シニア世代の健康づくりへの視点

~単身男性で低い「休養・睡眠」への意識~

北村 安樹子

目次

1.コロナ禍が強めた健康への関心

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が、5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類に移行される。地域の医療提供体制も、患者が一般の医療機関で受診できるよう調整が進められることになる。

しかしながら、コロナ禍以降の日々を通じて、自身や家族の感染を予防する機会が増えたり、外出自体を控える生活を経験した人の中には、健康管理の重要性を感じたり、健康づくりへの関心を強めた人も多いのではないか。

本稿では、コロナ下の生活で60代以上のシニア世代が自身の健康に関してどのようなことを心がけていたのかを振り返りながら、コロナ対策が転換期を迎える中で、シニア世代が健康づくりに取り組むことの重要性について述べる。

2.「休養・睡眠」への意識が低かった単身男性

コロナ下の生活では、60代以上の人も、自宅で過ごす時間が増えた人が多かった。個人差もあるが、シニア世代の場合には特に、在宅時間の増加や他者とのコミュニケーションの減少が、活動量の低下や心身の虚弱化につながる恐れがあることが知られてきた。このため、コロナ禍が長期化して以降、外出や社会活動を過度に控えるのではなく、感染予防対策と並行して、心身の健康づくりやコミュニケーションの機会をもつことが重要であると提言されてきた。

実際、一度目の緊急事態宣言から8か月が経った2021年1月(注1)に内閣府が行った調査によると、60代以上の人のほとんどが健康に関するさまざまなことを心がけていたようだ(図表1)。中でも「休養や睡眠を十分とる」をあげた人が66.2%と最も多い。

ただ、日本で当時この点を挙げた人の割合は、他国に比べ低い水準にとどまっていた(注2)。また、性別・世帯形態別に比較した場合、単身世帯の男性では50.7%と、他の世帯形態の男性や、同じ単身世帯の女性に比べ10ポイント以上も低かった。コロナ禍にあった当時、シニア世代は感染した場合に重症化しやすいとされており、休養や睡眠、食事などの面に気をつけて免疫力を高めることが重要であったが、この調査に回答した単身男性には、休養や睡眠の重要性を意識していた人があまり多くなかったと考えられる。

図表1
図表1

3.「気持ちを明るく持つこと」「散歩や運動」を心がけた単身女性

高齢期の1人暮らしは、未婚・既婚にかかわらず、60代以上の多くの人に想定される将来のライフスタイルだ。単身世帯に注目した場合、「休養・睡眠」への意識が低い傾向がみられた単身男性に比べ、単身女性では「休養や睡眠を十分とる」「規則正しい生活を送る」「栄養のバランスがとれた食事をする」といった日常の生活習慣を挙げた人の割合がいずれも大幅に高い。また、「気持ちをなるべく明るく持つ」といったメンタル面や、「散歩や運動をする」といった運動面を意識していた人も、単身男性や他の世帯形態の女性に比べ多くなっている。

これらの心がけや実際の行動には、健康状態や経済状況、家族・友人関係など他の要因もかかわっており、厳密には男女差とは言えない。しかし、コロナ禍で、この年代の単身女性が自身の健康に関するさまざまなことを心がけていた点は、高齢期の1人暮らしが多くの人の将来像となるなかで、参考にすべきことではないか。また、「休養・睡眠」に関しては、単身世帯の男性で心がけていた人が少なかった一方、単身世帯の女性とともに、夫婦世帯の男女でも心がけていた人の割合が高い。配偶者や同居家族の存在が、休養や睡眠のとり方に対する意識に与える影響には、男女で異なる面があるのだろう。

なお、参考までに、2015年に行われた前回調査と比較すると、単身世帯の男性では「休養や睡眠を十分とる」、単身世帯の女性では「なるべく外出する」「地域の活動に参加する」が10ポイント以上減少している(図表2)。男性の場合、夫婦世帯では「休養や睡眠を十分とる」ことを心がけた人が増えたのに対し、単身世帯では大きく減少している。前述のように、単身世帯の男性では、他の世帯形態の男性や単身女性に比べ「休養や睡眠」の重要性を意識していた人が少ない傾向にあった。定年年齢の引き上げ等で60歳以降も仕事を続ける人が増えたことや、コロナ禍でライフスタイルが変化したことなどが、家族と同居せず、生活の自由度が高い単身男性の休養や睡眠のとり方に影響したのではないか。一方、単身世帯の女性の場合は、外出機会や地域活動への参加機会が減少したことが、主体的に健康管理や健康づくりを行うことの重要性に気づくきっかけになったようだ。

図表2
図表2

4.シニア世代の健康づくりへの視点

このほか単身世帯の男女ではともに、「趣味を持つ」を挙げた人が増加しており、女性では「栄養バランスがとれた食事をする」を挙げた人も増加している。自宅で過ごす時間が増えたコロナ禍の生活を通して、健康づくりの観点から、趣味をもつことや、栄養バランスを意識した食生活の大切さをあらためて感じた単身女性も多かったようだ。それらの意識が、ライフスタイルの見直しにつながったのだろう。

今回紹介した調査は現役世代の人も対象に含まれているが、それらの人も含めて、コロナウイルスへの感染予防は引き続き関心の高いテーマだろう。一方で、単身世帯の女性の実践にみられるように、シニア世代の健康面のライフデザインでは日々の生活習慣を通して免疫力を高め、感染予防と健康づくりのバランスをはかることも大切な視点になる。新たな季節を迎え、現役世代を含むシニア世代の人は、睡眠や休養のとり方を含め日常の生活習慣を見直してみること、混雑していない時間帯・場所に外出して心身の健康づくりとのバランスをはかることなどを改めて意識してみてはどうだろうか。

【注釈】

  1. 日本の調査期間(2021年1月5日~1月25日)には、11都道府県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県)に緊急事態宣言が発出されていた。
  2. 「休養や睡眠を十分とる」をあげた人は、アメリカ(86.4%)、ドイツ(73.3%)、スウェーデン(68.8%)が日本(66.2%)を上回る。

北村 安樹子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