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オーバーツーリズムの現状と対策(後編)

~「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを~

今泉 典彦

要旨
  • 本後編では、政府が2023年10月に公表した「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」の中で、地方部の観光地の魅力向上として、「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり」(11モデル地域)を見る。その上で、政府が2024年3月に公表したオーバーツーリズム対策「先駆モデル20地域」の主要な取り組みについて触れてみたい。
  • 「11モデル地域」とは、地方部への誘客の推進の柱として、高付加価値旅行者の地方誘客強化のため、同地域において、高付加価値旅行者のための観光地づくり事業を加速化するものである。11モデル地域のうち、北陸エリアと八幡平エリアについてその取り組みを紹介する。
  • 11モデル地域において、側面支援として、①コンテンツの磨き上げと販路の形成、②地方における二次交通の確保、③高速道路周遊パスの平日利用における割引拡充・魅力向上、④「デジタル×観光」の推進、に取り組むとしている。
  • 2024年3月26日、観光庁は「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」の第1次公募を実施した結果、「先駆モデル地域」として20 地域を採択した。採択後、地域の関係者による協議の場を立ち上げ、課題分析に基く具体的な対策に関わる計画を策定し、取り組みを実施する予定である。
  • 先駆モデル20地域の取り組みは4つに分けることが出来る。①公共交通等の混雑対策、②マナー違反対策、③自然環境保護、④需要の分散・周遊促進等、である。各々、京都、美瑛、西表島、宮島の取り組みを紹介する。
  • 政府には、「対策パッケージ」の中で挙げられている対策について、実際に導入したのか、オーバーツーリズム対策として効果があったのか、効果測定を早急に進め、次なる対策につなげていただきたい。速やかな効果測定や事例の共有化は日本全体の観光に裨益すると思われる。様々な対策にはこれを一つやればよいという特効薬はなく、国や地方自治体としても試行錯誤の状態だ。今後とも、持続可能な観光に向けて、「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを目指して、不断の努力を続けなければならない。
目次

1.はじめに

国内外の観光需要は急速に回復し多くの観光地が賑わいを取り戻しているが、都市部を中心とした一部地域への偏在傾向も見られ、観光客が集中する一部の地域や時間帯等によっては、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度の低下への懸念も生じている、いわゆるオーバーツーリズムの状況となっている。本後編では、政府が2023年10月に公表した「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」の中で、地方部の観光地の魅力向上として、「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり」(11モデル地域)を見る。その上で、政府が2024年3月に公表したオーバーツーリズム対策「先駆モデル20地域」の主要な取り組みについて触れてみたい。

2.「11モデル地域」とは

観光庁のモデル事業は多様な種類のものが存在するが、本稿で説明したいと考えているのは、「11モデル地域」と「先駆モデル20地域」(後述)である。

「11モデル地域」とは、地方部への誘客の推進の柱として、高付加価値旅行者(注1)の地方誘客強化のため、11の地域において、観光地づくり事業を加速化するものである(資料1)。

資料1 地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり(11モデル地域)
資料1 地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり(11モデル地域)

この11モデル地域は、①コアバリュー:高付加価値旅行者にも訴求できる魅力的なコンテンツの造成、②宿泊:高付加価値旅行者のニーズに対応する宿泊施設の高付加価値化、③人材:地方への送客・ガイド・ホスピタリティ人材の育成、④移動:高付加価値旅行者のニーズを踏まえた移動のシームレス化、の4つの視点がポイントになっている。2023年度は、各種事業により宿泊施設やコンテンツ等の高付加価値化を総合的に支援するとともに、今後の取組指針(マスタープラン)を各地域で策定した。2024年度は、外部目線によるコンテンツ等の磨き上げ及び販路の形成により早期誘客の実現を目指す、とされている。以下、11モデル地域のうち主な取り組みを2事例取り上げる。

資料2 11モデル地域――北陸エリアでの取り組み
資料2 11モデル地域――北陸エリアでの取り組み

資料2は、北陸エリアでの取り組みである。北陸エリアのテーマは、霊峰白山の恵み、北前船の交易、加賀百万石の歴史により培われた豊かな文化で、2024年度は、能登半島地震からの復興に向けた特別な体験の提供や北陸新幹線の延伸も活かした誘客エリアの拡大、長期滞在の実現を支援する。北陸復興応援イベントでは、日本を代表する工芸「九谷焼」「輪島塗」「鯖江メガネ」「井波木彫り」や食文化を集結し魅力を世界に発信する予定である。金沢市では日本唯一の工芸に特化したアートフェア、国立工芸館所蔵の茶道具を用いた特別茶会や、工芸作家の工房見学ツアーを実施している。

