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QOL向上の視点『なぜ、「長期・積立・分散」の資産形成は難しいのか?』

村井 幸博

目次

「貯蓄から資産形成へ」の流れは本物か?

コロナ禍以降、「貯蓄から資産形成へ」の流れが加速している。2020年のNISA(少額投資非課税制度)口座における買い付け額が、前年の約18兆円から約22兆円と約2割増加、2020年末のつみたてNISA口座数は約302万口座で、前年末比約60%増となった。資産形成に対するセミナーへの関心も確実に高まっており、金融庁の「貯蓄から資産形成へ」という政策が定着しつつあるようにも見える。

しかし、歴史を振り返ると、高度経済成長時代の1950年代後半から60年代初頭の投信ブームで流行となった「銀行よサヨナラ、証券よコンニチワ」、96年橋本内閣の日本版金融ビックバン(株式売買委託手数料自由化等)からITバブルにかけての「貯蓄から投資へ」(ITバブル崩壊後の小泉内閣でも同様の政策)等があったが、株価上昇・バブルとともに投資は流行し、株価下落・バブル崩壊とともに流行が終わるという歴史だった。

しかし、今回の「貯蓄から資産形成へ」という政策は、人生100年時代に備えた資産「形成」(言葉も「投資」ではなく、積み上げるニュアンスの「形成」とした)という目的を明確にしたこと、「長期・積立・分散」という投資方針を明示したことに特徴がある。

「長期・積立・分散」の資産形成は難しい

「長期・積立・分散」の投資は、

  • 長期的な時間軸で投資することによる「時間を味方にした収益の安定化」
  • 積立により投資するタイミングを分散させることによる「マーケットの変動リスクの平準化」
  • 投資対象の分散による「収益獲得と過度なリスクの回避」
    等を意図した手法で、投資に伴う大きなリスクを回避し、収益を目指す手法で、投資の基本となる。

しかし、「長期・積立・分散」投資が基本だとわかっていても、実践は難しい。「短期・高値購入・集中」投資となって、失敗を経験している人も少なくない。人間は、長期投資よりハラハラ・ドキドキ・ワクワクする短期売買を好む傾向がある。また、人間には欲があり、儲かっている人を見ると自分も仲間入りしたいと思い、後追い的に投資をする傾向がある。高値で多額の投資を行って、失敗しているのが過去のバブルの経験でもある。さらに特定銘柄に集中投資して大きな損を被る人もいる。「短期・高値購入・集中」による投資の失敗は、人間の感情や本能の作用であり、「行動経済学」や「脳科学」の知見から説明可能な事象でもある。

資産形成や投資に向かわない理由は、将来よりも今を大切にする現在性バイアスや利益の満足より損失を過大に評価する損失回避性で説明できる。短期投資は、短期間でもらえる報酬ほど価値を感じる時間選好が影響し、高値購入は多数派同調バイアスの典型である。特定銘柄等への過度な集中はギャンブル依存と同じ理屈となる。

資産形成定着に向け、金融リテラシー向上を

「長期・積立・分散」投資による資産形成実践は理屈ほど容易ではない。「理性・理論」より「本能・感情」が優位に働く傾向があるからである。「本能・感情」を克服するためには、「目的」の明確化と理論を実践するための「仕組み・インセンティブ」が重要になる。目的は「人生100年時代の経済的基盤確保」となるが、複雑な公的年金制度等のため、その必要性が十分認知されている状況ではない。また、「長期・積立・分散」投資を定着させるための「仕組み」である「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「つみたてNISA」等のさらなる普及が必要と思われる。今後もマーケットは変動すると考えられるが、「貯蓄から資産形成へ」の流れを定着させる努力、金融リテラシー向上への貢献が、金融機関にとって重要な責務となろう。

村井 幸博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。