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内外経済ウォッチ『欧州~仏マクロン再選に立ちはだかる3候補~』(2022年2月号)

田中 理

目次

新たな極右候補が登場

ドイツでショルツ首相が率いる新政権が誕生し、欧州政局の次の注目点は4月のフランス大統領選挙となる。最近の世論調査では、再選を目指すマクロン大統領が25%前後の支持でリードし、それを前回2017年の決選投票でマクロン氏に敗れた極右政党・国民連合のルペン候補、新たな極右候補で無所属のゼムール候補、伝統的な二大政党の一角で中道右派・共和党のペクレス候補が15%前後の支持で熾烈な二番手争いを繰り広げている。候補者が乱立する左派は低迷が続いている。

フランスの大統領選挙は二回投票制で行われ、4月10日の初回投票の上位2名が、同月24日の決選投票に駒を進める。決選投票でマクロン大統領と対峙するのは、前述の3候補に絞られよう。独立系極右候補のゼムール氏は、作家やテレビのコメンテーターとして長年活躍してきた人物で、メディア露出も多い。人種差別的な発言が物議を醸すことも少なくないが、歴史や古典への造詣が深い知識人としての一面も持つ。新型コロナウイルスの感染再拡大が今後の選挙戦にどう影響するかも気掛かりだ。フランスでは、1月初時点で1日当たりの新規感染者が過去のピークを更新し続けている。今後、一段と感染が広がり、感染予防の強化を余儀なくされる場合、政権批判が高まり、対立候補に有利に働く可能性がある。

フランス大統領選・初回投票の世論調査
フランス大統領選・初回投票の世論調査

初の女性大統領誕生なるか?

マクロン大統領にとって最も手強い相手は、ここにきて急速に支持を伸ばすぺクレス候補だろう。政策が似通うぺクレス氏は攻撃材料に乏しく、決選投票の世論調査でも接戦が予想されている。移民の受け入れ制限などの主張が、決選投票では極右支持層の一部を取り込む余地がある。同氏は多くの大統領を輩出してきた伝統政党出身で、初の女性大統領の栄冠を勝ち取った場合も、政策面で大きな不安はない。ただ、ドイツ政界を長年率いてきたメルケル前首相が引退したのに続き、メルケル後の欧州連合(EU)のリーダーと目されたマクロン大統領が再選に失敗すれば、EUのリーダーシップに対する不安が広がる恐れがある。ぺクレス氏はサルコジ大統領時代に予算相などを歴任した経験豊富な政治家だが、EUや国際社会でのプレゼンスは未知数だ。

マクロン氏が再選を果たした場合も、二期目の政権運営には不安が残る。前回選挙を前に同氏が旗揚げした中道政党・共和国前進は、大統領選直後の下院(国民議会)選挙を制し、議会の過半数を握った。だが、大統領や政権の支持低迷とともに離党者が相次ぎ、議会の過半数を失った。地方選挙でも苦戦続きで、マクロン大統領が再選した場合も共和国前進が議会の過半数を握るのは困難とみられている。

フランス大統領選・決選投票の世論調査
フランス大統領選・決選投票の世論調査

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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