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内外経済ウォッチ『欧州~ポスト・メルケルとEUのリーダーシップ~』(2021年11月号)

田中 理

目次

連立協議の難航・長期化が不安視

ポスト・メルケルを占うドイツの連邦議会選挙は、現政権の連立パートナーで中道左派の社会民主党(SPD)が、現政権を率いる中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)を破り、2002年の選挙以来となる第一党の座を奪還した。両党の得票率の差は僅かで、第二党に転落したCDU/CSUも今のところ政権発足に意欲をみせている。議会の過半数を確保可能な連立の組み合わせは、①SPDが主導し、環境政党・緑の党とリベラル政党・自由民主党(FDP)が手を組む「信号連立」か、②CDU/CSUが主導し、同じ2党が加わる「ジャマイカ連立」に絞られる。

財政運営や気候変動対策を巡って各党の隔たりは大きい。そのうえ、3党が連立を組むのは1957年に誕生した政権以来となる。選挙後は連立協議の難航や長期化を不安視する声が大勢を占める。前回2017年の選挙後は政権発足までに半年近くを要したが、今回の連立協議は比較的早期にまとまる可能性がある。前回の選挙後に連立協議を打ち切ったFDPは、有権者に無責任と糾弾され、長らく支持が低迷した。今回は政権参加を優先する構えで、緑の党も与党の立場から気候変動対策での影響力発揮を目指している。結党以来最低の得票率に沈んだCDU/CSU内にも、今回は下野して次の選挙での政権復帰を模索する動きがある。

図表
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メルケルなき後のEUのリーダーは?

政治安定を重視するドイツでは、政権発足後の連立運営をスムーズにするため、連立協議で政策の細部まで詰める。SPDは正式な協議入りや合意受け入れ是非を党員投票に諮る可能性が高い。こうしたプロセスを考えれば、さすがに数週間で連立協議がまとまることはないが、年内にはSPD主導で信号連立を発足し、同党の首相候補のショルツ氏が次期首相に就任する可能性が高い。

SPD主導の次期政権では、最低賃金の引き上げや低所得者の税負担軽減など、所得再分配が強化されよう。気候変動対策を強化すると同時に、企業競争力に配慮した政策にも取り組もう。財政運営はやや拡張的となるが、財政黒字化を義務付ける「債務ブレーキ」の改正は見送られよう。

次期首相の最有力候補のショルツ氏は、現政権の財務相兼副首相として、堅実な政策手腕に定評がある。だが、大局的な国家観や欧州連合(EU)の未来図を描ける人物ではないともされる。国内外でメルケル首相に匹敵する指導力を発揮するには時間が掛かりそうだ。その間、ドイツとフランスの力関係はややフランス優位に傾く可能性がある。時に対決的な手法も厭わないフランスのマクロン大統領がEUのリーダーシップを発揮することで、諸外国との間で利害衝突が表面化する場面が増える可能性に注意が必要となりそうだ。

図表
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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