武器になる経済指標 武器になる経済指標

安心感のある日銀短観 インフレ圧力はなお強い 日銀は利上げへ

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月45,000円程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月150円程度で推移するだろう。

  • 日銀は利上げを続け、2026年前半に政策金利は1.0%に到達しよう。

  • FEDはFF金利を26年前半までに3.5%へと引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.4%、NASDAQが+0.3%で引け。VIXは16.3へと上昇。

  • 米金利はツイスト・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.371%(+1.0bp)へと上昇。
    実質金利は1.777%(+0.1bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+54.0bpへとプラス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが軟調。USD/JPYは148近傍へと下落。コモディティはWTI原油が62.4㌦(▲1.1㌦)へと低下。銅は10268.5㌦(▲145.5㌦)へと低下。金は3840.8㌦(+19.9㌦)へと上昇。

経済指標等

  • 8月米JOLTS統計によると求人件数は前月比+0.3%、722.7万件と市場予想に概ね一致。失業者数に対する一人当たりの求人件数は0.98と節目の1倍を割り込んだ(速報値で1倍を割れた7月分は上方修正により1.00となった)。労働需給は緩む方向にある。

  • もっとも、解雇率が1.08%へと0.04%pt低下するなど、企業が雇用の削減を急いでいる様子は見受けられず、求人率も過去6ヶ月に大きな変化は観察されていない。過去の経験則に鑑みると、求人率が4を下回ると失業率が加速度的に上昇する傾向があるが、そうした状況に至るまでにはまだ距離がある。

  • 平均時給(一人あたり賃金)の先行指標として有用な自発的離職率は1.94%へと0.04%pt低下。
    求職者からみた転職市場は2022年頃と比べて大きく変化しており、転職を繰り返すことで賃金が上昇するような環境にはない。もっとも、賃金については移民政策の厳格化によって外国人生まれの労働者がネイティブに置換される、という別の文脈で質の悪い賃金上昇が発生する可能性はある。

  • 9月CB消費者信頼感は94.2へと低下。雇用判断DIは+7.8へと3.3ptの低下となり、いよいよマイナス圏への突入が視野に入る状況になってきた。既存労働者の環境悪化が限定的な一方、新規採用の門戸は狭くなっている可能性が高い。

注目点

  • 日銀短観(9月調査)によると業況判断DIは、大企業製造業が+14と前回調査対比1pt上昇し、市場予想に一致。米国の対日相互関税が15%に落ち着き、自動車も27.5%から15%へ引き下げられたことで不透明感が後退したとみられる。この間、防衛費やインフラ投資の拡大機運が高まっていることも景況感改善に繋がったとみられる。それに加えて原油価格が安定していたことも景況感改善に寄与したとみられる。

・大企業非製造業は+34と前回調査対比横ばいで、1991年以来の高水準を維持した。直近やや増勢鈍化の兆候があるものの、依然として活況を呈するインバウンド、旺盛なDX関連投資、高止まりする建設需要が背景にあるとみられる。またここへ来て消費者心理に好転の兆しが観察される下、個人消費が緩やかながらも持ち直し傾向にあることも景況感改善に寄与したとみられる。先行き判断DIは大企業製造業が+12となり、現況対比1pt低下。大企業非製造業は+28と現況対比で慎重な見通しであったが、これはこのところ毎回のように観察される統計のクセであり、必ずしも景気の先行きに慎重になっている訳ではない。

