高インフレは「一時的」に終わる可能性 中立金利当てゲームの勝者は?

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月31,500程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年3月に利上げ開始、年後半にはQTに着手するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。NYダウは+0.5%、S&P500は+0.9%、NASDAQは+1.4%で引け。VIXは18.40へと低下。
  • 米金利カーブはブル・フラット化。30年金利は2%到達後に頭打ち状態となっている。債券市場の実質金利は▲0.860%(▲8.5bp)へと低下。
  • 為替(G10通貨)はUSD安傾向。USD/JPYは115前半で一進一退。コモディティはWTI原油が81.2㌦(+3.0㌦)へと上昇。金は1818.5㌦(+19.7㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 30年金利
米国 30年金利

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

注目ポイント

  • 市場参加者は2022年に4回の利上げを織り込みつつある。それでも長期金利が安定し、株価も崩壊してない現状はFEDにとって最高の環境と言えるだろう。FEDはストレスなく3月に利上げを開始し、その後は四半期ごとに追加利上げを実施するだろう。既に複数のFED高官(ウォラー理事、ボスティック総裁、ブラード総裁、バーキン総裁、メスター総裁等)は3月の利上げ開始を主張し、11日はパウエル議長も指名公聴会において具体的言及こそ避けたものの、総論としては利上げ開始が近いことを意味する発言をした。今や年4回の利上げは既定路線といえる。

  • もっとも年央にはインフレ鎮静化を示す指標が存在感を増してくると予想され、金融市場の注目は早くも「利上げ打ち止め時期」に移行するだろう。12月FOMCで示されたドットチャートによれば2024年の政策金利(FF金利上限)は2.25%、利上げの天井として意識されている中立金利は2.50%である。それに対して現在の30年金利(あるいは5年先5年金利)は中立金利を明確に下回る2%近傍で推移している。長期的に30年金利が中立金利に沿って推移してきた経緯を踏まえれば、市場参加者は「利上げは2%程度で終了」あるいは「近い将来に中立金利が引き下げられる」と予想していると考えることができる。反対に30年金利が上がるとしたら、それはインフレが一向に収まらず、FEDの利上げの天井が上方シフトする(と予想される)状況になる場合だろう。いわば30年債は「中立金利(あるいは利上げの天井)を当てるゲーム」であるから、利上げが2%程度で終わるならば、現在の金利水準を妥当とみた市場参加者が勝者になる。

米国 30年金利・中立金利
米国 30年金利・中立金利

  • その点、昨日発表された12月NFIB中小企業調査は労働者不足の緩和および販売価格引き上げの波が一服した可能性を示唆した。パンデミックのリバウンド局面で著しく上昇した「人手不足を指摘する企業の割合」は49と高止まりしたが、それでも2021年9月の51をピークに緩やかな低下傾向にある。雇用統計や求人統計等から判断すると、相対的に賃金の低いレジャー・ホスピタリティ(宿泊飲食等接客業)において自発的離職率が高まるなどミスマッチが生じている模様だが、9月に失業給付の特例措置が終了した後、全体としてみれば復職は加速傾向にあり人手不足感は徐々に解消されていると判断される。そうした下で「販売価格計画」は49へと低下した。異常値的な水準にあるとはいえ、エネルギー価格の上昇一服、サプライヤー納期の短縮などに起因するインフレ圧力が低下したことを示唆する。その他ではISMやPMIにおいてもサプライヤー納期の短縮化と仕入・販売価格の低下傾向が確認されている。

  • 中小企業の価格設定スタンスを映し出すこの指標は消費者段階のインフレに6ヶ月程度の先行性を有しているようにみえる。アトランタ連銀算出の粘着CPI(物価変動の鈍い品目に絞って算出したCPI)を以って基調的なインフレとするならば、インフレのモメンタムは向こう数ヶ月の加速を経た後、年央頃には鈍化が予想される。加えてベース効果によってCPIやPCEといったインフレ指標の前年比上昇率が抑制されることを踏まえると、FEDを含む、人々のインフレ認識は変化するだろう。インフレのアップサイドリスクを懸念するFOMC参加者の減少が予想され、高水準にあるインフレリスクDIは下向きのカーブを描き、インフレ退治を理由に利上げを主張する声は次第に小さくなっていく。

  • FEDの引き締め前夜にもかかわらず長期金利が低位安定を保っていることを謎とする声もあるが、債券市場参加者は「利上げ時期は早まっても天井は変わらず」として中長期ビューを変えていないとみられ、また高インフレに関しても「一時的」との判断を変更しておらず、中長期的な予想インフレ率を示す5年先5年BEIはパンデミック発生前後で大きく変化していない。

米国 労働者不足を指摘する企業の割合
米国 労働者不足を指摘する企業の割合

米国 労働者不足を指摘する企業の割合
米国 労働者不足を指摘する企業の割合

コア粘着CPI・販売価格判断
コア粘着CPI・販売価格判断

FOMC参加者が認識するコアインフレ率見通しのリスク
FOMC参加者が認識するコアインフレ率見通しのリスク

米国 予想インフレ率
米国 予想インフレ率

藤代 宏一


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