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2023.04.19
ライフデザイン
幸せ・well-being・QOL
Well-being QOLの視点『日常の風景に感じる法律改正の動き』
杉崎 勝男
早朝の運動を日課にしている。ウォーキングやジョギング、公園でストレッチなどをして一時間ほど体を動かす。新しい発見や気づきは脳の大事な栄養と聞き、とうに定年退職をして錆びついた脳のために毎日少しずつコースを変えている。いつも付き合ってくれた愛犬がいなくなり一人になって、以前より周囲の状況を感じるようになった。住宅地では立派な一軒家の空き家を多くみかけ、庭木が隣家に大きくはみだしていたりする。どんな家族が暮らしていたのだろう?主がいなくなってどのくらいたつのだろう?往時の隣同士の付き合いはどうだったのだろう?目の前の情景にしばらく思いを馳せることも度々のこと。そんな空き家や庭木をめぐってこの4月から順次法律改正が施行される。
小さな家をやっとの思いで購入した身としては、空き家にしている経済力に羨望の思いを禁じ得ないこともあるが、それには色々な事情があるのだろう。遠く離れた親の家を空き家にしているのはまだしも、相続登記をせずに子から孫へと代替わりをするうちに所有者不明の土地になってしまうことも多いという。「所有者不明土地問題研究WG 座長 増田寛也氏」の試算によると、2016年時点で九州全土の面積を上回る所有者不明の土地があるのだそうだ。九州の面積は一般に関東と定義される1都6県に山梨県を加えた面積とほぼ等しい。首都圏在住の者にとってはこちらの方がイメージしやすいのだが、東京都と東京都を囲む近隣7県の面積を足し合わせた土地がそのまま所有者不明の土地だとなると、その広大さに驚く。しかも2040年には北海道全土に相当する広さにまで拡大する可能性があるとの予測さえあるらしい。
これほどまでに所有者不明の土地が増加した一つの原因が不動産の共有相続だと言われる。相続した不動産が共有の環境におかれた場合、基本的には共有者全員の同意がないと売却等ができない。ただでさえ、全員の同意を得ることは困難を伴うことがあるが、音信不通の親族などと共有になっている場合には、さらに大変な労力や負担が強いられて処分は事実上困難となっていた。このままではこれからも空き家の発生が想定されるため4月施行の民法では、所在等不明の共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、残った共有者全員の同意により、共有不動産の売却ができるようになった。
同じく4月から相続土地国庫帰属制度が始まる。これは、相続した不要な土地を国に引き取ってもらう制度だ。これまでは相続財産の土地の一部のみを放棄することはできず、放棄する場合は相続のすべてを放棄するしかなかった。このため、相続しても不要な土地や、買い手がつかない土地は放置されることに繋がっていた。この相続土地国庫帰属制度を活用することで、遠く離れた実家などを確実に手放したい場合には有効な手段となるだろう。
新しい民法では隣地との権利関係も変更になる。かなり昔の資格試験で、塀を超えた隣家の庭木を切ることはできないと学んだ。現行民法では枝葉が盛大にはみ出してきても、越境された住人は隣家に切断を依頼するしかなく、所在者不明の土地であっても同じことで事実上困難だった。しかし4月からは、 庭木の所有者がわからない場合やその所在を知ることができない場合は、越境してきた枝葉を切ることが可能となった。今後、隣家の庭木に覆われた風景は目にしなくなるのかもしれない。
このほかにも2024年から不動産登記法では、任意だった相続登記の義務化も予定されている。一連の法律改正の施行により今後は所有者不明土地の発生が抑えられ、土地の有効活用が進むだろう。一方で,趣のあった一軒の古屋が数軒の家に生まれ変わった姿に出会うと、寂しさを感じてしまう日常の一コマでもある。
杉崎 勝男
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。