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フランス国債格付けがシングルA格に転落

~不安定な政治環境で遠退く財政再建~

田中 理

要旨
  • フランスで政治危機の再燃後で初となる格付けレビューで、フィッチはフランス国債の格付けを「AA-」から「A+」に1ノッチ引き下げた。主要先進国では日本とほぼ同水準の国債格付け。同社は格下げの理由として、政府の債務水準の高さ、不安定な政治環境、過去の財政再建が失敗、出発点の財政赤字の高さ、困難な財政再建パス、財政運営の硬直性などを挙げている。
  • 向こう数ヶ月の間に他の大手格付け機関もフランス国債の格付けレビューを予定している。各社1ノッチの格下げは、ある程度想定しておいた方が良さそうだ。今後、「A+」格から更なる格下げがあるか否かは、政権基盤の強化と来年度予算の成立を目指すルコルニュ新首相が、穏健左派の協力取り付けにどの程度の財政計画の軌道修正を余儀なくされるかが鍵を握ろう。

大手格付け会社フィッチ・レーティングス(以下、フィッチ)は12日、フランスの国債格付けを「AA-」から「A+」に1ノッチ引き下げた。同社は格下げの理由として、①政府債務の水準が高く、上昇していること、②政治の不安定化が財政再建の妨げになること、③過去の財政運営のトラックレコードが弱いこと、④2025年の財政赤字の出発点が高いこと、⑤財政再建のパスが不透明なこと、⑥財政運営が硬直的であることを挙げている。各要因の説明は以下の通り。

【高債務】フランスの政府債務残高の対GDP比率は、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の持続的な赤字を主因に(図表1)、上昇基調を続けることが予想される。フィッチの予想では、政府債務比率は2024年の113.2%から2027年には121%に達し、その後も債務が安定化に向かう明確な時期は見通せない。同国の政府債務比率は2024年の時点で、シングルAの国債格付けの国の中央値の約2倍あり、2019年から15bp増加し、シングルAとダブルAの国債格付けの国々の中で3番目に高い。こうした政府の高債務は。財政赤字の更なる拡大なしに、新たなショックに対応する能力を抑制する。

図表
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【不安定な政治環境】政府が内閣信任投票に敗北したことは、国内政治の更なる分断化と分極化を示唆する。2024年央の前倒し議会選挙以来、フランスには3つの内閣が誕生している(図表2)。こうした不安定さは、しっかりした財政再建を実行する政治システムの能力を弱め、前政権が掲げていた2029年までに政府債務の対GDP比率を3%未満まで引き下げる目標達成を難しくする(図表3)。また、2027年に大統領選挙を控えていることも、短期的な財政再建を抑制するとともに、選挙後も政治停滞が継続する可能性が高い。

図表
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【過去の財政再建】フランスの財政再建とEUの財政規律遵守のトラックレコードは弱い。過去に財政引き締めに取り組んだ時期もあるが、ヘッドラインの財政赤字の対GDP比率は、過去20年間のうち17年間で3%を上回り、2001年以来、プライマリー・バランスが黒字化したことはない。
【出発点の財政赤字の高さ】2025年の政府予算案はGDP比で0.7%の財政調整を目標とするが、その内の半分以上は、大企業や高額の資産を保有する個人への課税強化など、一時的な歳出増加策によるものだ。フィッチは2025年の財政赤字の対GDP比率が、2024年の5.8%から低下し、政府目標の5.4%に近い5.5%になると予想する。だが、この数字はユーロ圏平均の2.7%やシングルAの国債格付け国の中央値である2.9%を上回る。
【困難な財政再建パス】フィッチはフランスの財政赤字の対GDP比率が2026-27年も5%を上回り続けると予想する。この見通しは、各年にGDP比で0.5%程度の財政緊縮措置を想定し、利払い負担と国防費の増加を相殺することを盛り込む。同社は近く開始される予算協議で、前政権が計画していたよりも、財政再建の取り組みが後退することを想定する。年末までに予算を通すことに失敗すれば、予算が成立するまでの間、新たな裁量的な財政再建措置を導入することが出来なくなる。
【財政運営の硬直性】租税負担の高さや構造的な歳出が占める割合の高さは、持続的な財政再建を難しくする。フランスの租税収入の対GDP比率は45.6%とEU内で最も高く、EU平均の40%を上回り、更なる増税余地が少ない。構造改革を通じて社会支出を抑制しようとする過去10年余りの取り組みは、限定的な成果しか生まず、政治的・社会的に大きな反発に直面している。住宅や失業給付の削減、ヘルスケア支出の簡素化、労働市場改革にもかかわらず、フランスの社会支出の対GDP比率は32%とEU平均の同26%を上回り、削減が進んでいない。

同社は格下げ後のフランス国債の格付けアウトルックを「安定的(ステーブル)」としている。更なる格下げにつながり得る要因として、①財政再建策の実行に失敗することや借り入れコストの持続的な上昇により、中期的な政府債務の対GDP比率が持続的に上昇する場合や、②想定対比で経済成長率が大幅に下振れする場合や、競争力が悪化する場合を挙げている。反対に格上げにつながり得る要因として、財政再建の取り組みや予想を上回る経済成長によって、政府債務の対GDP比率が中期的に低下基調を辿る場合を挙げている。

9月19日にDBRS(大手3社とともにECBが適格担保基準の判断に用いる格付け機関)、10月24日にはムーディーズ、11月28日にはスタンダード&プアーズ(S&P)がフランス国債の格付けレビューを予定している。各社1ノッチの格下げで、フランス国債の最上位格付けがシングルA格に引き下げられることは、ある程度想定しておいた方が良さそうだ(図表4)。今後、「A+」格から更なる格下げがあるか否かは、政権基盤の強化と来年度予算の成立を目指すルコルニュ新首相が、穏健左派の協力取り付けにどの程度の財政計画の軌道修正を余儀なくされるか、政権運営や予算協議の行き詰まりで再び政権が倒れ、議会の解散・総選挙に発展するかどうかが鍵を握ろう。

図表
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以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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