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オーバーツーリズムの現状と対策(前編)

~政府の対策パッケージの実行は待ったなし~

今泉 典彦

要旨
  • 筆者が経団連観光委員会企画部会長として、観光に約10年間向き合ってきた中で、コロナ禍を挟んで深刻化してきた最も大きな問題は、オーバーツーリズムの問題である。国内外の観光需要は急速に回復し多くの観光地が賑わいを取り戻しているが、都市部を中心とした一部地域への偏在傾向も見られ、観光客が集中する一部の地域や時間帯等によっては、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度の低下への懸念も生じている。
  • 訪日外国人旅行者数は、2022年10月の水際措置の緩和以降、堅調に増加傾向となり、2023年の訪日外国人旅行者数は2,507万人と、コロナ前2019年(3,188万人)の79%の水準まで回復した。訪日外国人旅行消費額は、2023年には5兆3,065億円と、コロナ前の2019年の4兆8,135億円を上回って過去最高を記録し、年間5兆円という政府目標を早くも達成した。
  • 政府の観光立国推進閣僚会議は2023年10月、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定した。「1.観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応」では、混雑する路線バスから地下鉄への分散促進、手ぶら観光の実証導入、実情に応じた入域管理や異なる需要に対応した運賃・料金の柔軟な設定など、短期的に考えられる対応策が概ね出揃っている点は大いに評価したい。考えられる対策は出来ることから速やかにすべてやるべきだ。
  • 「3.地域住民と協働した観光振興」が今回のパッケージのなかで最も重要である。観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しつつ、持続可能な観光地域づくりを実現するためには、地域自身があるべき姿を描いて、地域の実情に応じた具体策を講じることが有効である。
  • インバウンドの延べ宿泊者数をみると、宿泊先は、三大都市圏の割合が2019年の62.7%から2023年には72.1%に増え、コロナ前に比べて都市部への偏在傾向が強まっている。この状況を踏まえ、「地方部への誘客の推進」を含めて、政府のオーバーツーリズム対策パッケージの速やかな実行が求められている。
目次

1.はじめに

筆者が経団連観光委員会企画部会長として、観光に約10年間向き合ってきた中で、コロナ禍を挟んで深刻化してきた最も大きな問題は、オーバーツーリズムの問題である。国内外の観光需要は急速に回復し多くの観光地が賑わいを取り戻しているが、都市部を中心とした一部地域への偏在傾向も見られ、観光客が集中する一部の地域や時間帯等によっては、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度の低下への懸念も生じている、いわゆるオーバーツーリズムが深刻化しており、適切な対処が必要となっている。本前編では、春の行楽シーズンのなかでインバウンドの状況とオーバーツーリズムの現状と対策について触れてみたい。

2.インバウンドの状況

訪日外国人旅行者数は、新型コロナの影響により、2020年以降、大幅な落ち込みを見せたが、2022年10月の水際措置の緩和以降、堅調に増加傾向となった。2023年の訪日外国人旅行者数は約2,507万人と、コロナ前2019年(3,188万人)の79%の水準まで回復した(資料1)。月次ベースでみると、2024年4月の訪日外国人旅行者数は約304万人と2019年同月比では104%増となり、昨年10月から7か月連続でコロナ前の水準を回復した。四半期でみても、1~3月の累計で約856万人と過去最高となった。韓国、台湾、フィリピン、米国、香港などからの訪日客が伸びたのがその要因だ。

資料1 訪日外国人旅行者の推移
資料1 訪日外国人旅行者の推移

訪日外国人旅行消費額は、2023年には5兆3,065億円と、コロナ前の2019年の4兆8,135億円を上回り過去最高を記録し、年間5兆円という政府目標(注1)を早くも達成した(資料2)。国籍・地域別では、台湾7,835億円(構成比14.8%)、中国7,604億円(同14.3%)、韓国 7,392億円(同13.9%)、米国6,070億円(同11.4%)、香港4,800億円(同9.0%)の順で多く、これら上位5カ国・地域で全体の63.5%を占めた。また、訪日外国人旅行消費額単価(注2)は21.3万円(2019年比34.2%)となり、政府目標である20万円を超えた。宿泊費、娯楽サービス費、交通費が伸びているが、これは平均宿泊数が伸びたことに加え、円安・物価上昇の影響等が考えられる。2024年1~3月期の訪日外国人消費額は約1.8兆円で四半期として過去最高を記録した。

資料2 訪日外国人旅行消費額の推移
資料2 訪日外国人旅行消費額の推移

3.オーバーツーリズムの現状

オーバーツーリズムとは、「特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、市民生活や自然環境、景観等に対する負の影響を受忍できない程度にもたらしたり、旅行者にとっても満足度を大幅に低下させたりするような観光の状況」(平成30年度版観光白書)をいい、観光公害ともいわれている。従来、観光資源は風光明媚な景色や名所旧跡など、地域住民の生活と分断されていたが、コロナ前のインバウンドが急増する過程では、地域文化や生活そのものも観光資源となり、日常的な生活文化を体験する旅行形態が浸透した。地域住民が鉄道やバスに乗車できない、クルーズ船の着港時の交通渋滞といった混雑の問題や、路上等へのゴミのポイ捨て、芸舞妓に対する無断写真撮影、農家の私有地である畑や花畑への無断侵入などのマナー違反の問題が頻発している(資料3)。筆者も2024年4月に京都に旅行したが、京都駅周辺は日本人よりも外国人の方が多い印象があり、清水寺、金閣寺など主要観光地へ向かうバスは増便されているものの、これを上回る乗客によりバスターミナルや車内が非常に混雑していた。地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度の低下への懸念といったオーバーツーリズムが今まさに深刻化していると実感したところである。なお、筆者が部会長を務める経団連観光委員会企画部会でも、現在オーバーツーリズムの現状と対策について議論している。

