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「自動文字起こしAI」の衝撃

~あなたの「議事録作成業務」が無くなる世界~

柏村 祐

目次

1. 変わらない「議事録作成業務」

多くの職場では、会議や打ち合わせに伴う「議事録作成業務」が存在するが、その手間に悩んでいる人は多いのではないだろうか。

そもそも議事録はなぜ必要なのだろうか。議事録とは、打ち合わせや会議の内容や決定事項をまとめたものである。議事録があることで会議に参加しなかった人もその内容を共有でき、参加者も含めて内容に関する認識を合わせられるので、的確な業務遂行につなげることができる。

したがって、今も多くの会議や打ち合わせにおいて、「議事録係」が「議事録作成業務」を担当している。「議事録係」の議事録作成方法は、大きく2つに分けられる。1つは、その場で発言者の言葉を記録し後で議事録にまとめる方法、もう1つは、会議中の音声を録音しておき、会議後に音声を聞きながら議事録をまとめる方法である。最近では、テレワークが進みオンラインによる打ち合わせの機会も増えているため、記録として会議を録画し、後で再生して議事録を作成することもあるだろう。

「議事録作成業務」は、実施された会議や打ち合わせ参加者の共通認識を記録する仕組みとして重要な役割を担うが、案外と時間を要する仕事でもある。作成に時間がかかるだけでなく、その内容が合意内容と相違し訂正を要する場合や、再度打ち合わせが必要となることもある。

筆者も、打ち合わせや会議に参加をしながら議事録を作成しなくてはならない場合、会議に集中し過ぎてしまい、参加者の発言記録を漏らしてしまったり、逆に議事の記録に終始し、会議で自分の発言ができなかった経験がある。録音して議事録を作成する場合も、音声の聞き直しの作業などで時間を取られる。またグローバル企業で働く知人は、外国人との会議や打ち合わせでは外国語での議事録作成の負担が大きい、とのことであった。

民間企業が実施した社会人経験5年未満の社会人527人を対象にした議事録・会議録作成に関するアンケート調査では、議事録作成で大変なことについて45.5%が「残業が増える」、45.0%が「作成の速さが求められる」と回答しており、「議事録係」の負担感が大きいことがわかる(注1)。

会議の内容を記録する「議事録作成業務」は重要な仕事ではあるが、担当者の負担軽減や業務効率化のために、そのプロセスを見直す必要もあるのではないだろうか。

2. 「自動文字起こしAI」の登場

「議事録作成業務」は以前からあるものの、その業務プロセスを抜本的に効率化する方法は以前は存在していなかったが、現在は「議事録作成業務」を代替するテクノロジーとして「自動文字起こしAI」が登場している。以前から「音声認識自動文字起こしソフト」は存在していたが、その認識精度は低く実用的ではなかった。「自動文字起こしAI」は、高度に発展したAIを利用し音声を認識するため「精度が高い」議事録を作成する仕組みである。リアルタイムでの文字起こしはもちろん、パソコンやスマートフォンなどのあらゆる機器に対応しており、会社内、外出先、在宅など場所を選ばずに利用することが可能だ。

筆者はこの「自動文字起こしAI」が実際どのようなものなのかを確認してみた。アメリカのドナルド・トランプ前大統領が2021年1月19日に行った20分程度の退任演説録画「Farewell Address(日本語訳で「別れの挨拶」)」を「自動文字起こしAI」を使って「文字化」を試みた。操作はシンプルで、自分自身が文字化したい録画データを「自動文字起こしAI」に読み込ませるだけで「文字化」を開始してくれる。実際、約20分のトランプ前大統領の録画データは2分程度で自動「文字化」を完了した。

「自動文字起こしAI」は、トランプ前大統領の発言音声を正確に「文字化」しており、AIによる音声認識の進歩が著しいことを確認できる。もし「文字化」に誤変換が起きた場合、編集機能を使うことにより、誤って「文字化」された情報を修正し、上書きすることもできる。また、「文字化」されたテキスト情報を会議や打ち合わせに参加した人に共有する機能も備わっているため、「文字化」後に会議参加者に連携することも可能である。

