確定拠出年金に「ロボアド」は導入できるのか

~制度設計に向けた論点~

奥田 宏二

要旨
  • 政府は2026年7月の「成長投資を促進するための金融戦略―資産運用立国のアップグレード―」で、確定拠出年金(DC)におけるロボアドバイザーサービス(投資一任契約)の取扱いを整理する方針を示した。元本確保型商品のみで運用する加入者が約2割を占めることへの問題意識から、加入者のリスク許容度に応じた適切な商品選択やリバランスをサポートする狙いがある。
  • 現行法は、個人が「自己の責任において運用の指図を行う」ことを制度の基本的な枠組みとして掲げている。運用商品の選択だけでなく、それぞれへの配分額も加入者自身が決める仕組みであり、投資一任の導入は、誰が運用判断を担うのかという確定拠出年金法(DC法)の根幹に関わり得る。過去にも業界団体から導入を求める要望があったが、厚生労働省は、DCは他者に運用を任せる制度ではないとして「対応不可」としてきた。
  • DCでは、加入者が運用を指図しない場合に適用される「指定運用方法」が2018年に導入された。実際には本人が商品を選んでいなくても、本人が運用の指図を行ったものとみなすことで、加入者による運用指図という基本的な枠組みは維持されており、投資一任の導入を考えるうえで参考になる。
  • DC法第23条には、政令で要件を定めることで新たな契約を「運用の方法」に加えられる余地がある。投資一任をこの枠組みに位置付ければ、加入者が一任サービスを選択するという形で現行制度との接続を図ることも考えられる。ただし、一任後の運用判断を誰が担うのかという問題は残る。最終的には、本人による「運用の指図」を制度の基本的な枠組みとする第1条との関係をどのように整理するかが焦点になろう。
目次

1. はじめに

確定拠出年金(DC)の運用を巡り、大きな制度変更につながる可能性のある論点が浮上している。投資一任の活用だ。内閣官房が2026年7月に公表した「成長投資を促進するための金融戦略―資産運用立国のアップグレード―」(「成長投資金融戦略」)のなかで、加入者の商品選択を支援する施策として、「ロボアドバイザーサービス(投資一任契約)の取扱いを整理する」とした(注1)。

元本確保型商品のみで運用する加入者が約2割を占めることへの問題意識から、加入者のリスク許容度に応じた適切な商品選択やリバランスをサポートする狙いがある。成長投資金融戦略は、物価上昇によって実質的な資産価値が低下するリスクを指摘し、個々の加入者が適切な商品を選択できるよう支援する必要があるとの考えを示している。

投資一任では、加入者が投資一任契約を選択した後の商品選択や資産配分、リバランスについて、金融機関などが判断する。確定拠出年金法は加入者本人が「運用の指図」を行うことを制度の前提とする。加入者本人以外が運用判断を担うことを認めるかどうかという論点は、確定拠出年金法(DC法)の根幹に関わり得る。

DCへの投資一任導入は過去に業界から要望があった。厚生労働省(以下、厚労省)は、DCは他者に運用を任せる制度ではなく、個人が自己の責任で運用の指図を行う制度だとして、導入は困難との考えを示していた。こうした経緯があるだけに、今回の成長投資金融戦略に投資一任契約の取扱いが明記された意味は小さくないと考える。加入者の商品選択を支援する施策の一つとして位置付けられているものの、検討の内容によっては、これまで加入者本人が行ってきたDC口座内の商品選択や資産配分の一部を専門家に委ねる仕組みを組み込む可能性が出てくる。

本稿ではまず、DC法における「運用の指図」の位置付けを整理する。そのうえで、これまでの経緯を確認し、DCに投資一任を組み込む場合に考えられるアプローチと、その制度上の論点を検討する。

2. DC法が定める「運用の指図」

確定拠出年金の「確定拠出」とは、あらかじめ決められた額の掛金を拠出し、その資金の運用結果によって将来の給付額が変わる仕組みを指す。給付額があらかじめ定められる確定給付年金(DB)と異なり、DCでは運用による利益や損失が加入者の資産額、ひいては将来の給付額に反映される。

そのうえでDC法が重視しているのが、誰が運用判断を行うかという点だ。DC法第1条の目的規定は、個人または事業主が拠出した資金について、「個人が自己の責任において運用の指図を行い」、その結果に基づいて給付を受けることができるようにするとしている。加入者本人による運用の指図は、個別の運用ルールの一つとして置かれているのではなく、法律の冒頭でDCという制度そのものを特徴付ける要素として規定されている。

