルト等の重要鉱物加工の世界シェア4割を占めています。EUが将来的に気候変動対応での競争優位を確保するためには、必要な重要鉱物資源に関する中国への依存度を低減させることも必要です。

欧州グリーンディール産業計画による巻き返し

欧州委員会はこうした状況を踏まえ、2023年2月に「欧州グリーンディール産業計画」を公表しました。同計画に基づき、米国インフレ抑制法への対抗策としての「ネットゼロ産業法案」や重要鉱物について中国への依存度を引き下げることを目的とした「重要原材料法案」等がEUにおいて活発に議論され始めています。

G7での緊張緩和にむけた議論

上述のとおり、気候変動対策を巡り国際的な緊張関係が生じてきています。2023年5月に開催されたG7広島サミットでは、2050年までに温室効果ガス排出量のネットゼロ実現に向けたクリーン・エネルギー移行を加速させることを確認しています。共同宣言には、世界的に公平な競争条件を確保した上で、持続可能なクリーン・エネルギーのサプライチェーンの確立を追求することが盛り込まれました。

気候変動対策には国際的な協調が必要な一方、各国とも自国の経済や雇用を保護する必要があることから、気候変動対策を巡る国際的な摩擦が生じてしまうこともありえます。各国が国益による対立を前提としたうえで、共に尊重し、共に学び合い、共に成長する気候変動対策の協働・共創の智慧が強く求められるのではないでしょうか。

坪井 克樹


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