・業種別にみると、大企業製造業では予想された通り自動車(6月調査:+8→9月調査:+10、以下同じ)へと持ち直した。北米向け輸出価格の引き下げは続いているものの、関税負担の低下により収益の圧迫度合いが和らいだとみられる。今回目を引いたのは造船・重機(+27→+36)が異例の高水準に到達したこと。2005年から2024年までの平均値が▲3.3であったことを踏まえると別次元の数値であることがわかる。国防関連支出の拡大とインフラ関連需要の高まりが貢献したとみられる。その他では窯業・土石製品(+17→+30)、化学(+14→+15)などが改善。堅調な設備投資計画を背景に、はん用機械(+23→+27)、生産用機械(+15→+17)、業務用機械(+22→+22)が何れもはっきりとしたプラス圏を維持。また半導体市況の増勢が鈍化する中、AI関連需要に支えられ電気機械(+11→+16)はプラス幅拡大。食料品(+8→+6)は値上げが奏功してプラス圏維持。鉄鋼(▲3→▲14)は中国勢との競合がきつく冴えなかった。

大企業非製造業では、宿泊・飲食サービス(+45→+26)に変化がみられた。風説(地震・津波)と、昨年対比の円高による一人あたり消費支出の減少が重なりインバウンド需要が高水準から減少したことが響いたとみられる。また米価格の高止まり、最低賃金の上昇などコスト面も重荷になったと推察される。他方、そうした下でも対個人サービス(+29→+30)は水準を切り上げた。消費者心理が最悪期を脱する中、裁量的な支出が回復している可能性が示唆される。その他では卸売(+29→+31)と小売(+18→+18)が堅調に推移。日銀算出の実質消費活動指数は、値上げによって名目値の拡大が続いており、売上目標を達成できた企業は多かったと推察される。この間、旺盛な開発・建替え需要を背景に不動産(+54→+52)と建設(+44→+49)の著しい強さは続き、物品賃貸(+32→+36)も高水準を維持した。現時点で日銀の利上げが建設・不動産市況を下押しした様子は見受けられない。堅調なDX投資を背景に情報サービス(+51→+55)、通信(+38→+28)、対事業所サービス(+45→+45)の強さも続いた。

・TOPIX構成銘柄と属性の近い大企業全産業の業況判断DIは+24と、前回調査対比1pt増加。TOPIXの予想EPSと密接に連動する売上高経常利益率の年度計画は+9.35%と前回調査から小幅に上昇。値上げによって収益力は一段と高まっている。

・なお日銀短観の調査は、前月からの変化を問うPMI等と異なり、比較時点を問わず、単刀直入に現時点における景況感を尋ねる形式である。そのため、回答にあたって自社の収益計画を基準にしている企業は多いと考えられる。自社計画を超過していれば「良い」「さほど良くない」「悪い」の3択から「良い」を選択するはずであるから、そうであれば業況判断DIの改善は業績上方修正の余地と考えることができる。短観とアナリスト予想の方向感が一致するのはそうした背景があるからではないか。

・次にインフレ関連項目に目を向けると、企業の物価見通し(全規模・全産業、1年後)は、販売価格見通し(≒自社製品・サービスの価格設定スタンス)が物価見通し(≒日本の物価上昇率)を上回る傾向が続いた。物価見通しの+2.4%に対して、販売価格計画は+2.8%となっており、積極的な価格転嫁が続くと予想される。こうした「販売価格計画>物価見通し」という構図はコロナ期前には観察されなかった新たなものであり、値上げによって収益を確保する企業行動が「新常態」になったことを窺わせる。ベア継続や最低賃金上昇といった自社の労働コスト増加に加え、仕入価格の値上げなど社内外のコスト増を織り込み、3年や5年後の販売価格計画を引き上げる動きも続いている。最後に労働市場由来のインフレ圧力を計測するために雇用人員判断DI(全規模)に目を向けると、全産業では▲36と既往最低値の▲37に近づいた。労働集約的な非製造業においては現況が▲44、先行きが▲48と深刻な領域にあり、人材争奪戦が熾烈さを増している現状が浮き彫りとなった。

・今回の日銀短観は企業景況感の改善とインフレ圧力の強さを示したと言える。日銀の金融政策を巡っては最もハト派とみられている野口委員ですら利上げに肯定的な見解を示すなど、利上げが近づいている印象を受ける。筆者は引き続き10月の利上げを予想する。

藤代 宏一


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