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「まん延防止」再延長の影響

~GDP▲0.9兆円減少を通じて失業者+3.9万人の可能性~

永濱 利廣

要旨
  • 過去のGDP個人消費と消費総合指数に基づけば、2021年9月の個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば▲1.1兆円(1日当たり▲350億円)程度下振れしたと試算される。
  • まん延防止発出の消費押し下げ圧力を前回の緊急事態宣言の半分程度と仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果は▲1.0兆円程度、GDPの減少額は▲0.9兆円程度、それに伴う3か月後の失業者の増加規模は+3.9万人程度と試算される。
  • 昨年10‐12月期時点で完全失業率は、男性2.8%に対して女性が2.3%と女性の方が雇用環境が改善しているように見える。しかし、就業していてももっと働きたいと考えている人や、非労働力人口の中でも働きたいと考えている人も存在する。そうした人達もカウントした未活用労働指標LU4は昨年10‐12月期時点で男性が5.2%にとどまっているのに対して女性が7.3%の水準にある。
  • この理由としては、非労働力人口の中でも働きたいと考えていても、就業環境の厳しさや感染を恐れて求職活動していない人たちが失業者としてカウントされていないこと加えて、女性の割合が高い非正規労働者を中心にもっと働きたいと考えている人が多数存在すること等が推察される。景気が良くないわりに失業率が低く抑えられているからと言って、楽観視できないということは未活用労働指標からも明らか。
目次

はじめに

全国的に新型コロナウィルスの感染拡大がピークアウトする中、緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」(以下、まん延防止)がこれまでの31都道府県に3月6日まで発出となっていたが、政府はうち18都道府県については3月21日まで延長する方針を固めた。

こうした改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくまん延防止が導入されたとしても、コロナ4段階ステージ指標の「ステージ3」での発出となるため、「緊急事態宣言」ほどの経済活動抑制圧力とはならないだろう。しかし、過去の緊急事態宣言により、その後の経済が大きく悪化したことからすれば、経済活動自粛の悪影響が出ることは確実だろう。

18都道府県15日延長で個人消費▲1.0兆円減

過去の緊急事態宣言発出に伴う外出自粛強化により、最も悪影響を受けたのが個人消費である。そして、実際に過去のGDPにおける個人消費と消費総合指数に基づけば、2021年9月の個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば、▲1.1兆円程度下振れしたと試算される。こうしたことからすれば、昨年9月の緊急事態宣言に伴うマクロ的な個人消費押し下げは一日当たり▲350億円程度だったことが推察される。

そこで、今回のまん延防止発出の影響を試算すべく、直近2018年の県民経済計算を基に家計消費の全国に占める昨年9月時点での緊急事態宣言発出地域の割合を算出すると計77.9%となる。

ただ、今回のまん延防止は今のところ31都道府県のうち3月6日に解除される13県は37~44日程度の発出になり、発出地域の家計消費割合は全国の17.3%になる。一方、3月21日まで延長される18都道府県は52~59日程度の発出になり、発出地域の家計消費割合は全国の69.6%になる。

このため、まん延防止措置の消費押し下げ圧力を前回の緊急事態宣言の半分程度と仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果としては、▲350億円/2×(40.5日×17.3+55.5日×69.6)/77.9=▲1.0兆円程度になると試算される。

しかし、家計消費には輸入品も含まれていることからすれば、そのまま家計消費の減少がGDPの減少にはつながらない。事実、最新となる総務省の2015年版産業連関表によれば、民間消費が1単位増加したときに粗付加価値がどれだけ誘発されるかを示す付加価値誘発係数は約0.86となっている。そこで、この付加価値誘発係数に基づけば、GDPの減少額は▲0.9兆円程度と計算される。これにより2022年1-3月期のGDPを▲0.6%程度押し下げることになり、年率換算では▲2.6%程度押し下げる計算になる。

また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると2四半期後の失業者数が+4.4万人以上増える関係がある。従って、この関係に基づけば、32都府県でまん防が3週間発出されれば、それに伴う半年後の失業者の増加規模は+3.9万人程度と試算される。

表面上の失業率より悪い雇用環境

このように、まん延防止に伴う雇用環境への悪影響は無視できないと言えよう。そこで気になるのが雇用環境である。

最も代表的な雇用環境を示す指標に完全失業率があるが、真の失業率ともいわれる未活用労働指標は依然として高水準にあることには注意が必要だろう。

というのも、完全失業率は就業者と完全失業者を合わせた労働力人口に占める完全失業者の割合を示したものだが、直近の四半期データに基いて男女別で見れば、男性2.8%に対して女性が2.3%となり、女性の方が雇用環境が良いように見える。

しかし、就業していてももっと働きたいと考えている人や、非労働力人口の中でも働きたいと考えている人も存在するが、そうした人たちは完全失業者にはカウントされていない。このため、総務省は平成30年からこうした状況を加味した真の失業率ともいえる「未活用労働指標」を集計して公表している。そして、中でも最も範囲を広げた未活用労働指標LU4(=「労働力人口+潜在労働力人口」に占める「失業者+追加就労希望者+潜在労働力人口」の割合)を見ると、昨年10-12月期時点で男性が5.2%にとどまっているのに対し、女性が7.3%の水準にあることがわかる。

この理由としては、非労働力人口の中でも働きたいと考えていても、就業環境の厳しさや感染を恐れて求職活動していない人たちが失業者としてカウントされていないこと加えて、女性の割合が高い非正規労働者を中心にもっと働きたいと考えている人が多数存在すること等が推察される。したがって、景気が良くない割りに失業率が低く抑えられているからと言って、楽観視できないということは未活用労働指標からも明らかである。

以上の分析に基づけば、政府には今年度の未執行分予算や来年度の予備費を有効に活用した柔軟で迅速な政策対応が求められるといえよう。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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