時評『「先進医療」制度を利用した再生医療』

島田 勇作

「先進医療」は、未だ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術等を、保険診療との併用を認めることにより、患者の負担を軽減しながら治療実績を積み重ねて将来的な保険導入を目指す制度になります。2004年12月に、国民の安全性を確保し、患者負担の増大を防止するといった観点も踏まえつつ、国民の選択肢を拡げ、利便性を向上するという観点から始まりました。2025年6月1日現在で77種類の「先進医療」が認められています。

「先進医療」を受けた時の費用は、患者が全額自己負担することになります。「先進医療」以外の通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の「保険診療」と同様に保険給付の対象となり、自己負担額が軽減されます。日本では、「保険診療」と「保険適用外の診療」の併用は、「混合診療」として原則禁止されており、「混合診療」を行った場合は全額自己負担となっています。しかし、「保険適用外の診療」でも一部の療養(「評価療養」・「患者申出療養」・「選定療養」)は、「保険外併用療養費制度」として「保険診療」との併用が可能となっています。「先進医療」は「評価療養」のひとつで、「保険診療」との併用が認められ自己負担額が軽減されます。しかし、「先進医療」の中には、悪性腫瘍の治療等に行われる「重粒子線治療」や「陽子線治療」などは300万円前後の自己負担が必要です。さらに、肺の浸潤がんの切除手術の前後(周術期)に、免疫チェックポイント阻害薬を点滴で静脈に注入する治療法「周術期デュルバルマブ静脈内投与療法」は900万円以上の自己負担が必要となります。しかも、「保険診療」部分は、「高額療養費制度」を活用することで自己負担額を軽減することが可能ですが、「先進医療」の費用は「高額療養費制度」を活用できないため「先進医療」による治療を費用面から諦めるという選択をせざるをえないこともあります。そのため、安心して治療に専念していただけるように、生命保険会社等では、「先進医療」の費用(技術料)と同額を保険期間を通じて(会社、商品により異なりますが)2,000万円までお支払いするような「先進医療特約・保険」などの商品を提供しています。さらに、商品によっては、技術料が高額である「陽子線治療」、「重粒子線治療」を対象として先進医療給付金(技術料と同額)を生命保険会社等から医療機関へ直接お支払いするサービスなども行っています。

この「先進医療」に、2025年2月に開催された厚生労働省の「第140回先進医療会議」にて、iPS細胞から作った目の網膜細胞を「網膜色素上皮不全症」という重い目の病気の患者にひも状に加工して移植する治療が、技術名「網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種iPS細胞由来RPE細胞凝集紐移植」(費用1436万2千円)として「先進医療」の新規届出(申請)がされました。今後、厚生労働省で審議されますが、申請が認められればiPS細胞を使用した治療としては初めての「先進医療」となります。

iPS細胞は、2006年に世界で初めて作製に成功してから20年近くが経過していますが、再生医療だけでなく病気の原因究明や新薬の開発(創薬)などさまざまな分野で応用されています。しかし、iPS細胞による再生医療は、高額な研究費や治療費用等がネックになり、なかなか本格的な実用化に至っていません。

今回の申請により、iPS細胞による再生医療が「先進医療」に認められれば、医療機関は必要な費用を「先進医療に係る費用」として患者から得ることができ、患者は「先進医療特約」等に加入していれば、高額な自己負担額を先進医療給付金で支払うことができることになり、今まで以上に、iPS細胞による再生医療を受けやすくなります。さらに「先進医療」による治療の有用性が認められれば、公的な医療保険が適用になり本格的な実用化が進んでくるものと思われます。

今後、更なるiPS細胞による再生医療が「先進医療」に申請されるものと思われますので、生命保険会社等も「先進医療特約・保険」の新たな商品サービスの提供、保険料率の設定などの検討が必要になると思われます。

島田 勇作


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。