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2024.03.11
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ペルー中銀、インフレ警戒で利下げ局面を休止させるなど慎重姿勢を維持
~金利据え置きの一方で預金準備率引き下げで景気下支えも、難しい対応を迫られる局面は続こう~
西濵 徹
- 要旨
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- ペルーでは過去3年半以上に亘ってインフレが中銀目標を上回る推移が続く。中銀は2021年後半以降に累計750bpもの利上げに動いたほか、昨年は反政府デモが活発化して幅広く経済活動の足を引っ張った。結果、昨年の経済成長率は▲0.6%とマイナス成長となり、昨年後半はテクニカル・リセッションに陥っている。商品高や米ドル高の一巡により昨年以降のインフレは頭打ちしており、中銀は一転利下げに動いている。ただし、中南米では利下げの動きが広がるが、ペルー中銀はインフレを警戒して慎重姿勢を維持した。
- 2月のインフレは底打ちしており、足下生活必需品を中心にインフレ圧力が強まる動きがみられる。こうしたなか、中銀は7日の定例会合で7会合ぶりに政策金利を据え置く一方、来月から預金準備率を引き下げるなど緩和政策の側面支援を決定した。そして、先行きのインフレは鈍化するとの見通しを示している。足下の通貨ソル相場は頭打ちの動きが一変するなど輸入インフレの懸念が後退しているようにみえる。しかし、政治を巡る不透明感が高まる懸念もくすぶるなかで中銀は難しい対応を迫られる展開が続くであろう。
ペルーにおいては、異常気象による歴史的大干ばつが続いたことに加え、商品高や国際金融市場における米ドル高の動きも重なり、過去3年半以上に亘ってインフレ率が中銀目標を上回る推移が続いている。こうした事態を受けて、中銀は2021年後半以降に物価と為替の安定を目的に累計750bpもの断続利上げに動くなど難しい対応を迫られる事態に直面した。他方、一昨年末にカスティジョ前大統領が弾劾により失職したほか、その後に副大統領であったボルアルテ氏が大統領に昇格した上で政権発足に動いたことに対してカスティジョ氏の支持者による反発が強まり、反政府デモが活発化して幅広く経済活動に悪影響が出た。結果、昨年の経済成長率は▲0.6%と前年(+2.7%)から3年ぶりのマイナス成長となるなど景気は足踏み状態が続いている上、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期に年率ベースの成長率も昨年後半は2四半期連続のマイナス成長となるテクニカル・リセッションに陥るなど深刻な状況にある。このように景気は勢いを欠く推移が続くなか、一昨年末以降は商品高と米ドル高の動きが一巡したことで高止まりしたインフレが頭打ちに転じたため、中銀は昨年9月に一転して利下げに動いた。なお、同国を含む中南米諸国ではインフレ鈍化を理由に利下げに動く流れが広がりをみせているものの、それまでの利上げが他の新興国と比べて大幅であったことで実質金利(政策金利-インフレ)はプラス基調で推移するなど投資妙味が相対的に高いことから、米FRB(連邦準備制度理事会)は引き締め姿勢を維持する展開をみせているにも拘らず、各国通貨は堅調な推移をみせた。こうした動きも追い風にその後もインフレは頭打ちの動きを強めており、同国中銀も6会合連続で累計150bpの利下げを実施する一方、中銀は慎重姿勢を崩さない動きをみせてきた(注1)。この背景には、昨年以降のインフレは頭打ちの動きを強めているものの、足下においてはエルニーニョ現象など異常気象の頻発を理由とする穀物や生鮮食料品をはじめとする食料インフレの動きが顕在化しているほか、昨年末以降の国際原油価格の底入れの動きを反映してエネルギー価格も上昇するなど生活必需品を中心にインフレ圧力が強まっていることがある。さらに、昨年末以降の国際金融市場では米ドル高の動きが再燃するとともに通貨ソル相場は頭打ちしており、年明け以降は政局を巡る動きに不透明感が高まるなかでソル安の動きが強まるなど輸入インフレ懸念が高まることが懸念されたことがある。また、昨年1月をピークにインフレは頭打ちの動きを強めたことで先行きはその反動が出ることが懸念されたなか、2月のインフレ率は前年比+3.29%と前月(同+3.02%)から加速に転じているほか、コアインフレ率も同+4.24%と前月(同+4.24%)から横這いで推移するなど変化の兆しがうかがえる。
こうしたなか、中銀は7日に開催した定例会合において政策金利を7会合ぶりに6.25%に据え置くなど利上げ局面を休止させる一方、来月から預金準備率を50bp引き下げて5.50%とするなど昨年9月以降の緩和局面の効果を側面支援する決定を行っている。上述のように2月のインフレは加速に転じる動きをみせているものの、この動きについて同行は一時的なものである可能性が高いとの見方を示すとともに、先行きについては鈍化傾向が続いて今後数ヶ月以内に中銀目標の域内に収束するとの見通しを示している。他方、世界経済の見通しについてはインフレ鈍化の動きを追い風に緩やかな回復が見込まれるとしつつ、地政学リスクに関連した問題やそれに伴う燃料価格や輸送価格の上振れが懸念されるとの見方を示している。その上で、先行きの政策運営については、インフレ期待や景気動向に注意を払いつつ必要に応じて追加的な変更を検討するとしつつ、インフレが予測期間中に目標域に回帰することを確実にすべく必要な措置を採るとのコミットメントを再確認するとの考えを示している。一方、上述のように昨年末以降の通貨ソル相場は米ドル高の再燃や政局を巡る不透明感の高まりを追い風に調整する動きがみられたものの、足下においては米ドル高圧力が後退していることを受けてソル安の流れが変化しつつある。さらに、今月6日に国会は憲法改正案を賛成多数で可決しており、1993年に制定された現行憲法において一院制に変更されたものの、改正により二院制が復活することが決定しており、次回の大統領選及び総選挙後に導入される。なお、現行憲法は当時のアルベルト・フジモリ政権が自由主義に基づく経済改革とテロ対策の強化を円滑にすることを目的に議会の閉鎖と憲法停止に動いた後に制定された経緯がある一方、国会のチェック機能強化や政治安定を目的にここ数年に亘って国論を二分する形で議論がなされてきた。2018年に当時のビスカラ政権が実施した憲法改正に関する国民投票においては、二院制の復活に関する議題は9割以上の反対となる形で否決されたものの、政権交代後に国会内において議論が再び活発化したほか、昨年11月に実施された1回目の採決では憲法改正に必要な3分の2以上の議員が賛成し、6日には決定に必要となる2回目の採決が実施された。国会が憲法改正による二院制復活に動く背景には、次期大統領選においてケイコ・フジモリ氏が『4度目の正直』による当選を目指すなか、昨年末に大統領在任中の人権侵害や汚職などを理由に禁錮刑を受けたアルベルト・フジモリ氏が釈放され、政治活動を再開させるなどケイコ氏の後ろ盾となる動きを活発化させていることも影響していると考えられる。足下のソル相場は底入れの動きを強めているものの、次期選挙を巡って政局の不透明感が再び高まる可能性も懸念されるなか、インフレリスクもくすぶるなかで実体経済の弱さを理由に頭打ちの様相を呈することも考えられる。インフレ鈍化の動きが一巡する兆しがうかがえるなかで今後の中銀は難しい対応を迫られる局面に直面するであろう。
注1 2月14日付レポート「ペルー中銀、6会合連続の利下げにも拘らず「慎重姿勢」を崩せず」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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