また、「サマリーキーワード」という機能を使えば、「自動文字起こしAI」で「文字化」した内容の中で、どのキーワードが繰り返し発言されていたかを集計することができる。例えば、先のトランプ前大統領の演説では、2回以上発言があった単語は20に達している(図表1赤枠)。「America」という「サマリーキーワード」を選択すると、演説の中で24回発言されていることが判別され(図表1緑枠)、「America」と発言した箇所がどこなのか黄色く反転するため、どこで「サマリーキーワード」が使われていたか、また発言者であるトランプ前大統領は何を強調したいのかが可視化される。

従来の人による「手動文字起こし作成」では、「文字化」の品質は作成する担当者の力量や経験に左右された。「自動文字起こしAI」を使うことは、担当者の議事録作成能力に依存せず、記録の品質を確保する効果が見込める。「自動文字起こしAI」を活用すれば、長年当たり前とされた「議事録作成業務」の業務プロセスを効率化し、品質の平準化を図ることができる。

図表
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3. 「自動文字起こしAI」の波及効果

このように、「自動文字起こしAI」を活用することにより議事録作成業務の効率化を図ることができるが、他にどのような波及効果があるだろうか。それを筆者は、「会議への積極的な参加促進」、「膨大な記録の検索性」だと考える。

「会議への積極的な参加促進」とは、会議への関与度を可視化することにより、参加者に積極的に参加するよう促すことを意味する。「自動文字起こしAI」は、誰がどれくらい発言したのかを発言文字数で比較できる。例えば、図表2のように、3人参加した会議の場合、スピーカー2の人が「75%」、スピーカー1の人が「23%」、スピーカー3の人が「1%未満」といった形で結果が示されるので、誰が会議に積極的か、消極的かが定量的に可視化される。このように、「自動文字起こしAI」は、データに基づいて、スピーカー3の人に自分が会議で発言していなかったことに気づきを与え、今後積極的に発言するような意識をもたせる効果が期待できる。

図表
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次に、「膨大な記録の検索性」とは、膨大な会議や打ち合わせの記録から、必要な情報を迅速に検索することができることを意味する。「膨大な記録の検索性」により、いつの会議や打ち合わせの中で取り上げられた内容なのか、改めて探索する時間が省けるのだ。日々開催される会議や打ち合わせの議事内容は、その回数が増えれば増えるほど、振り返って内容を確認するためには時間を要する。「自動文字起こしAI」は、会議や打ち合わせの記録を一元化するため、キーワードを入力すれば、過去の膨大な記録の中から必要な情報に速やかにたどり着くことができる。例えば、「いつの会議か忘れたけど、あの人が言っていたことを再確認したい」といったニーズに対して、紙や電子ファイルで保存された情報から探すことに比べ、はるかに迅速に記録を検索できる。「膨大な記録の検索性」は「探す時間」を極小化する。

最近では、リモートワークの普及に伴い、オンライン会議システムは日進月歩で進化している。「自動文字起こしAI」は、コロナ禍で常態化したオンライン会議システムとも連携する機能が付加されている。オンライン会議時に、常時「自動文字起こしAI」を稼働させておけば、打ち合わせや会議で共有される情報や決定事項を文字情報として保存することが可能となり、それらをキーワードで検索すれば、瞬時に会議内容を振り返ることもできる。もし会議に出席できなくなった場合でも、「自動文字起こしAI」を出席予定だった会議にセットしておけば、好きな時間にその内容を振り返ることが可能だ。

業務効率化による生産性向上が一層求められる中、長らく「議事録係」の負担となっていた「議事録作成業務」は、今や「自動文字起こしAI」というテクノロジーが担う世界が到来しているのだ。


柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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