テーマはインフレのバトン ~

~中古車→家賃→労働コスト

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年末までに資産購入を終了、23年後半に利上げを開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株市場は下落。NYダウは▲0.4%、S&P500は▲0.5%、NASDAQは▲0.3%で引け。VIXは18.80へと上昇。
  • 米金利カーブはブル・フラット化。PEPPの買い入れペース縮小を決定したECB理事会の影響は限定的。ラガルド総裁は2022年3月末が期限のPEPPを延長するか否かについて12月の理事会で計画を公表するとした。
  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは109後半へと下落。コモディティはWTI原油が69.3㌦(+1.0㌦)へと上昇。銅は9249.0㌦(▲101.5㌦)へと低下。金は1791.2㌦(▲5.1㌦)へと低下。
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注目ポイント

  • 「2021年中のテーパリング開始」および「2022年後半の資産購入終了」がコンセンサスとなるなか、現時点で「2023年央以降の利上げ開始」は市場関係者の中心的見通しに近いだろう。また政策金利のゴールとしてはドットチャートで示されている中立金利2.5%が目安となる。もっとも、今後のインフレ動向次第で利上げの天井は上方シフトする可能性があり、その点において賃金上昇圧力は重要と考えられる。
  • これまでのインフレ率を押し上げてきたのは主としてエネルギーのほか、中古車や宿泊設備などパンデミックの影響を強く受けたものに集中してきた。クリーブランド連銀が算出・公表する刈り込み平均CPI(大幅変動にした品目を除去して算出)が通常のヘッドラインCPIを大幅に下回っているのは特定品目による押し上げ効果が強かったことを意味する。一部品目が急上昇した要因として、半導体不足に伴う新車の供給制約、パンデミックからの力強い需要回復など「一時的」とみられるものが多かったことを踏まえると、こうした「特定品目主導型」のインフレに持続性がないと考えるのが自然だろう。

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  • もっとも、今後は「家賃主導型」のインフレが予想される。CPIの約3割を占める(帰属)家賃(修繕費等を含む「住居費」では約4割)がケース・シラー住宅価格指数に約1年遅れて動くことを踏まえるとその確度は高い。6月のケース・シラー住宅価格指数は前年比+19.1%と2000年代半ばの住宅バブル期を凌駕する勢いで上昇し、3ヶ月前比年率では+23.5%へと更に上昇モメンタムを強めている。これまでのところ家賃はCPI全体の上昇を抑制する方向にあったが、向こう数ヶ月でパンデミック発生前の上昇率に回帰し、それ以降は上昇ドライバーになる可能性が高い。
  • インフレの持続性という意味において最も重要なのは賃金、労働コストであろう。「賃金主導型」のインフレを考えるうえで、最近のJOLT統計は示唆に富んでいる。まず求人数は前月比+7.4%、1093.4万件と過去最高を更新し、企業の採用意欲が旺盛であることを示した。次に採用者数(入職者)は666.7万人へと増加し労働市場の回復を示したが、求人件数と採用者数の乖離は大きく、なお人手不足感が強いことを浮き彫りにする結果であった。このように労働需給が逼迫するなかで注目すべきは自発的離職率の上昇。7月は2.6%へと上昇し、過去最高を更新した。魅力的な待遇を求めて自ら職を辞する人は顕著な増加傾向にあり、このことは今後賃金上昇圧力が強まることを示唆している。この指標が平均時給に約1年の先行性を有することに鑑みれば、今後は賃金主導型のインフレ圧力が高まる可能性がある。賃金と物価の関係は相互刺激的、すなわち労働コスト増加が価格転嫁されるメカニズムは一度働くと直ぐには終わらないため、インフレが長期化する可能性もある。
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  • 現在、中長期的な予想インフレ率を示す5年先5年BEIは2%台前半で安定し、名目10年金利は1%半ばに満たない水準で推移している。フィッシャー式を前提にするならば、今後予想インフレ率が高まることで名目金利の押し上げに繋がる可能性もある。

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藤代 宏一


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