フィジカルAI相場の利益はどこに向かうのか

~「頭脳の米国、量産の中国、つるはしの日本」から読み解く産業構造~

柏村 祐

要旨
  • 先日、中国で開催された「世界人型ロボット運動会」で、人型ロボットが100メートルを8秒64で走り、ウサイン・ボルトが持つ男子100メートルの世界記録をタイムで上回った。AI投資の対象は、サイバー空間の「ソフトウェア」から、現実世界で稼働する「フィジカルAI」へと広がりつつあり、これは新たな「ゴールドラッシュ」の幕開けを意味するのかもしれない。

  • フィジカルAIのグローバルサプライチェーンにおいて、利益は均等には落ちていない。米国のハイパースケーラーが巨額投資を主導する中、現時点では、投資を受け取る側の米国半導体企業の利益成長が際立っている。

  • 中国はロボティクス分野で存在感を高めているが、関連株のバリュエーションはすでに極めて高く、ボラティリティも大きい。産業の成長が、そのまま良好な投資成果につながるとは限らない点に注意が必要である。

  • 一方、日本はフィジカルAIを稼働させるための産業用ロボットや半導体製造装置・材料といった「つるはし」の供給で世界的な強みを持つ。この強みは株式市場でも評価され、関連セクターは市場全体を大幅にアウトパフォームしてきた。

  • 個人投資家は、「S&P500」などのインデックス投資(米国の大型テクノロジー企業の比重が高い)だけでは、日本の「つるはし企業」が生み出してきた超過リターンを取りこぼす可能性がある。インデックスをコアとしつつ、日本の半導体・機械関連企業への投資をサテライトとして組み込む余地を検討することも考えられる。

目次

1. ボルトを超えた中国ロボットと、現代のゴールドラッシュ

2026年8月26日、北京で開催された「世界人型ロボット運動会(World Humanoid Robot Games)」で驚くべき記録が生まれた。AP通信などの海外メディアが報じたところによると、北京人型ロボットイノベーションセンターが開発した「Tiangong Ultra(天工Ultra)」が100メートルの決勝で8秒64を記録し、人類最速の男、ウサイン・ボルトが持つ男子100メートルの世界記録(9秒58)をタイムで上回ったのである。このニュースは、投資家にとって重要な事実を示している。すなわち、AI投資の対象が、PCやスマートフォンの画面上で利用される「ソフトウェア(生成AI)」から、ロボットや自動運転、スマートファクトリーなど、現実世界で稼働する「フィジカルAI」へと広がりつつあるということだ。フィジカルAIとは、カメラやセンサーを通じて現実世界を認識し、状況を判断したうえで、ロボットや自動車などを実際に動かすAIを指す。

これは、現代における新たな「ゴールドラッシュ」の幕開けであるのかもしれない。「AI投資」と聞けば、多くの個人投資家は米国の巨大テック企業(ハイパースケーラー)を思い浮かべるだろう。確かに彼らはAIの「頭脳」となる基盤モデルの開発や、それを支える計算基盤の整備を主導している。しかし、19世紀のゴールドラッシュでは、金を掘り当てた一部の採掘者だけでなく、採掘者たちに「つるはし」や「ジーンズ」を売った商人が、着実に利益を積み上げたとされている。フィジカルAIをめぐる開発競争でも、最終的な勝者を見極めるのは容易ではない。一方で、競争が激しくなり、関連投資が拡大するほど、不可欠なインフラや道具を供給する企業には、利益が集まりやすくなる。

では、このフィジカルAI革命において、「現代のつるはし」は誰が握っているのだろうか。その有力な供給者の一角が日本である。米国ではAI投資を受け取る半導体企業の利益成長が際立つ一方、日本はフィジカルAIを物理的に構築・稼働させるための産業用ロボットや半導体製造装置・材料という独自の強みを持っている。本稿では、「頭脳の米国、量産の中国、つるはしの日本」というグローバルなサプライチェーンの役割分担を紐解き、AI相場の利益や投資リターンがどこに現れているのか、その構造を明らかにしたい。

2. フィジカルAI相場の利益はどこに落ちるのか

(1) 頭脳の米国

現在のAIブームを牽引しているのは、米国の巨大テック企業(ハイパースケーラー)である。彼らは生成AIやフィジカルAIの「頭脳」となる基盤モデルの開発と、それを支えるデータセンター網の構築に巨額の資本を投じている。しかし、株式市場という観点から見たとき、「AIの勝者=AIモデル企業」とは限らない。巨額のAI投資による利益成長の恩恵は、現時点では投資を行う側以上に、半導体メーカーなど投資を受け取る供給側で顕著に表れているからだ。

J.P. Morgan Asset Managementの「Mid-Year Investment Outlook 2026」によれば、ハイパースケーラーの設備投資ブームは、半導体をはじめとするサプライチェーン企業に大きな恩恵をもたらしている。資料1は、米国企業のEPS(1株当たり利益)成長率の予測を示したものである。これを見ると、米国半導体企業の2026年のEPS成長率は+98%と予測されており、米国ハイパースケーラーの成長率(約+17%)を大きく上回っている。AIインフラを構築するための巨額の先行投資は、ハイパースケーラーのキャッシュフローやバランスシートに負担をかける一方で、現時点では半導体メーカーなど投資の受け手の利益見通しを大きく押し上げている。投資家は、AIの利益成長の果実がどこに落ちているのかを注視する必要がある。

図表
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(2) 量産の中国

一方、フィジカルAIの「体」となるロボティクス分野で存在感を高めているのが中国である。冒頭で紹介した人型ロボットの進化に象徴されるように、中国ではロボティクスへの期待が急速に高まっている。しかし、産業としての成長期待と、株式投資としての魅力は分けて考える必要がある。

