時評『VUCAの時代こそ自社変革の歴史から学ぶ~「羅針盤」を持って、微修正の「Quality Journey」は続く~』

丸野 孝一

2022年は当社親会社である旧第一生命保険相互会社(現第一生命ホールディングス・第一生命保険株式会社)の創立120年目となる。また当研究所は前身のライフデザイン研究所設立から35年、第一生命経済研究所設立から25年の節目の年を迎える。この場を借りて本レポート読者の皆さま、また設立以来当社に多大なるご支援を賜っている多くの方々に感謝を申し上げたい。

先日、第一生命も設立メンバー会社の一社である経営品質協議会主催の顧客価値経営フォーラムに出席して、「VUCAの時代にどう未来を想像・改革し続けるか」のディスカッションから一つの気づきを頂いた。歴史の長い企業では、変革のスピードが遅い、環境変化対応力が弱いなど負の遺産を引き継いでいるものだが、一方で、先輩経営者たちが先の読めない環境で変革を続けてきた歴史から多くを学ぶこともできる。

創業者矢野恒太翁は、1902年、「契約者第一主義」を標榜して初の相互会社形式の生命保険会社である第一生命を、今でいうベンチャー企業として立ち上げた。創業後数年間、翁は生命保険を販売するより相互主義を広く社会に普及することが主な活動だったようだ。しかし、2年後の1904年には2番目の生命保険相互会社が設立され、また戦後は多くの保険会社が相互会社となった。そして第一生命が掲げた契約者第一主義は、いまではお客さま第一主義、カスタマーファーストとして多くの企業のミッションやバリューの一つとなっている。

昭和18年、中国大陸での生命保険営業を伸ばしてきた第一生命はついに売上げ業界トップが見えてきた。時の石坂泰三社長(第2代経団連会長)は矢野会長にこの吉報を伝えると、会長は石坂に対して「お客さまの最良を追求する会社を創ったのだから、石坂君、規模の競争はしないでくれ」と応えたという。「最大たるより最良たれ」として後輩の我々に伝えられているエピソードである。

1951年に創業者が亡くなると、リーダーを失った第一生命は長らく業績が低迷したが、1974年営業体制を大変革する「新制度」という大博打に出る。課長時代にそれをリードして第10代社長となった櫻井孝頴は、後に自らの経験をもとに、「追い込まれた企業が社運を賭けた大変革を起こして、万一成功するなんてことをしてはだめだ」と、大変革の危うさを後輩の我々に常に諭し、「微修正の勝利」という言葉を残した。そして常に環境変化に敏感であれと、経営の「羅針盤」機能を担う当社、第一生命経済研究所を設立した。 

さらに櫻井は、「微修正」する経営のフレームワークとして、米国発のマルコム・ボルドリッジ国家経営品質賞の日本版である日本経営品質賞の導入を決断した。そこで学んだ言葉が「Quality Journey」である。終着点の見えない永続的な経営の質の改善=顧客視点での「最良」を永遠に追求する経営(「顧客価値経営」)こそまさに「Quality Journey」ではないか。経営品質は第14代現社長の稲垣まで引き継がれている。VUCA時代だからこそ、学び・挑戦・学びの「微修正」を続けていくしかない。この永続的な旅の重要性を私淑する企業経営者の討論から教えられた。

相互主義の父であった矢野翁は晩年、顧客視点の経営であれば会社は相互会社でも株式会社でも大きな差はないと「微修正」している。そして第一生命は2010年株式会社化・2016年ホールディングス設立と「Quality Journey」を続ける。当社はいま、経営の「羅針盤」としてSDGsとWell-beingを北極星として示している。また、経営品質についても「顧客価値経営」として顧客・株主視点だけでなく、地域・社会・環境も含めたマルチステークホルダー視点に「微修正」している。VUCA時代も、この「羅針盤」機能と「Quality Journey」の企業文化が、我々に大いなる勇気を与えてくれるものと信じている。

丸野 孝一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。