この考え方は理念にとどまらない。第2条は、企業型年金加入者について、事業主から掛金が拠出され、「かつ、その個人別管理資産について運用の指図を行う者」と定義している。企業型年金運用指図者やiDeCoの加入者、運用指図者についても、それぞれ個人別管理資産について運用の指図を行う者と定めている。加入者という制度上の主体そのものが、運用の指図を行う者として位置付けられている。

では、「運用の指図」とは具体的に何をすることなのか。企業型DCについて定めた第25条は、加入者が自らの個人別管理資産について運用の指図を行うとしたうえで、その方法を具体的に規定している。加入者は、提示された運用方法の中から一つまたは二つ以上を選択し、「それぞれの運用の方法に充てる額」を決定して、その内容を記録関連運営管理機関などに示す。iDeCoについても、企業型DCの運用に関する規定が準用されている。つまり、現在のDC法でいう「運用の指図」は、どの商品を選ぶかに加え、それぞれにいくら配分するかまで加入者自身が決める仕組みになっている。

こうした判断を加入者が行えるようにするため、事業主や運営管理機関などにも役割が定められている。第22条は事業主の責務として、資産運用に関する基礎的な資料の提供などを継続的に行うよう求めている。第24条も、運営管理機関などに対し、提示した運用方法について、利益の見込みや損失の可能性など、加入者が運用の指図を行うために必要な情報を提供することを義務付けている。判断する主体は個人であり、事業主や運営管理機関などはサポート役という建付けだ(注2)。

図表
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投資一任をDCに取り入れる場合、このうち商品選択や資産配分、さらにその後のリバランスを金融機関などが担うことになる。加入者が投資一任契約を選ぶこと自体をどのように位置付けるかという論点は残るものの、現在のDC法が想定する「運用の指図」と比べると、判断の主体や範囲が変わることになる。DC法の根幹部分に関わり得る論点であることが分かる。

3. 「指定運用方法」でも維持された本人による運用指図

DCには加入者が自ら運用商品を選ばない場合に備えた仕組みがある。2018年5月に導入された「指定運用方法」だ。投資一任をどのように位置付けるかを考える際、参考になる。

指定運用方法は、加入者が一定期間、運用の指図を行わなかった場合に、あらかじめ選定された商品で資産を運用する仕組みだ。DC法第25条の2は、一定期間を経ても加入者が運用の指図を行わず、さらに通知後の猶予期間を過ぎても指図がない場合、その加入者が指定運用方法を選択し、運用の指図を行ったものとみなすと定めている。

導入の直接の背景には、運用商品を選択しない加入者が一定数いたことがある。同時に、当時のDCでは元本確保型商品への偏りも問題となっており、分散投資を促すことが一つの狙いとされた。指定運用方法を巡る議論でも、デフォルト商品として元本確保型商品が広く設定されていたことが示されている。現在の投資一任を巡る議論にも、元本確保型商品のみによる運用を減らし、加入者の適切な商品選択を支援したいという共通する問題意識がある。

指定運用方法が適用される場合、加入者自身は商品を選んでいない。それでも法律は、運営管理機関などが加入者に代わって運用判断をしたとは整理せず、加入者本人が指定運用方法を選択して運用の指図を行ったものとみなす仕組みにした。

制度導入時の厚労省の説明を見ると、その考え方は明確だ。指定運用方法は、加入者が一定期間運用の指図を行わない例外的な場合への対応であり、手続きを設けたのは加入者の運用指図権を保護し、自ら運用指図を行うことを促すためと説明している。改正後も、本人が自分で選択した商品によって運用することが制度の本旨である点は変わらないとしていた(注3)。

指定運用方法は、本人による積極的な商品選択を必須としない仕組みだ。ただし、運用判断そのものを第三者に委ねる形にはしていない。本人が運用の指図を行ったものとみなすことで、第1条や第25条が前提とする加入者の運用指図という構造を維持している。

図表
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この点は投資一任との違いを考えるうえで重要になる。指定運用方法では、あらかじめ一つの運用方法が選定され、加入者が指図しない場合にその運用方法を選んだものとみなす。その後、別の商品に変更するなどDC口座上の運用指図は加入者に残る。一方、投資一任では、契約後の商品選択や資産配分、その後のリバランスなどを金融機関などが継続的に判断することになる。

DCはこれまでも、加入者が必ずしも自ら商品を選ばないという現実に対応して制度を変えてきた。しかし、その際にも本人による運用の指図という基本的な枠組みは残した。投資一任は、その枠組みのどこまでを維持し、どこから専門家に委ねるのかという新たな問題を提起する。