資料3 11モデル地域――八幡平エリアでの取り組み
資料3 11モデル地域――八幡平エリアでの取り組み

資料3は、八幡平エリアでの取り組みである。八幡平エリアのテーマは、十和田八幡平国立公園の自然と工藝など岩手・秋田等、北東北の歴史と生活に根ざした文化で、2024年度は、宿泊施設の高付加価値化に加え、国際競争力の高いスノーリゾートの形成の取り組みなどを支援する。八幡平市・二戸市では、日本遺産「‟奥南部”漆物語」における地域の暮らし・文化体験ツアーとして、「森林浴の森100選」に選定された安比高原ブナ二次林での森林浴や、漆器としての命を吹き込む職人技を間近で見学するツアーを実施している。また、環境省との連携で、十和田八幡平国立公園における滞在体験の魅力向上に取り組んでいる。

11モデル地域において、高付加価値旅行者のための観光地づくり事業を加速化する際の政府・自治体等による側面支援として、①コンテンツの磨き上げと販路の形成、すなわち、外部目線によるコンテンツの磨き上げのための旅行会社等の招請、販路の形成に向けたプロモーションの支援、②地方における二次交通(注2)の確保、③高速道路周遊パスの平日利用における割引拡充・魅力向上、④「デジタル×観光」の推進、すなわち、リアルタイムな最適配車や混雑状況の可視化等による旅行者の利便性の向上、オンラインによる予約・決済や電子クーポンの発行等による消費拡大などデジタル技術の活用、に取り組むとしている。

この4つの支援策のうち、特に、②の地方における二次交通の確保が重要と思われる。まず1点目の重要なポイントは、日本版ライドシェアの創設である。日本版ライドシェアとは、諸外国と異なり、運行管理を既存のタクシー会社が担い、タクシーが不足している地域・時期・時間帯におけるタクシー不足の状態を、道路運送法第78条第3号の「公共の福祉のためやむを得ない場合」であるとして、地域の自家用車や一般ドライバーによって有償で運送サービスを提供することである。

国土交通省は2024年3月13日に、特別区・武三交通圏(武蔵野市、三鷹市)、京浜交通圏、名古屋交通圏、京都市域交通圏の4営業区域を決定し、4月からタクシー会社の運行管理のもと、指定の曜日・時間帯でライドシェアを解禁した。

さらに、3月29日に、新たに、札幌交通圏、県南中央交通圏(埼玉)、千葉交通圏、大阪市域交通圏、神戸市域交通圏、広島交通圏、福岡交通圏及び仙台市の計8営業区域が追加された。営業区域ごとのタクシーの不足台数や時間帯などを分析した上で、5月以降、第2弾として順次解禁される。大都市部以外の地域でもタクシー事業者に実施意向がある場合には、順次開始する予定である。岸田首相は、タクシー会社以外も参入できる法制度への改正に向けて5月中に論点整理するよう関係閣僚に指示し、6月を目途に方向性を決めるとされる。

2点目のポイントは、自家用有償旅客運送(過疎地型ライドシェア)の制度改善である。そもそも過疎地型のライドシェアは、公共交通の不便な地域で2006年に導入された。2023年末の制度改善は、「交通空白地」の目安を数値で提示するとともに、夜間など「時間帯による空白」の概念も取り込む、実施主体からの受託により株式会社が参画できることを明確化する、「対価」の目安をタクシー運賃の「約8割」とする、などであった。2024年度予定の制度改善は、需給に応じて価格を変えるダイナミックプライシング(変動価格制)の導入、タクシーとの共同運営の仕組みの構築、運送区域の設定の柔軟化、などである。

3点目のポイントは、MaaSの取り組みである。MaaS(Mobility as a Survice)とは、スマートホン等で、複数の移動手段を組み合わせた検索、予約、決済、利用を可能とするサービスで、特定エリア内の乗り降り自由な企画切符の購入や観光情報を入手できるものもある。二次交通の確保に向けて、ライドシェアの運用管理等がさらに進展することを期待したい。

3.オーバーツーリズム対策「先駆モデル20地域」とは

2024年3月26日、観光庁は「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」の第1次公募を実施した結果、「先駆モデル地域」として20 地域を採択した(資料4)。採択後、地域の関係者による協議の場を立ち上げ、課題分析に基づく具体的な対策に関わる計画を策定し、取り組みを実施する予定である。

資料4 「先駆モデル地域」採択地域及び主な取組構想
資料4 「先駆モデル地域」採択地域及び主な取組構想

先駆モデル20地域の取り組みは4つに分類されている。①公共交通等の混雑対策、②マナー違反対策、③自然環境保護、④需要の分散・周遊促進等、である。

以下、主な取り組みを挙げてみたい。

資料5 京都【公共交通等の混雑対策】の事例
資料5 京都【公共交通等の混雑対策】の事例

資料5は、京都の公共交通等の混雑対策である。着手済みの取り組みでは、地下鉄への乗り換え促進(接続駅での無料振替、バス1日券の廃止)、急行バス・乗合タクシーの実証運行、運賃設定の規制緩和、手ぶら観光促進(臨時手荷物預かり所設置)、看板・デジタルサイネージ設置によるマナー啓発、等が挙げられる。

