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- 内外経済ウォッチ『日本~雇用の痛み止めが切れつつある~』(2021年7月号)
失業回避のための雇用調整助成金
緊急事態宣言が何度も延長され、厭戦ムードが強まった。ワクチン接種が2021年内に進むとしても、飲食・旅行の自粛が当分続きそうだ。多くのサービス業が持久戦を覚悟するようになっている。
最近になって表面化してきたのは、雇用悪化が進んできたことだ。就業者も以前のように一本調子で増えなくなった。これまで横這いだった失業率も少しずつ上昇してきた。
日本の雇用政策は、コロナ禍が始まって以来、何とか失業増加を防止してきた。雇用調整助成金制度によって、解雇を行わず、休業や職業訓練をするときは、特例として中小企業の1人当たりの賃金の90%(大企業は75%)を助成金でサポートする(2021年5~6月の扱い)。しかし、このところ休業者が増えにくくなり、代わりに仕事を辞めて職探しをしない人(非労働力化)や失業者が徐々に増えている。非正規労働者の中でアルバイトの回復が遅れているようにも見える。雇用調整助成金の効果がいよいよ効かなくなってきた可能性がある。
苦しくなる財務体質
なぜ、企業が雇用を削減してきたのかを考えると、財務体質が悪化してきたことがある。人件費などの固定費は、企業が稼ぎ出す粗利(=売上-材料費)によってカバーされる。その粗利が少なくなって、固定費の方が上回ってくると、企業は人員数を減らすことで人件費を削る対応をし始める。いくら雇用調整助成金を使って、人件費を肩代わりしてくれるとは言っても、粗利が減った状態が長期化すれば、赤字を垂れ流すことはできなくなり、雇用削減に踏み切らざるを得なくなる。宿泊・飲食業、旅行業、娯楽業などには、粗利よりも固定費が上回っている企業が多く、人員を削減する動きがみられた。これらのサービス業の粗利が増えるためには、飲食利用の制限や観光などの自粛がなくなって、売上が増えていくことが必要である。言い換えると、ワクチン接種が進んで、消費者の活動が平常化しなくては、リストラ圧力が本質的に解消されないということである。
痛み止めよりも次なる対応を
雇用調整助成金は、リストラ圧力を緩和するものではあるが、その圧力自体をなくすことができる訳ではない。むしろ、現在はその痛み止めの効果がなくなってきていると考えられる。ならば、雇用政策の考え方を変えて、新しい雇用機会の創出や、過剰な雇用を人手不足の産業へとシフトする対応が求められる。医療・福祉・介護は引き続き雇用を吸収するセクターである。コロナ禍では、様々な医療の課題が浮き彫りになった。未経験者でも、サポート・スタッフに活用できるように人材利用の柔軟性を高める必要がある。製造業でも、生産拡大によって人手不足感が生じてきている。情報通信業でも、デジタル化の需要拡大によって雇用拡充のニーズはある。
反面、観光産業などは、ワクチン接種が国内で進んだとしても、海外からのインバウンド需要は長く戻らないと予想される。ワクチン接種が進んだときに一気に国内レジャーが増えるという楽観論もあるが、それは長続きしない需要増だろう。コロナ前の観光需要の回復に時間がかかることは、過剰雇用がサービス業に長く生じ続けることを予想させる。そうした見通しを念頭に置くと労働移動を促すような雇用政策は重要性を増す。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。