4. 過去には認められなかった投資一任

DCへの投資一任の導入はこれまで複数回、業界団体が要望してきた。Fintech協会は2018年、確定拠出年金に投資一任サービスを導入するよう規制改革ホットラインを通じて要望している。提案の背景には、加入者自身による運用には限界があるとの問題意識があった。長期運用では、運用開始時の商品選択だけでなく、その後のリバランスや年齢に応じた資産配分の変更も必要になる。Fintech協会は、すべてを加入者の金融リテラシー向上によって対応することには限界があり、ロボアドバイザーなどを活用した投資一任を選択肢として認めるよう求めた。

これに対する厚労省の回答は「対応不可」だった。厚労省が挙げた根拠は二つある。一つは、第1条が「個人が自己の責任において運用の指図を行う」と定め、他者に運用を一任する契約を前提としていないこと。もう一つは、加入者が選択できる運用方法を定めた第23条に投資一任契約が規定されていないことだ。さらに、指定運用方法が導入されたことにも触れたうえで、DCは他者に運用を任せる制度ではないため、投資一任契約の導入は困難との考えを示した。

投資一任を求める動きはその後も続いた。2019年には都銀懇話会が、DCで投資一任プランを選択できるようにすることを要望した。ロボアドバイザーなどを使えば、多忙な勤労世代でも加入者ごとのリスク許容度に応じた運用が可能になるとし、加入者に最終的な投資判断を求めたり、運用状況をモニタリングしたりする仕組みも提案した。

この時に示された厚労省の回答も「対応不可」だった。加入者は提示された運用商品の中から、本人の責任で商品を選択して指図する必要があるとしたうえで、DCは他者に運用を任せる制度ではなく、個人が自己の責任で運用の指図を行う制度との考えを改めて示した(注4)。こうした回答から、厚労省が当時、加入者自身が運用を指図することをDCの基本的な仕組みと捉え、その判断を他者に委ねる投資一任の導入に慎重だったことが読み取れる。

ここで興味深いのは、日本のDCを制度設計する際に参考とされた米国の401(k)プランでは、加入者が運用先を指図しなかった場合の受け皿として適格デフォルト投資先(QDIA)が定められており、その一類型として、専門家が加入者ごとの資産配分を継続的に判断する投資運用サービスが認められていることだ。その例として挙げられているのがmanaged accountで、加入者の年齢や退職予定時期などに応じて、専門家が401(k)プラン内の商品への配分やその後の資産配分の変更を継続的に行う(注5)。

日米の対応には共通点もある。米国でも、加入者に運用を指図する機会がありながら指図しなかった場合、QDIAに投じられた資産について加入者本人が支配を行使したものとして扱う仕組みがある(注6)。加入者が実際には運用を指図していない場合を「みなし」によって処理する点は、日本の指定運用方法と共通する。

違いは、加入者本人の判断として扱われる範囲にある。日本の指定運用方法では、あらかじめ選定された一つの運用方法を本人が選択し、運用の指図を行ったものとみなす。これに対し米国では、加入者が指図しないまま、専門家がその後も資産配分を継続的に判断する投資運用サービスに資産が投じられた場合にも、本人が資産に対する支配を行使したものとして扱うことができる。少なくとも運用判断の実態に着目すれば、米国の方が専門家に委ねられる範囲は広い。一方、この取扱いの下でも、QDIAの選定・監視や実際の運用を担う者の責任は残る。こうした責任関係については、別稿で詳しく取り上げたい。

5. おわりに

これまで導入困難とされてきた投資一任をDCに組み込むとするなら、どのようなアプローチが考えられるのだろうか。成長投資金融戦略を改めて読むと、「リスク許容度に応じた適切な商品選択やリバランスをサポートする観点から、預金や投資信託に限定されている運用商品におけるロボアドバイザーサービス(投資一任契約)の取扱いを整理する」とある。注目されるのは、投資一任を「運用商品」の枠組みの中で記述している点だ。

DC法第23条第1項は、預貯金や有価証券などの運用方法を列挙する一方、第6号に、それ以外でも投資者保護など政令で定める要件を満たす契約を対象にできる規定を置いている。現行の施行令には、第6号に対応する契約は具体的に定められていないが(注7)、法律上は、新たな運用方法を追加する余地が残されていると考えられる。

2018年に厚労省が投資一任を認めなかった際には、第1条と第23条の二つを根拠に挙げていた。こうした法令の構造を踏まえると、今回の成長投資金融戦略の記述は、第23条の「運用の方法」から制度化する可能性を考える手掛かりになる。

仮に投資一任契約をDCの「運用の方法」の一つとして位置付ければ、加入者が投資一任サービスを選び、そこに充てる額を決めるという仕組みが考えられる。加入者自身が運用方法を選択し、配分額を決定する点では、第25条が定める運用指図の形式を維持できる余地があるのではないか。加入者が運用の指図を行ったものとみなすことで制度の枠組みを維持した指定運用方法とも、発想として通じる部分がある。