資料3 地域において発生している事例
資料3 地域において発生している事例

4.オーバーツーリズムへの政府の対応

政府の観光立国推進閣僚会議は2023年10月、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定した。基本的な考え方は、観光客の集中による過度な混雑やマナー違反への対応を図るとともに、都市部への集中を緩和するために、地方部への誘客を推進すること、地域住民と協働した観光振興を進めるというものである。まず、同パッケージで示された、過度の混雑やマナー違反への対応策は以下の通り(資料4)である。

この「1.観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応」では、混雑する路線バスから地下鉄への分散促進、手ぶら観光の実証導入、タクシー不足に対応する緊急措置の導入、実情に応じた入域管理や異なる需要に対応した運賃・料金の柔軟な設定など、短期的に考えられる対応策が概ね出揃っている点は大いに評価したい。考えられる対策は出来ることから速やかにすべてやるべきだ。長編成車両の導入や鉄道駅改良、歩行空間の拡大など中長期的な対策についてはしっかりと政府が支援することが必要である。また、マナー違反行為の防止・抑制の観点では、違反の防止策としての私有地・文化財等への防犯カメラの設置支援のほか、統一的なピクトグラムの策定、看板やデジタルサイネージ等の設置・多言語での情報提供などを進め、旅マエからの意識啓発や旅ナカの取組も非常に重要となる。

資料4 観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応
資料4 観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応

資料5は、「2.地方部への誘客の推進」である。このタイトルのように、都市部を中心とした一部地域への集中を是正し、全国津々浦々あまねく観光客を呼び込んでいくことは何より重要である。全国11のモデル地域において、地域のコアバリューを磨き上げ、それを体感できるコンテンツや宿泊施設の充実によって潜在的な価値を向上させ、高付加価値な地方部の観光地づくりを促進していく、そして現在課題とされている地方部での旅行環境やサービスを速やかに改善していくことが必要だろう。例えば、地方部では外国語表記が不足しており、レストラン等の予約を含む旅行プランニングが難しい、外国語で対応できる観光ガイドが少ない、空港を降りてからの交通の便、いわゆる二次交通のコネクションが良くない、などが課題として指摘される。人材の問題やインフラの問題など一朝一夕で対応できるものではないが、地方自治体と観光地域づくり法人(DMO)が連携して対応策をつくることも重要な選択肢だ。

資料5 地方部への誘客の推進
資料5 地方部への誘客の推進

資料6 地方住民と協働した観光振興
資料6 地方住民と協働した観光振興

資料6は、今般の対策パッケージの中で最も重要な「3.地域住民と協働した観光振興」である。観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しつつ、持続可能な観光地域づくりを実現するためには、地域自身があるべき姿を描いて、地域の実情に応じた具体策を講じることが有効であり、国としてこうした取組に対し総合的な支援を行うことが重要ではないか。地方自治体・DMOや事業者が地域住民に積極的に取組を働きかけることが必要である。

5.まとめ

本前編では、インバウンドの状況を見たうえで、オーバーツーリズムの現状と政府の対応を見てきた。

インバウンドの好調の背景には、1990年以来、34年ぶりとなる円安水準による旅行費用の低下や米国などの好景気などがあろう。インバウンドの増加は地域での消費や投資、現地雇用につながり、人口減少の影響を少なからず緩和する。前述のとおり、政府は都市部を中心とした一部地域への集中を是正し、全国津々浦々あまねく観光客を呼び込んでいくことが重要であるとして、オーバーツーリズム対策の2番目の柱として、「地方部への誘客の推進」を挙げた(資料5)。その一方で、インバウンドの延べ宿泊者数をみると、宿泊先は、三大都市圏の割合が2019年の62.7%から2023年には72.1%に増え、コロナ前に比べて都市部への偏在傾向が強まっている。この状況を踏まえ、「地方部への誘客の推進」を含めて、政府のオーバーツーリズム対策パッケージの速やかな実行が求められている。

なお、後編では、政府の対策パッケージの中の、地方部への誘客に必要となる高付加価値なインバウンド観光地づくり(11モデル地域)とオーバーツーリズム対策「先駆モデル20地域」について論じてみたい。

<続く>

【注釈】

  1. 2023年3月に策定された「観光立国推進基本計画」で示された目標としては、持続可能な観光地域づくりに取り組む地域数(2025年:100地域)、訪日外国人旅行消費額(早期に5兆円)、同単価(2025年:20万円/人)、訪日外国人旅行者一人当たり地方部宿泊数(2025年:1.5泊)、国際会議の開催件数割合(2025年:アジア最大の開催国)などがある。

  2. 訪日外国人旅行消費額には、宿泊費、飲食費、交通費、娯楽サービス費、買い物代等が含まれる。

【参考文献】

今泉 典彦


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