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個人サービス消費の明暗

~対面型では需要回復が遅れる~

熊野 英生

要旨

第三次産業活動指数を調べると、広範なサービス業の回復状況がわかる。生活関連サービス、宿泊・飲食サービスは2020年春の悪化から着実に回復が続いてきている。反面、対面型サービスの中には回復が遅れているものもある。

目次

着実に回復する旅行・娯楽

コロナ禍で大打撃を受けたサービス消費は、2022年にかけて随分と復活してきた。その状況は、経済産業省「第三次産業活動指数」に色濃く表れている。

個別にみると、一時は著しく悪化していた個人向けサービスである「宿泊・飲食サービス」と「生活関連サービス・娯楽」の回復が進んだことが目立つ(図表1)。さらに、細かくみていくと、生活関連サービスの中にある「旅行」の復活は著しい。一時は冷え込んだ旅行需要は、ウィズ・コロナの中で復活しつつある。政策支援に関しては、2021年4月から県民割が実施され、2022年4月はそれが地域ブロック割に拡大された。これらの寄与は大きい。まだ統計には表れていないが、10月11日から12月27日までの全国旅行支援も大きな効果が期待されている。この旅行需要の復活に伴って、「宿泊」も息を吹き返している(図表2)。

図表1
図表1

図表2
図表2

もうひとつ、急回復を遂げている分野には、娯楽がある。「音楽・芸術等興業」、「プロスポーツ興業」の回復は著しい。それよりはペースダウンするが、「劇場・興業団」、「映画館」も着実に復活している。消費者は外出を増やして、今まで我慢してきた消費を再開する動きになっている。

明暗が分かれる業種

個人向けサービスの動向を子細にみると、種類によってばらつきもある。飲食サービスでは「パブレストラン、居酒屋」は他の種類よりも回復が遅れている(図表3)。お酒を提供する飲食店では、コロナ禍の前半で、消費者が10時前に店を出るルールが敷かれていたために、早帰りの習慣が定着し、最近でも客足の戻りが鈍い。コロナ禍で堅調だった「ファーストフード」とはコントラストを示している。明暗がくっきり分かれている。

図表3
図表3

娯楽サービスでは、さらに鮮明に明暗が分かれる。コロナ禍では、競馬・競輪など公営ギャンブルが、チャネルをネット投票に広げて、その結果、需要を大きく掘り起こすことに成功した(図表4)。公営ギャンブルの人気は、最近まで衰えずに続いている。

図表4
図表4

似たような動きは、個人向けサービス以外にも、「第三次産業活動指数」にある「ゲームソフト」、「インターネット付随サービス」の好調さにみられる。ネットシフトした娯楽は、そのまま需要を獲得して成長を続けている。DXという言葉が流行語になったが、確かに娯楽の需要の一部はデジタル転換している。

これと好対照なのは、対面型の娯楽サービスだ。「パチンコホール」、「フィットネス」はコロナ前の需要水準を回復できずにいる。「遊園地・テーマパーク」、「ボーリング場」はゆっくりとしか需要が回復して来ていない。

では、こうした明暗はなぜ生じるのだろうか。対面型サービスがまだ敬遠されている分、その代わりにネット型サービスに需要が回っているという図式はまだ続いていると考えられている(図表5)。

図表5
図表5

そうは言っても、対面型サービスのうち、劇場・音楽・スポーツ観戦は回復している。これらの観戦型の娯楽サービスは、自分で行うスポーツよりは対人での接点が比較的少ないものだ。だから、三密(密接・密集・密閉)のうち、相対的に密接になりやすい活動にはまだ抵抗感が根強く残っているのかもしれない。

旅行については、割引効果もあるが、接種証明・検査結果証明などを準備して、利用者の間に安心感を与える対応を採っていることが、潜在的な不安を和らげていると考えられる。

徐々に裾野は広がっている

以前、「アフター・コロナ」とか、「リベンジ消費」という言葉が多く聞かれた時期がある。当時は、需要が感染収束によって、需要が勢いよく立ち上がり、あたかも世界観が変わるようなイメージがあったと思う。

しかし、コロナ禍が2020年から3年目に移行しても継続している中で、世界観は「がらり」と変わるようなことにはならなかった。変化は、静かにゆっくりと進んでいるのが実情だ。

その背景には、先にみたように、コロナへの警戒感がゆっくりとしか解消していかないことがある。ゆっくりと需要が回復する理由は、波及効果の浸透がある。

冠婚葬祭の中で、このところ「結婚式場」がじわじわと回復している。これは、コロナ禍で延期されていた結婚を決める人が徐々に増えていることの反映だろう。洗濯・理容・美容・浴業というカテゴリーでは、美容とリネンサプライが回復してきた。美容は、外出して対面で人と接する機会が増えたことを反映している。リネンサプライは、ナフキン・タオル・おしぼりなど飲食店に提供したり、ホテル・旅館にシーツを提供する事業である。これも、飲食店やホテルの需要回復の波及効果が及んでいる。

サービス業の課題

さて、サービス業の回復は、2023年はどうなりそうか。まだコロナ感染の状況次第のところは多いが、緩やかで着実な需要回復が進むだろう。

そのとき、事業者からの不安として聞こえるのは人手不足だ。コロナ前に客足が戻ると、とても今の人員では対応できないと言われる。総務省「労働力調査」を調べると、宿泊・飲食・娯楽・生活関連サービスの就業者数は大幅に減少して、減らされた人員がまだ戻ってきていない(図表6)。需要回復の見通しに不安を抱いている事業者は、なかなか人員を増やせんかった経緯がある。

図表6
図表6

また、サービス分野であっても、施設利用料・業務委託費・スタッフ募集費など様々なコストが高くなっているという。長年据え置いてきた料金では、コストを賄いきれないという。そうした変化を受けて、最近は料金改定をしなくてはいけないという声も聞く。例えば、2023年4月に電気料金が仮に3割程度も上がりそうだ。そうなると、既往の電気代上昇に加えて、サービス業には逃げられないコストアップとなる。

従来の値上げは、製造業が中心だった。変動費が増えて、それを製品価格に上乗せすることが、製造業では広範囲に行われた。それが、2023年になると、非製造業、特にサービス業にも波及しそうだ。固定費の上昇などを値上げに転嫁して、悪化した採算を改善する動きがある。この値上げの反応は、消費者にどう受け止められるかも、サービス業の回復の重要なポイントになる。

熊野 英生


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