Side Mirror(2024年12月号)

佐久間 啓

日銀による、ややサプライズ感のある政策金利の引き上げに加え、米国の雇用統計が予想から下振れたことで、米国経済のソフトランディングシナリオ実現に懸念が出てきたことから、それまでの楽観的見通しの下で積みあがった円キャリー取引等のポジションが急速に巻き戻されて、資本市場のボラティリティーが上昇した。8月5日には、日経平均株価は過去最大となる4,451.28円の暴落となった。

そうした中、8月7日、日銀の内田副総裁は「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と発言。その後も株式相場は前日比1,000円を超える上下を何度か繰り返したが、徐々に落ち着きを取り戻していった。9月20日の決定会合後の記者会見で植田総裁は、「政策判断に当たっては、(世界経済の状況などのリスクを確認していく)時間的な余裕がある」と発言。利上げを急がない考えを示したことで、市場には安堵する雰囲気が広がった。

この9月の決定会合では、8月の市場混乱を受けて、市場との対話の重要性について活発な意見交換がされていた。「主な意見」を見ると、「言葉に対する日本銀行と市場の共通理解が薄れてしまっている面がある。市場とのずれが生じない発信、ずれが生じた場合の適時の修正等、コミュニケーションの改善に努めるべきである」といった意見に代表されるように、市場とのコミュニケーション強化の動きが示されていた。

植田総裁は、10月25日、G20閉幕後の会見で、「時間的余裕はあると思っている」として利上げは急がない姿勢を見せていたが、10月31日の決定会合後の記者会見では、「時間的余裕という表現は、今後使わないことになる」、「見通し実現の確度が上がっていけば、適宜政策の調整につながっていく」とした。繰り返される“時間的余裕”の質問にも丁寧に答えており、コミュニケーションに気を使っている姿勢は評価できるだろう。ただ、これは8月以前の姿勢に戻るということでもある。総裁の表情からは、見通し実現への自信も垣間見えた。次の利上げは意外に早いのかもしれない。日銀の情報発信には、これまで以上に注意が必要だ。

佐久間 啓


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