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ここが知りたい『Withコロナ/Afterコロナの観光はどうなるのか』

今泉 典彦

目次

観光需要が蒸発した2年間

新型コロナウィルス感染症の発生から2年半近くが経って、世界的に感染防止と経済社会生活の両立が考えられるようになってきた。

振り返ってみれば、わずか2年半前まで国策としての観光立国実現に向けて、訪日外国人旅行者数2020年4,000万人、2030年6,000万人という目標を掲げるなかで、2019年には3,188万人と2020年のオリンピック・パラリンピックイヤーの目標達成が視野に入っていた。それが今回の新型コロナのパンデミックにより、世界中で旅行需要が蒸発した。訪日外国人旅行者数は、コロナ禍前の2019年比でみると、2020年3月から▲90%以上の減少幅で推移し、日帰りを含む日本人国内旅行消費額も2019年と比較するとそれ以降も大幅な減少が続いている。年次ベースでみても、国内宿泊業の客室稼働率(資料1)は、施設タイプ別にみて、シティホテルは2019年までの約80%程度から直近2年間は34%程度まで減少、旅館業では約40%の水準から20%強の水準にまで落ち込んでいる。輸送業でみても2021年の国内旅客輸送量(JR+民鉄)は、テレワークの普及による通勤客の減少や外出制限等の影響を受けて直前ピークの2019年比でみて▲28%の大幅減少となっている。

ここにきて、1月以来のまん延防止等重点措置の解除等によってようやく「Withコロナ」のなか、感染拡大防止と社会経済活動の両立が動きだしているようだ。ただし、ワクチンの普及、経口治療薬の実用化等が進むなかでも、世界的規模で海外旅行者が復活し、コロナ以前の活況を取り戻すには数年間はかかると考えておいたほうがよいだろう。

今すべきこと―短期的な出口戦略と中期的視点

今すべきこと、すなわち、短期的な出口戦略としての課題は水際対策の緩和と国内観光需要の創出だろう。3月以降、出入国管理政策を転換し段階的に入国枠の緩和が図られている。今後も科学的知見や感染状況を踏まえて、政府の渡航先諸国の感染症危険レベルを見直すことにより海外赴任・出張や留学をしやすくすることが求められる。また、入国審査の効率化、到着地での検査の簡素化を進め、入国者について一日あたりの受入れ人数枠を撤廃して自由な国際的往来が可能となるようにすべきである。

需要創出の面では、国内の潜在需要の掘り起こしやGo toトラベルキャンペーン、Go toイートキャンペーンの円滑な再開が重要なキーを握る。Go toトラベル事業は2020年の夏にスタートし、同年秋の国内旅行の回復に大きく貢献した。今後は太く短くではなく、細く長く支援を継続すべきであろう。

中期的な視点では、ワーケーションの定着・推進に向けた仕組みづくりも必要である。ワーケーションは仕事と旅行の両立を可能とし、平日への旅行需要の分散化や滞在期間の延長につながる。わが国の観光産業では年間旅行量の約4割がゴールデンウイーク、お盆、年末年始等のピーク期間に集中していることから、労働平準化や効率的な設備投資を阻害し、生産性を押し下げている側面がある。こうした需要の平準化のほか、価格の適正化、国際MICEの誘致等も観光産業の多様化・高付加価値化には欠かせない。

現在の観光業界は外部要因の影響を受けやすく、もろさを包含している。今回のコロナ禍でわかったように、不要不急のものと捉えられた感があり、観光の使命への社会的理解が得られていない。そこで、地域発展への観光の貢献を高め、広く発信していくことで、欠かすことのできない産業としての地位を確立するとともに、持続可能でレジリエントな観光を実現していくことがとりわけ重要である。

人口減少が進むわが国において、訪日外国人旅行者数の拡大は経済社会を活性化するために必要不可欠な取り組みである。新型コロナの状況を踏まえながら、その本格再開に向けて、安心・安全の確保を前提としたプロモーションの積極的な展開が求められる。各種の訪日外国人旅行者意識調査では、新型コロナ収束後に旅行したい国・地域として日本は上位を占めており、このチャンスを活かして他国に遅れることなく需要を獲得していく必要がある(資料2)。

施設タイプ別客室稼働率の推移
施設タイプ別客室稼働率の推移

次に海外旅行をしたい国・地域
次に海外旅行をしたい国・地域

新しい旅のかたち①―SDGsの体験

前述したように、コロナ禍において観光業界の内外需要は蒸発し、多くの観光業者がこの2年間苦しんできた。一方で、観光業界のなかではこのピンチをチャンスに変えるべく、「新しい旅のかたち」に注力する動きも出始めている。地球環境保護やそれをも包含するSDGsの目標達成に向けた取り組みなどである。

事例の一つは、徳島県上勝町「ゼロ・ウェイスト政策」である。HP等によれば、廃棄物ゼロの町として知られるようになった徳島県上勝町は、2003年に日本の自治体として初めて「ゼロ・ウェイスト政策」を宣言することで、地域住民や企業と連携し、2020年までに廃棄物ゼロを目指して町民一人ひとりがごみ削減に努めることで、リサイクル率80%以上を達成した。さらに、「未来のこどもたちの暮らす環境を自分のこととして考え、行動できる人づくり」を2030年までの重点目標に掲げ、再びゼロ・ウェイストを宣言し、残りの20%のごみ削減を目指す。2020年5月末に上勝町に開業したホテルに宿泊することで先進的なゼロ・ウェイスト政策を学び、体験ができることで注目されている。

新しい旅のかたち②―デジタルとの融合

「新しい旅のかたち」として、デジタル技術の有効活用も重要であろう。例えば、国立公園等の自然環境に映像や音響技術を融合させることでナイトウォークの商品を造成している事例や、スマートフォン等を活用したAR(拡張現実)により、星空観賞での体験のスケール感や臨場感を高めたり、文化遺産等の情報を迅速に提供したりする取り組み事例もある。

また、VR(仮想現実)など、オンラインを活用した観光コンテンツの造成もさらなる発展の可能性を秘めている。一般公開されていない文化遺産の見学や美術館等のバーチャルツアーはこのコロナ禍で導入が進んでおり、一過性のものとせずに、大きく育てていくための取り組みが重要である。当研究所が全国の満18~69歳の男女約18,000人を対象に行ったアンケート調査(2021年2月)によれば、「オンライン観光」に参加したことのある人のうち、「オンライン観光で見聞きした場所に以前より関心を持った」と答えた人は71%に上った。オンライン観光には観光地に対する関心を高め、需要を喚起する効果があるといえる。Withコロナ/Afterコロナの観光の復活する姿は明らかにコロナ前までの姿とは異なるものとなろう。

今泉 典彦


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