MSCIが算出する「MSCI China A Onshore IMI Robotics Index」の2026年7月末時点のファクトシート(資料2)を見ると、中国のロボティクス関連企業のパフォーマンスとリスク特性が読み取れる。過去1年間の価格リターンは+30.33%と、中国A株全体(同+10.72%)を大きくアウトパフォームしている。しかし、ファンダメンタルズに目を向けると、PER(株価収益率)は51.83倍に達しており、市場全体の27.95倍と比較して著しく割高な水準にある。さらに、過去3年間の年率リスク(標準偏差)は34.85%と高く、価格変動の激しさを示している。中国のロボティクス産業の成長余地は大きいものの、関連株にはすでに市場全体を大きく上回る高いマルチプルが付与されており、ボラティリティも高い。高い成長期待が株価に相当程度織り込まれている可能性があり、産業の成長が、そのまま良好な投資成果につながるとは限らない点に注意が必要である。

図表
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(3) つるはしの日本

米国が「頭脳」を開発し、中国が「量産」を担う中で、日本は独自の立ち位置を築いている。それは、フィジカルAIを物理的に構築・稼働させるために不可欠な産業用ロボットや、半導体製造装置・材料の提供である。ゴールドラッシュになぞらえれば、日本の部品・装置メーカーは、AI競争に必要な「つるはし(Picks and Shovels)」を供給する立場にある。

そして、この「つるはし」戦略は、株式市場でも明確に報われている。KKRの「The Divergence Conundrum: Mid-Year Outlook for 2026」に掲載された資料3は、日本の株式市場におけるセクター別のパフォーマンスを示している。2022年末の生成AI(ChatGPT)の登場以降、「ロボット工学と機械」および「半導体製造装置と材料」のセクターが、市場全体(TOPIX)を大幅にアウトパフォームしていることがわかる。とりわけ「半導体製造装置と材料」の上昇は急であり、TOPIXとの差は、生成AIの登場以降、総じて拡大している。日本企業はAIのソフトウェア開発(頭脳)では米国に遅れをとっているかもしれないが、物理的なAIインフラを支える供給者として、その強みが超過リターンという形で市場から高く評価されているのである。

図表
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3. インデックス偏重からの脱却と「つるはし」の組み込み

第2章で見てきたように、フィジカルAI相場の恩恵は、グローバルなサプライチェーンの中で決して均等に分配されているわけではない。米国では、巨額の投資を行うハイパースケーラー以上に、その投資を受け取る半導体企業の利益成長が際立っている。また、日本では部品・装置メーカー(つるはし企業)の強みが、株価の超過リターンという形で表れてきた。一方、中国のロボティクス関連株は、高い成長期待を織り込む反面、バリュエーションが高く、値動きも大きい点には留意が必要である。こうした日米中の役割分担と、それに対する株式市場の評価の違いは、個人投資家がフィジカルAI相場を捉え、今後の資産形成に取り入れるうえで、重要な示唆を与えている。

現在、新NISAの普及もあり、多くの個人投資家が「S&P500」や「全世界株式(オルカン)」といったインデックスファンドに資金を投じている。これらは資産形成の強固なベースとなる投資手法である。ただし、S&P500には日本企業が含まれておらず、全世界株式においても、日本企業への配分は時価総額に応じた限定的なものとなる。したがって、フィジカルAI相場で市場平均を大きく上回ってきた「日本のつるはし企業」の成長を、より積極的に投資成果へ取り込もうとするなら、インデックス投資だけでは十分な比率を確保できない可能性がある。また、「AI関連」と名のつくテーマ型ファンド等に無防備に飛びつくことも危険である。「AIだから買う」という単純なテーマ投資では、成長期待をすでに大きく織り込んだ割高な銘柄を、高値で購入してしまうおそれがある。これからのAI投資において個人投資家に求められるのは、AIというテーマだけで判断せず、企業の競争力や利益成長、株価水準を冷静に見極める姿勢である。そのうえで、S&P500や全世界株式などの幅広く分散されたインデックスファンドをポートフォリオのコアに据え、サテライトとして、日本の半導体・機械関連企業への投資を検討することも、一つの選択肢となり得る。ただし、テーマ型投資は銘柄や業種の集中度が高まりやすく、価格変動や割高な銘柄への投資といったリスクを伴う。

米国の一人勝ちにも見えるAI競争。その舞台裏で、実は日本企業が不可欠な役割を担い、関連セクターが市場平均を大きく上回ってきたという事実は、日本株を改めて評価する重要な材料となる。ただし、すべての日本企業が勝者になるわけではない。どの企業が真の「つるはし」を提供し、その技術力や競争優位性が持続可能で、なおかつ株価が適正な水準にあるのかを見極める必要がある。その判断を補う手段として、専門性の高いアクティブファンドや専門家の助言を活用することも選択肢となるが、手数料や運用実績、リスクを十分に確認する必要がある。AI相場の熱狂にただ乗るのではなく、その先で「利益はどこに向かうのか」を冷静に見極める。その視点こそが、フィジカルAI時代に向き合う投資家に求められているのだろう。

以 上

【参考文献】

  • J.P. Morgan Asset Management (2026) "Mid-Year Investment Outlook 2026"

  • MSCI (2026) "MSCI China A Onshore IMI Robotics Index Factsheet"

  • KKR (2026) "The Divergence Conundrum: Mid-Year Outlook for 2026"

  • AP News (2026) "A robot sprinter shatters a 100-meter record again as sparks fly at China's robot competition"

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

政策調査部 主席研究員
専⾨分野: AI・資産運用・デジタル資産

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