- HOME
- レポート一覧
- 第一ライフ研レポート
- 時評『トレンド転換への対応力』
現在、数年前とは不連続な事象が世界で生じている。COVID-19、米中摩擦激化とロシア・ウクライナ戦争、インフレ進行、牙をむく気候変動、加速度的なテクノロジー進化、等々である。これらの事象は、社会・経済に構造的変化を与える可能性があり、将来にわたる影響について様々な議論がなされている。
COVID-19は、接触・密集・移動の抑制により、デジタル化を一気に加速させ、ワークスタイルや消費行動の変化、産業選別、一段の出生率低下などをもたらしており、今後はこれら変化の進展と継続性が論点となろう。
米中摩擦やロシア・ウクライナ戦争など安全保障環境の変化は、東アジアへのリスク波及を含め、軍事政策、エネルギー・食料・サプライチェーン政策の修正により、グローバル経済の流れや財政を大きく変化させる可能性をはらむ。
世界的インフレ進行は、長年続いた超緩和的金融政策を転換させ、市場や各国マクロ経済への大きな影響が顕在化しつつある。
気候変動は、高温や異常降雨による災害が頻発し、農林水産業での大きな変化や社会インフラの再構築、中長期でのGXによるエネルギー・産業構造の転換が避けられない動きとなりつつある。
テクノロジーでは、AIの著しい進歩と民主化が様々な産業に大きな変化をもたらし、AR(拡張現実)やAH(人間拡張)の進化は生活や人生観に大きなインパクトを与えるとの予測が多い。
1990年代以降のメガトレンド(冷戦終結・グローバル化・人口構造変化・テック進化等)はどこまで転換していくのであろうか。
COVID-19や地政学変化は、グローバルな貿易や人の流れに大きな影響を与えているが、グローバリゼーション(貿易・人・マネー・情報)の根本的修正や終焉に繋がるかは、慎重な見極めが必要と思われる。貿易フローは、従来に比べややブロック化され、サプライチェーンの修正なども生じ、一定のコストと制約を甘受する時代への転換はありえよう。リアルな人の移動は、デジタル併用による非対面ビジネス拡大などで、ここ近年の世界的大移動水準からは低下が継続するであろうが、情報と合わせたデジタルな人の移動は新局面になろう。またグローバルなマネーの動きは、インフレ進行と金融政策転換により、大きな巻き戻しが当面は避けられまい。
一方、テクノロジー進化やGXのうねりは、少子高齢化や各国の人口動態と合わせ、今後も超長期で続く通奏低音の如きトレンドと言える。年々顕著な変化が現れ、社会経済構造と人々の意識に大きな変化をもたらす要素と言えよう。
以上、1990年代以降のメガトレンドが全て転換することはないように見えるが、2020年代が幾つかの新たな長期トレンドの起点となる可能性は高そうである。1990年代の教訓としても、時代の転換点では、その変化が一時的修正か中長期の転換かを見極める力と、構造転換については先送りせず速やかに対応することが必要である。
日本人にはある時一斉に短期間で大転換できる能力(明治維新、太平洋戦争敗戦後)があるともいわれるが、必ずしも方向感を読み切れない複数の大きな変化への対応では、決め打ちシナリオでの対応よりも、ITやビジネス開発で活用されるアジャイルやMVP手法(Minimum Viable Product)の応用が、変革に伴うコストを抑制し、成功確率を高める有効な手法のように思える。
細かな変化シナリオに基づき、失敗と成功を短期間で繰り返しながら継続的な変革を実施していくことで、最適解を一早く実現する、そうした対応力が社会や企業に定着していくことが肝要ではなかろうか。
現実社会での変化対応では、最初から100点を取ることは困難であり、70点のアウトプットを繰り返し達成していければ、結果的に大きな成果を実現できるはずである。各組織において、多少のミスを許容し、チャレンジを称賛する評価制度を本気で導入していくことが何よりも重要だと思われる。
寺本 秀雄
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。