ただし、その後の商品選択や資産配分、リバランスを一任先が継続的に判断する点は変わらない。仮に第23条側で手当てする場合、それは何を運用方法として選べるかという問題への対応であって、誰が運用判断を行うのかという問題は別に残る。

最終的な論点は、やはり第1条との整合性だろう。前述した通り、同条は「個人が自己の責任において運用の指図を行う」ことを掲げている。投資一任サービスを選択すること自体を本人による「運用の指図」と整理し、その枠内で制度を組み立てるのか。それとも第1条を含め、加入者本人による運用判断を前提としてきた制度の基本的な仕組みにまで手を入れるのか。今後の制度設計では、この点が大きな分岐点になろう。

政府の「日本成長戦略」は、成長投資金融戦略のうち具体化が必要な施策について、特段の記載があるものを除き、2026年度末までを目途に結論を得たうえで、その後速やかに実施するとしている。拠出限度額や制度の効率化・シンプル化については「次期年金制度改革まで」という別の時間軸が示されている一方、商品選択の支援策にはそうした記載がない。投資一任の取扱いについては、2026年度末までに具体的な方向が示される可能性がある(注8)。

以 上

【注釈】

  1. 内閣官房「成長投資を促進するための金融戦略―資産運用立国のアップグレード―」(2026年7月21日)。同戦略は、DC加入者の約20%が元本確保型商品のみで運用しているとしたうえで、個別商品のアドバイス、ロボアドバイザーサービス(投資一任契約)の取扱い、商品除外手続き・商品本数規制の見直し、指定運用方法の設定促進などを検討事項としている。

  2. DC法第1条、第2条、第22条、第24条、第25条、第73条。第25条第2項は、提示された一つまたは二つ以上の運用方法を選び、それぞれに充てる額を決定して示すことを「運用の指図」と定めている。

  3. 指定運用方法は2016年のDC法改正で設けられ、2018年5月に施行された。法第25条の2は、特定期間(第1項)を経過しても運用の指図がないときに通知を行い、通知後の猶予期間(第2項)を経過してもなお指図がない場合、指定運用方法を選択し、未指図個人別管理資産の全額を充てる運用の指図を行ったものとみなすと定める。制度導入時、厚労省は指定運用方法を、一定期間運用の指図を行わない「例外的な場合」への対応と説明し、改正後も本人が自ら選択した商品で運用することが制度の原則との考えを示した。現在の法令解釈通知も、指定運用方法は加入者の運用指図権を保護するための規定と位置付けている。

  4. Fintech協会は2018年3月、規制改革ホットラインに「確定拠出年金制度普及のための施策<投資一任サービスの導入>」を提出した。厚労省は、DC法第1条と第23条を挙げ、DCは個人が自己の責任で運用の指図を行う制度であり、投資一任契約の導入は困難として「対応不可」と回答した。都銀懇話会も2019年10月に「確定拠出年金における投資一任プランの導入」を要望したが、厚労省は2020年6月、同様に「対応不可」と回答した。

  5. 米労働省のQDIA規則では、加入者の年齢や退職予定時期などを踏まえ、401(k)プラン内の投資先への資産配分を専門家が行う「investment management service」がQDIAの一類型として認められており、managed accountがその例として挙げられている。

  6. 加入者が運用を指図する機会を与えられながら指図せず、一定の要件の下で資産がQDIAに投資された場合、ERISA第404条(c)(1)の適用上、加入者が当該資産について支配を行使したものとして扱う。ERISA第404条(c)(5)、米労働省規則29 CFR §2550.404c-5。

  7. DC法第23条第1項第6号は、第1号から第5号まで以外についても、「投資者の保護が図られていることその他の政令で定める要件に適合する契約の締結」を運用方法とし得る規定を置いている。対象となる運用方法を具体化するDC法施行令第15条第1項は、運用の方法を表で定めている。表は法第23条第1項第1号から第5号までに対応する五つの項(預貯金の預入、信託、有価証券の売買、生命保険の保険料又は生命共済の共済掛金の払込み、損害保険の保険料の払込み)で構成され、第6号に対応する項は置かれていない。

  8. 「日本成長戦略」(2026年7月21日閣議決定)は、「成長投資を促進するための金融戦略」のうち具体化が必要な施策について、特段の記載があるものを除き「2026年度末までを目途に結論を得た上で、その後速やかに実施する」としている。成長投資金融戦略では、DCの拠出限度額や制度の効率化・シンプル化については「次期年金制度改革まで」という別の時間軸を示している。

奥田 宏二


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。