今後の取り組みの構想としては、「観光特急バス」の新設(京都駅~清水寺方面、運賃は通常の約2倍となる500円に設定)、手ぶら観光の拡充(関西空港から京都市内宿泊施設への手荷物配送サービスの新設)、KANSAI MaaSと京都観光快適度マップの連携、等が考えられている。

資料6 美瑛【マナー違反対策】の事例
資料6 美瑛【マナー違反対策】の事例

資料6は、美瑛のマナー違反対策である。美瑛では、写真撮影のために私有地への立入りが発生し、観光客の集中による交通渋滞が発生している。着手済みの取り組みは、パーク&ライド駐車場(注3)の整備、デジタルサイネージの設置とマナー啓発動画の放映、AIカメラによる私有地立入りの実態把握、混雑状況のリアルタイム表示、が挙げられる。

今後の取り組みの構想としては、パーク&ライド駐車場を活用した渋滞抑制(観光周遊 バス・レンタサイクルの利用促進)、主要観光スポットにおける受入施設の整備・増強、AIカメラを活用したマナー違反行為の監視・抑制等が考えられている。

資料7 西表島【自然環境保護】の事例
資料7 西表島【自然環境保護】の事例

資料7は、西表島の自然環境保護の取り組みである。自然体験を求める観光客の増加に伴い、自然環境の劣化や利用快適度の低下が発生している。着手済みの取り組みは、エコツーリズム推進法に基づく全体構想を策定、立入上限数の設定等の保護措置を講じる対象となる特定自然観光資源を設定、地元自治体において観光ガイド事業者に対する免許制等を導入、等が挙げられる。

今後の取り組みの構想としては、特定自然観光資源エリアへの立入りに関し、上限人数規制の導入、ガイド同伴義務の導入・有料化、行動ルール遵守のため地元ガイドの養成や観光客向けのマナー啓発プログラムの作成、等が考えられている。

資料8は、宮島・宮島口の需要の分散・周遊促進等の取り組みである。宮島口・宮島桟橋やロープウェー等の混雑、数カ所の代表的スポットへの観光客の集中、ごみ等による地域への負担が課題となっている。着手済みの取り組みは、宮島口の新旅客ターミナル供用開始、宮島訪問税の徴収開始、フェリーへのキャッシュレス決済導入、通過交通を高速道路に転換させる料金施策の社会実験、パーク&ライド等の取組実施、等が挙げられる。

今後の取り組みの構想は、宮島桟橋旅客ターミナルの改良による処理能力増強、 手ぶら観光の推進、宮島口周辺道路、厳島神社、表参道商店街等主要スポットの混雑状況を一元的にリアルタイム発信すること、等が考えられている。

資料8 宮島・宮島口【需要の分散・周遊促進等】の事例
資料8 宮島・宮島口【需要の分散・周遊促進等】の事例

4.おわりに

前編では、インバウンドの状況を確認したうえで、オーバーツーリズムの現状と政府の対応をみた。また、本後編では、地方部への誘客に必要となる、高付加価値なインバウンド観光地づくり(11モデル地域)とオーバーツーリズム対策「先駆モデル20地域」のうち主要な取り組みを見てきた。

本年4月の外電では、海外で訪日旅行を扱う旅行会社の幹部のコメントとして、訪日客が増加するなかで、バスやガイド、通訳などのサプライチェーンが不足していて、日本は準備不足だと紹介している(トラベルボイス、2024年4月5日)。マナー違反や過度な混雑などで生活への影響が大きくなって、不満のたまる地域住民と同時に、訪日外国人旅行者にとっても過度な混雑などで満足度の低下を招いており、訪日外国人旅行者数の伸びにも影響を与える懸念がある。

「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」の第2章のように、地方誘客の受け入れ側も魅力度を向上させ、送り込む海外の旅行会社にも地方部の魅力を発信し続け、地方誘客を支援してもらう努力が必要だ。上記「対策パッケージ」の中で挙げられている、手ぶら観光(京都)や混雑状況を考慮した、空いている観光ルートの提案による誘導(箱根・秩父エリア)などについて、実際に導入したのか、オーバーツーリズム対策としていかなる効果があったのか、政府は効果測定を早急に進め、次なる対策につなげていただきたい。速やかな効果測定や事例の共有化は日本全体の観光に裨益すると思われる。様々な対策にはこれを一つやればよいという特効薬はなく、国や地方自治体としても試行錯誤の状態だ。今後とも、持続可能な観光に向けて、「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを目指して、不断の努力を続けなければならない。

以 上

【注釈】

  1. 高付加価値旅行者とは、着地消費(交通費などを除いて、純粋に観光地で消費する金額)100万円以上/人の訪日外国人旅行者。

  2. 二次交通とは、拠点となる空港や鉄道の駅などから、観光目的地までの交通手段のこと。

  3. パーク&ライド駐車場とは、自動車を駅周辺の駐車場に停めて(パーク)、電車やバスに乗り換えてもらう(ライド)ことで、自動車利用を抑制するための方策の1つ。

【参考文献】

今泉 典彦


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。