- 要旨
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- 日銀は、植田総裁不在の会合でも、+0.25%の追加利上げを決めた。賛成票7票で、反対は浅田委員の1票であった。
- この決定は、ちょうど前日6月15日にトランプ大統領がイランとの停戦合意を19日に締結すると表明した直後だった。タイミングとしては非常によいと考えられる。
- しかし、円安基調は根強く、この利上げだけでは1ドル160円よりもさらに円安が進む可能性がある。そのときは年内の追加利上げを早めにもう1回行うことも考えられるが、そのハードルはかなり高いだろう。結果、次回は12月利上げが無難なシナリオと考える。
長期国債の買い入れ維持
日銀は、6月15・16日の金融政策決定会合で政策金利水準を1.00%に引き上げた(利上げ幅+0.25%)。この会合は植田総裁が入院中で、氷見野副総裁が議長を務め、記者会見は先日まで入院していた内田副総裁が代行するという異例のかたちになった。この利上げのアクションは、2025年12月以来である。植田総裁が欠席で全8票のうち、浅田委員を除き、7名が追加利上げに賛成した。浅田委員は、高市首相の意向を反映していると考えられるので、この反対票は今後の政策運営への火種が残っていると感じさせる。
また、長期国債の買い入れ減額は、予定では2027年4月までは現行月間2.7兆円程度から四半期ごとに▲2,000億円ほど縮減していくことになっていた。今回決めたのは、2027年4月以降は減額を止めて2.0兆円程度の月間買い入れ額を、横ばいで維持する方針である。これは、長期金利上昇を警戒する政府に配慮した見直しである。月間2兆円程度の買い入れ維持が、債券需給を安定させるという日銀からのメッセージである。そうした意味で、日銀は利上げ=引き締めと、2兆円の長期国買い入れ維持=緩和を同時に発表して、政府からの圧力に説明責任を果たそうという構えなのだろう。
利上げのタイミングは良かったか?
日銀会合の結果発表を受けて、6月16日午後の株価は上昇、為替レートは円安へと反応している。会合の結果が、事前に報道で伝えられていた通りだったため、それが安心感を与えているのだろう。
筆者は今回の追加利上げが円安防止を主眼にしたものだと理解している。ちょうど6月15日にトランプ大統領がイランとの60日間の停戦合意を締結すると発表し、それは原油市況(WTI)を大きく押し下げた。原油市況が下がれば、それが物価下落の要因になる。また、米国の貿易収支は原油価格上昇によって赤字が縮小し、ドル買いを誘っていたから、停戦合意はドル売り=円買い(円高)の要因になる。米長期金利も低下しているので、これら様々な要因がドル高・円安を修正させようとしている。そのタイミングに追加利上げを発動したことは、円安是正の後押しとして良かったと理解できる。
一方、日銀に対しては、4月会合で利上げを見送ったことで、ビハインド・ザ・カーブに陥ったという批判がつきまとう。筆者も、4月に利上げをしておけばよかったと考えてきたが、今回たまたま停戦合意と重なったことは渡りに船になって、良いタイミングだったと理解している。日銀の発表文には「中東依存度の高い原材料の代替調達が進展していることなどから、経済が大きく下振れるリスクは一頃よりも低下している」と記述されている。
物価上昇を抑えられるか?
日銀の見解は、「2026年度後半から2027年度にかけて『物価安定の目標』と整合的な水準になり、その後も同程度で推移する」というものだ。これは4月の展望レポートと同じである。
しかし、イラン攻撃の2月28日から6月19日(合意締結日)の3か月半程度の原油高騰が、日本の2026年後半の物価上昇率を2%を超える伸び率にまで引き上げていくことを、今回の利上げだけでは防げないだろう。大きな理由は、これまでの1ドル160円を超えるような円安が継続するとみられるからである。2026年2月28日以降現在までの原油価格は、平均1バレル94.5ドルで、2025年平均の65ドルに比べて約1.45倍である。今後、原油コストの上昇は、川上から川下までコストプッシュ圧力として、少なくとも年内は上昇要因になると考えられる。植田総裁は、2026年度後半に消費者物価が前年比2%台後半になると4月の会見で述べていた。政府のエネルギー支援が2026年冬頃に剥落することを考えると、おそらくは3%近いところまで消費者物価は上がるのではなかろうか。
筆者が考えるのは、今後、ドル円レートが1ドル160円を超えて、162~165円台に移行すれば、日銀はまさしく円安対策として2026年内の早い時期に、次の利上げを行わざるを得なくなるということだ。繰り返しであるが、日銀の物価展望は「2026年度後半から2027年度にかけて」2%程度になるという見通しである。これを杓子定規に遵守しようとすれば、2026年9~12月のどこかでもう一段の追加利上げで、円安是正に動くことも考えられる。
中立金利とのバランス
反対票を入れた浅田委員は、「中東情勢の影響は、物価の上振れリスクよりも生産・雇用の下振れリスクの方が大きい」と理由を述べていた。発表文に「経済の下振れリスクは低下」と記されていたので、浅田委員は違った認識を持っていることになる。また、浅田委員は、もしかすると中立金利のイメージがとても低いのではないかとも推察される。日銀が2026年3月にレポートで示した名目中立金利は、1.1~2.5%のレンジであった。政策金利1.0%ならば、まだ中立金利には達せず、「生産・雇用の下振れリスクが大きい」とは言いにくい。浅田委員はいずれ講演などの場で話す機会があると思うので、そのときは景気弱気であることについて、もっとエビデンスを示してほしい。
利上げに賛成票を投じた大半の委員は、政策金利1.0%ではまだ緩和的な金融環境にあると考えて、中小企業金融などへの悪影響もまだ許容範囲内だと理解していると思う。そうした意味では、次に政策金利を引き上げて1.25%の水準になると、そこでは中立金利を超えてくるので、もう少し物価上昇リスクに備えた引き締め的な利上げになっていくと考えられる。
難しいのは、今後2026年7~12月の期間に徐々に引き締めを実行していくような経済・物価環境になると判断する材料を、ここまでに揃えることである。停戦合意が履行されて、9~12月に復興需要みたいなものが顕著に表れるのだろうか。ここは、現在よりも利上げのハードルが遙かに高いと考えられる。
次回の利上げの見通し
従来は、2026年内の利上げは、12月だろうというシナリオを描く人が多かった。しばしば耳にするのは「日銀の利上げは半年に1回」という見方である。
これまでは筆者もそう考えていたが、もしかするともっと早い可能性もある。会合日程は、7月、9月、10月、12月と年内4回残している。この4回のうち2回利上げをするというのは、高市政権では難しいと思われる。ならば、以前の12月利上げを9月か、10月に前倒しすることになるだろう。
しかし、実体経済がより安定するという状況確認は、9月でも10月でも難しい。例えば、企業の半期決算は11月半ばに発表される。12月15日前後には短観を確認できる。この12月であれば、ガソリン暫定税率の押し下げ要因が剥落し始めて、消費者物価が押し上がる程度が読みやすくなる。逆に、9月、10月はそうした景気を見通す材料が乏しい。だから、次回の利上げのメイン・シナリオは12月とみた方が無難であろう。
熊野 英生
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