注目のキーワード『観光立国推進基本計画』/編集後記(2022年5月号)

桝田 卓洋

目次

政府の観光立国推進基本計画は、観光立国の実現に関する施策を計画的に推進するために法律で策定が定められているものですが、コロナ禍もあって前計画(2017~20年度)が2021年3月末で終了して以降1年間の空白が生じています。次期計画については、和田浩一観光庁長官が2月の会見において「インバウンド(訪日旅行)の動向を中長期的に見通すことが厳しい状況」「感染状況が落ち着き、議論できるような状況の下で具体的な検討を進めていきたい」と述べており、空白はもうしばらく続く様子です。

この発言の背景には、政府が訪日外国人旅行者数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人にするといった目標を掲げたなかで、歴代の基本計画の大きな柱となってきたインバウンド拡大が現状では難しいことがあります。ただ国内観光の視点では、GoToキャンペーンなどの当座の施策以外にも、コロナ禍で大ダメージを受けた観光再生の道筋をつけることが喫緊の課題であり、岸田政権も重視する地方創生にとっても、観光を起点にリスクを抑えながら上手に地方への人流を創り出していくことが欠かせないはずです。またインバウンド自体で見ても、2025年大阪・関西万博、2027年横浜国際園芸博覧会といった大きな国際イベントが控えており、総じて長期の空白は好ましくないと思われます。もちろん次期計画の策定は、DX推進やDMO(観光地域づくり法人)の活性化、そしてワーケーションなどの新しい観光スタイルの推進といった多岐に亘る課題を体系化する本来の意義からもとても重要です。

ところで、皆さんはこの先どうなったらウィズコロナ(またはポストコロナ)を強く実感できると思いますか? 「マスクをしなくても良くなったら」「大人数での飲み会が復活したら」「海外旅行に行けたら」・・・。観光立国推進基本計画の現状は、いま社会のいろいろな場所で見られ始めているコロナ禍を次のフェイズに進めていく挑戦やその葛藤の1つであって、世の中の雰囲気をよく表しているようにも思えてきます。次期計画を定めるプロセスでは、前述の通り、コロナ禍で生じた新しい動きを反映しつつ、海外・国内の自由な往来を始めとした観光の復活が織り込まれるはずです。桜の開花宣言のように、その決定のニュースが多くの人々の気持ちを明るくするものであってほしいと思います。

(総合調査部・フェロー 桝田 卓洋)

編集後記

世界中で昨年から続くインフレの勢いが止まらない。パンデミックからの急激な経済回復に伴うエネルギー価格の上昇、工場や港湾の停止等によるサプライチェーンの混乱、天候不順による農作物の不作が主な要因と言われていたが、加えてロシアによるウクライナ軍事侵攻で上昇に弾みがついている。主要国ではBOEがまず動き、FRBも3月に25bpの利上げに動いた。

FRBは2022年から2023年にかけて中立金利を上回るレベルまでの利上げを想定、5月にはQTも始めるつもりのようだ。半年前には考えられないほどの急速な引締めだ。FRBの姿勢が短期間でこれほど大きく変わるというのはあまり記憶がない。サプライズと言っていい大きなニュースであるが、金融市場はある意味淡々と利上げシナリオを織り込んでいった。これほど大きな変化を“ショック”を起こすことなく消化した金融市場もあまり記憶がない。

そもそも多くの関係者は今回のインフレはパンデミックからの経済回復過程で生じた一時的なものと考え、インフレに怯える中央銀行は心配し過ぎとまで言われていた。ところがそうではなかった。一時的でなかった理由は色々議論されてはいるが今一つはっきりしない。それでもこのインフレは放置すると危ないと判断し素早く軌道修正に動き「市場との対話」をうまく進めた。さすがFRBと言うべきだろう。

普段、受け取る側の解釈でどうとでもとれる文章を使ったり、受け取る側を試すような表現を使ったりして市場と対話していると、常に裏を読むことが当たり前になり大切なことがストレートに伝わらなくなるもの。是非世界の中央銀行はFRBを見習って「市場との対話」のレベルを上げていってほしい。当然、市場の対話スキルも磨いていかなければならない。

(H.S)

桝田 卓洋


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